『追憶の余韻』【第二章・中】~ひとりかくれんぼ大作戦~【Yの葛藤】
2014年05月31日
『追憶の余韻』シリーズ
~ひとりかくれんぼ大作戦~
第二章『Yの葛藤』
~夢とうつつの狭間に~
中編
ドクドクと心臓の鼓動