【追憶の余韻】噂の真相~後編~
2016年07月23日
@KIDの実録体験怪談記
【追憶の余韻】シリーズ
『噂の真相』
~後編~
古今東西、
マコトシヤカに囁かれる様々な怪談、奇談、噂話
その多くは、
話の原題となる事件、事故等、実際にあったなんらかの出来事がキッカケとなり、
そこに様々な人達の、様々な妄想や願望が折り重なって、形造られる
いわば、人間の心の裏側に潜む、歪んだ幻想(ファンタジー)なのである。
『旧生駒トンネルの近くに呪われた廃屋があり、その廃屋には牢屋の様な地下室がある、そしてその地下室は、旧生駒トンネルの内部へと繋がっている』
そんな噂を聞き付けた俺達が、
その噂の真相を調査した結果
その廃屋は確かに存在した
が、
そこにあった地下への通路は、ただの段違いになった一階部分への階段だった
地下室の牢屋も、旧トンネルへの通路も
実際には存在しなかったのだ
『まぁ、所詮噂なんてそんなものだよ』
とよくある話の落ちを一笑に伏し
俺達は一時、日常に戻っていった…
それから数ヵ月後
俺は次なるオカルト計画の為に、入念な情報収集とその準備に取り掛かっていた
その計画とは
『旧生駒トンネル内部への侵入計画』
だった
旧生駒トンネルは俺が始めて探索した思い入れのある心霊スポットで、
当初は厳重に封鎖されたトンネルの目の前までしか行けなかった
旧生駒トンネルは近畿鉄道会社の管理下に有り、
有刺鉄線付きの高いフェンスやトンネルの入り口や内部に設置された堅重な二重の鉄扉、さらにトンネル内部には警備会社が管理する監視カメラや警報装置等
厳重な警備体勢が挽かれた難攻不落の廃トンネルで、
歴史上その警備網を越えた者は一人もいないのだ
ほとんどの奴はフェンス越しにそのトンネルを眺めるか、
さらに根性のある奴でも、フェンスを乗り越えトンネル入口の鉄扉前までしか踏み込めないのが現状だった
俺は当時、その鉄扉の小窓から覗くトンネル内部を睨みながら思った
このトンネルの本当の恐怖の中心はこの封鎖されたトンネルの中にこそある…
いつかこの厳重な警備網を抜けて
誰も見たことの無い恐怖の中心から見える景色が見たい、
誰も踏み込めなかった未踏の地を、この足で踏みしめたい…
俺のオカルト活動のモチベーションとなる前人未到への憧れはここから始まったのだ
そう、俺の心霊スポット探索の道はここから始まった
だから最終目標もこのトンネルでありたい
そう考えていた俺は、何度もこのトンネルに足を運び、監視カメラや警報装置の位置、さらに実現可能な侵入ルートを探し、幾度も侵入のシミュレートを重ねていたりした
そんな調査が終盤を迎えた頃、
最終確認の為、再度このトンネルを調査する予定を立てていた俺は、この最終調査の為にもう一人の助手をホラホリメンバーに依頼していた
ちょうどその時、他のメンバーは皆予定が重なっていて、唯一予定が合ったのは、他ならぬホラーホリックの幹部メンバーであるT-bagくん、
通称Tくんだった
彼を連れて、再び旧トンに訪れた俺は、
用意した幾通りかの侵入パターンの最終確認の為、Tくんにも手伝って貰いながらトンネル周辺を入念にチェックしていた
ある程度チェックが終わり、Tくんと侵入計画について話している時
ふと、依然訪れた、不気味な廃屋を思い出し
『あ、そーだ、Tくんこの間の探索来てなかったから、一回あの廃屋見に行くか?雰囲気かなりキテるで?』
と何の気なしにT君を誘って、再度あの不気味な廃屋へと足を踏み入れたのだった
久々に訪れた廃屋内は、整然と朽ちていただけだった以前とは違い、何者かに荒らされた形跡が見られた
『あらぁ…俺らが勝手口開けてしもたから、そこから誰か入ったなこれ…』
なんでこんないい雰囲気の場所を荒らすかなぁ…勿体無い…
と探索マナーの悪い侵入者に遺憾の意を感じつつ
俺達は一通り屋内を探索し
恙無く脱出した
そういえば二階には行かなかった
俺が止めたんだけど、なんとなく行かない方が良い気がしたのだ
あの鏡に残された指文字が
:
タ
ス
ケ
テ
:
と書かれていたであろう事に
俺はなんとなく気が付いていたからだ
そうこうして廃屋の外に出た俺は
実は少し気掛かりだった、ある事を思い出し
Tくんに
『もうちょい付き合ってもらっていいか?』
と断りを入れた
それは
あの廃屋の庭の奥に見えた
あの赤茶けた鳥居だった
よくよく考えてみれば鳥居があるとゆう事は、何かの神社が近くにあるとゆう事なのだ
鳥居は神様の通る門だからな
しかし、地図を見てもこんな場所に神社なんて無い
ひょっとするとこの近くに地図からも抹消された廃神社があるのかもしれない
と、思っていた俺は
あの日の記憶を頼りに
Tくんを連れて鳥居が見えた場所に向かった
相変わらず雑草が凄い
この前よりも更に背丈が伸びた、幾重に絡まりあった雑草林は
俺達の背丈をゆうに越え、ほどんど廻りが見えない状態だった
感覚的にはあの有名な心霊ヒューマンドラマチック映画『Field of Dream』のトウモロコシ畑の中を潜り抜けている様な、
ちょっとニュアンスは違うが『となりのトトロ』でメイちゃんが、トトロのいる森へとくぐり抜けた雑木林の中みたいな
そんな鬱蒼と茂る雑草林を掻き分けて庭を抜ける
時間は既に夕方の7時を越え、あたりは夕暮れのオレンジ色に染まっていた
俗に言う、霊が動き出す時間帯
『逢魔ヶ刻』だ
シグシグと鳴くヒグラシの声が夕暮れに染み入るように消えて行き
山の陰に隠れた薄暗い山林の麓に
その鳥居はあった
やけにボヤッと歪んだような空気を纏うその鳥居の奥には
真っ暗な山中へと続く長い参道の坂道がある
俺はゴクリと生唾を飲み込んだ
坂道の先はほとんど闇に隠れて何も見えない
これはヤバイ…
暑かった陽射しは既に涼しさを越えて肌寒いくらい気温が下がっている
それなのにジトッとした息苦しい空気が辺りを包み込み
強烈な心霊スポット特有の嫌な雰囲気が満ちていた
『よ、よし、行くぞ?』
と後ろを付いてくるTくんに言いながら、
その言葉はまるで
自分自身に言い聞かせている様な気がしていた
俺はハンドライトを手に、足元を確認しながら真っ暗な坂道をゆっくりと登っていく、
Tくんはライトを持っていないので俺のすぐ後ろを付いてくる感じだった
夏の夜間の山中探索はこれが始めてではない
注意するべきは足元と、重心の確保、進行方向の確認
そして、何より虫だ
照らすライトの光に羽虫が寄ってくるのだ
俺は以前一人で山中探索している時に、大量の羽虫に周りを囲まれた事があって、
顔をタオルや帽子等でガードし、手で振り払いながら走って突破したことがある
あいつらは少しでも立ち止まるとすぐに包囲してくるんだ
それと蜘蛛の巣対策、真っ暗な山中で細い蜘蛛の糸は寸前まで近付かないと見えないので
俺は探索の時はいつも、蜘蛛の巣を切り裂く為のコンパクトな伸縮性のステンレス棒を携帯している
それを目の前で振り回しながら進むのだ
今回もそうして、坂道の階段を登っていくのだが、
その途中で俺は少し妙な事に気が付いた
ん?なんかいつもより蜘蛛の巣が少ない様な…
いや、蜘蛛の巣自体はある
見上げればそこかしこに蜘蛛の巣は張っていた
のだが、俺達の進行方向にだけ無いのだ
これは少しおかしい
本来こうゆう廃山道には進行方向に関係なく蜘蛛の巣が張り巡らされて、イチイチ切り裂いて進むのがとてもメンドクサイものなのに…
蜘蛛の巣ってのはどんなに大きいものでもほんの小一時間(約90分)で張られるので
誰かがこの道を通ったのだとしても、大抵の場合すぐに張り直される、
しばらく人が通らなければそれこそ白い幕のカーテンの様になる
それなのにこれは…
まるで、ほんの少し前に、この道を誰かが通ったかの様に、蜘蛛の巣がこの道を避けているみたいだった
俺は少し嫌な予感がした
しかし、ここまで来て引き下がる訳にもいかない
そんな不安を無理矢理押し込め
黙って付いてくるTくんを従えた俺は
黙々と山道を登っていく
暫く昇ると
道が2つに別れていた
更に上に向かう道と
下り坂で下に向かう道だった
俺はライトを山の上の方に向け照らしてみた
すると、かなり上の方の木々の隙間に白い倉のような建物が見えた
あ、あれ、もしかしたら神社かもしれない…
と登り坂を選択し更に登る俺達
しかし、少し進むとまた道が左右に別れていた
左の道は少し下りながら回り込むように登って行く
右の道は少し登りそのまま真っ直ぐ下っていった
俺達は、とりあえずさっき見えた建物を目指して左の道を選択する
すると少し進んでまた分かれ道だ
どうも建物までは全体的につづら折りの坂道の様になっているらしく
その後も何度も分かれ道を迎え、登ったり降りたりを繰り返しながら、建物を目指していった
気か付くと、
俺達は既に何処からどの道を通って登って来たのかわからないくらい前後不覚の状態に陥っていた
『おい、これ、どっち向いて進んでんだ?
ここどこだよ?』
登れども登れども、
一向に建物は近付いて来ない
おかしいな…
もうゆうに20分は歩いてるはずなのにまだつかない
ふ、と時計を見ると
信じられない現実が俺達を襲った
『えっ?ウソォ?
もう9時まわってるやん??』
俺達がこの山を登り始めたのが7時過ぎだったはず
とゆう事は
俺達の知らない間に
二時間も経過していたとゆう事だ…
『そんなアホな?』
あり得ないくらいの時間感覚のズレに
俺は言い様の無い危機感を感じて
『これは本気で不味い、急いで戻るぞ!!』
とTくんに退却を指示して、元来た道を、慎重に走りながら速足で下っていった
しかし、案の定、
悪い予感が的中したように
俺達は真っ暗な山中で
道に迷ってしまった…
『あれ?…こんな道通ってないよな?』
『くそっ…ここどこやねん?』
兎にも角にも俺達はドンドン下り坂を下って行くのだが、道はドンドンと険しくなっていった
既に階段もなくなり、獣道と化した細い道をなんとか駆け降りていく、
後ろのTくんはライトが無いので更に危険だ
俺は常に後ろのTくんを確認しながら、二人の足場を選択し下っていく
しかし、やはり無理があったのか
一瞬前を向いて次の足場を選択して照らした瞬間
突然
後ろでTくんの叫び声が聞こえた
『うぉわっ!!』
ズルズル…ズドン!!
『?!』と振り向くとTくんがいない
見失った
『Tくん!!Tくんどうした!?大丈夫か?』
俺は焦ってライトで辺りを照らしてTくんを探した
すると崖の様になった大きな岩場の隙間からTくんの声が聞こえてきた
『ってぇ…だ、大丈夫です~…』
岩場の隙間を照らすとTくんがそこにいた
どうやら足場を踏み外して滑り落ちたらしい
とりあえず無事みたいだ
ホッと胸を撫で下ろした俺は
『怪我はしてないな?歩けるか?』
とライトでTくんを照らしながら安否の確認をした
その時
『えっ?』
『お、おい、Tくん…それなんや?』
Tくんが落ちた岩場の隙間は
均等に1mくらいの幅を保っていて
石造りの階段になっている
まるで、人工的に造られた通路の様だった
しかもよく見ると、Tくんが倒れている場所は
階段の踊り場みたいな折り返しの平場で、
さらに階段は下へと下っていっていた
俺の立っている地面の下へと
これは…
もしかして…
俺はそれまで、例の噂の地下室の話は全く頭に無かったのだが
すぐにピンと来た
『これ、もしかして、これが本当の地下室への入り口か?』
それはまるで
本物のインディージョーンズかトレジャーハント系の映画に出てくる、古代の遺跡の入り口の様に、古ぼけながらもしっかりした石造りの階段が土中の中へと続いていた
俺はTくんのいる踊り場へと飛び降りて
階段の下を照らす
下の方に広い空間がある、
俺はTくんの安否を確認すると
『ちょっとここで待ってろ?』
と言い残して
ゆっくりとその石階段を降りていった
階段を降りるとそこは
コンクリートの壁を木製の柱で補強して造られた細長い廊下が右手横方向に続いていた
廊下の様子を照らし出した俺は
思わず叫び声を挙げた
『ウォワッ!…これ…』
天井には、これまた戦時中の様な、傘付きの電灯照明が五メートル間隔程で並び、
廊下の左手側には
これまた五メートル程間隔を開けて
まるで、昔のRPGゲーム、ドラクエかウィザードリーの地下ダンジョンに出てくるような
ラウンド系の扉がいくつも連続して並んでいた
その光景はまさしく
『牢獄』『監獄』と呼ぶにふさわしい不気味な地下室だった
『あの噂…ホンマやったんや……』
俺は直ぐ様Tくんを呼び寄せた
廊下は約20m程で行き止まりになっていて
ドアは合計四つあった
床には色々な瓦礫か散らばり、
蜘蛛の巣が張り捲らされ、
蛾や羽虫が飛び交い、
壁にはゲジゲジやムカデ等のいかにもな毒虫がワサワサと蠢いていた…
閉鎖空間の為か少しでも物音を立てると、物凄く音が反響する
少しの足音でさえ響くのだ…
そして
俺は意を決して一番手前のドアの取手に手を駆け
ドアを開けた
ギキキィィィィ……
まるで悲鳴の様に閉鎖空間に扉の音が響く…
その中は
俺の予想に反した意外な部屋で少し驚いた
なんとそこは
大きくて広い一つの空間になっている
廊下と並列した細長い大広間だった
つまり、一つの大きな部屋に四つのドアがあり
どの扉を開けても
この部屋に通じているのだ
牢獄をイメージしていた俺は
個室じゃないのか?
と呟いた
しかも奇妙な事に
この部屋はなんの為の部屋なのかサッパリ分からないのだ
部屋の壁にはたくさんの配管跡の様な穴が開き、
床にはたくさんの砕けたガラスの瓶や試験管やフラスコみたいなモノが散らばり、金槌やノコギリ等の工具類や細いペンチみたいなハサミ、細くてちいさな金属のナイフッポイモノがたくさん落ちていた
他にも壁にシャワー室のようなセパレートの跡もあれば、
大きな鉄製の浴槽の残骸の様なモノもある
三つほど並んだボロボロのベッドらしき残骸
病院の移動型トレーみたいな台車が倒れていたり、
割れて砕けた洗面台、
手術台の様な大きなステンレス製の台
部屋の奥には焼却炉の様なモノもある
なんの目的でここを使っていたのか全く理解が出来なかった
全体のイメージ的には
戦時中の防空壕みたいな感じなんだが、様々な残骸がその用途を理解させてくれないのだ
俺達は、
ここで一体何が行われていたんだ?
と様々な推理を繰り広げたが全く納得のいく結論は出なかった
そしてその時
俺は部屋の奥の壁の上の方に
少し違和感を覚えた
あれ?
なんだアレ?
それは部屋の壁に開けられた
通気孔のような
30cm四方程の横穴だった
え?まさか…
と俺はその横穴に飛び付いて、手を掛けてよじ登り、顔を穴の高さまで持ち上げて
ライトを照らし
穴の奥を覗いてみた
そこには
約7~8mほどの細長い通気孔が真っ直ぐ続いていて
その先に開けた空間がある
それは明らかに別の部屋や廊下等ではなく
真っ暗だが、とても広い空間だった
???
なんだアレ?
ここ地下室だぞ?
なんであんな空間があるんだ?
その時俺は思い出した
例の噂の最後の部分
…廃屋には牢屋の様な地下室があり…
『それは旧トンネルの中に続いている』
もしかしてあそこが旧トンネルなのか?
…バキン!!
突然物凄い音が聞こえて、俺はビクッとして穴からズリ落ちた
ドサッ…
『いてっ!!』
なんだ?今の?
Tくんも呆気にとられたような顔で辺りを見回している
『聞こえましたよね?』
とTくん
部屋の何かが落ちたり壊れた様な音じゃない
まるで大きな金属同士をぶつけたような
そんな金属音だった
キン…パキン…
また聞こえた…
さっきより小さいが
空気が直接震えているような音だ…
キキ…キッ…カキン…
うおっ?…これ…
ラップ音だ…
ラップ音てのはパキバキと、家鳴りのような乾いた音がするのが普通だが
こんなラップ音は聞いたことがない
『なんかヤバイぞ?』
ちくしょう…目の前に…トンネルが見えているのに…
くそっ!!
と俺はライトを口に加えて通気孔に再度飛び付いた
『Tくんはすぐここから逃げろ!!
俺はこの先に何があるのか確認してくる!!』
『ええっ?マジですか、ヤバイですよ?』
『Tくんは体がデカイからどっちにしろここは通られへん、はよ行け!!』
キキ…キン…キン…ガッ…バキン!!
ラップ音が次第にひどくなってくる
俺は頭を通気孔にねじ込んで片腕だけ前に突き出した形で狭い通気孔の中に這うような形で滑り込んでいった
『キッドさ~ん…サ~ン…サ~ン…~ン…』
通気孔の中はさっきと比べ物にならないくらい音の反響が激しい
Tくんの声があり得ないくらいに反響して聞こえる…
はぁハァハァ…はぁハァハァ…はぁハァハァ…
自分の呼吸すらも反響し木霊が終らない
頭が変になりそうだ…
しかし、ギリギリ体をねじ込んでいるので、もう後退は出来ない
体勢的にもう後ろに動けない
もう俺には前に進むしか道は無かった
ズリ…ズリ…と片手だけで少しづつ体を前に前にねじ込んでいく
目の前には四角い出口の空間しか見えない
後ろを見たくても見れない
文字どおり『前しか見えない』体制なのだ
いつしかTくんの声も聞こえなくなった…
無事に逃げたんだろうか?
ああくそ…暑いなここ…
もう少しだ…
息苦しい…
あと3m…
アレ?
音が…
聞こえない
ドクン!!
心臓が急激に高鳴った
その瞬間
俺はサーっと全身の血の気が引いていく音を聞いた
俺の視界には
真っ黒な四角の空間だけしか見えない
その四角の中を
不意に
スー…っと
髪の長い女性が横切ったのだ
心臓が止まりそうだった
なんだ?
なんだ?
なんだ?
今のはなんだ?
どうゆう事だ?
あの先は旧トンネルだったんじゃないのか?ってゆうかここ地下だろ?なんでこんな時間に?こんな場所に?人間?人間じゃない?あそこは外なのか?なんで俺こんなとこにいるんだ?ああ暑いなくそ!タスケテって書いたのお前だろ?Tくん後ろから引っ張り出してくれ!!ダメだ、下がれない!ああ気持ち悪い…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…………
パニックだった
俺は無意識に息を止めていた
息を殺していたのか
出来なかったのか分からない
瞬きも出来ない
ヤバイ…
どうしよう…
今、見つかったら…
逃げられない
キン…
また小さくラップ音がした
俺はその音に一瞬ビクッとして
目をつぶってしまった
次の瞬間
四角の中に
こっちを向いた女性の顔が浮かんでいた
ガコン!ガコン!
そいつが手を伸ばして反対側から通気孔の中に入ってきた…
『ウワァアア!!!!』
俺は目をつぶって、悲鳴を挙げた!!
『キッドさん!こっちです!!!』
『え?』
目を開けると、四角の向こうにTくんが居た
ど、どうなってんだ?
『早く!こっちへ!!』
俺は片手を伸ばしてTくんの手を掴み
引っ張り出して貰った
ズルズル…
ドサッ…
ハァ…ハァ…ハァ…
訳の分からないまま
俺は周りを見回した
するとそこは…
なんと、
俺達が一番最初に訪れた
廃屋の目の前だった…
な、なんで?
Tくん曰く
『さっきの地下室みたいな場所は、地下なんですけど、ここの土手の中にあったんですよ、俺は表から来た道を通ってなんとか帰って来たら、キッドさんの声が聞こえて…』
だそうだ
続けてTくんはこう言った
『それより、おかしいんですよ?
今、何時だと思います?
もう朝の5時前なんですよ?
もうすぐ夜明けなんです!!
訳分かんないでしょ?』
つまり俺とTくんは
体感時間でほんの一時間くらいの出来事だったのに
気がつけば10時間近く時間が過ぎていた事に
ただ呆然としている事しか出来なかった
ただ一つ
Tくんがいなかったら
俺は今頃どうなっていたんだろう?
と少し自虐的な笑いが込み上げて来たくらいだった
『旧生駒トンネルの近くは不気味な廃屋があり、そこには牢屋の様な地下室があって、そこは旧生駒トンネルの内部へと繋がっている』
この噂を流した人へ
あの通気孔の向こうには
旧トンなんかありゃしないんだよ
実際に覗きもせずに
適当な事言うんじゃないよ
お陰で死にかけたっつーの
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追憶の余韻シリーズ
『噂の真相』
後編
完
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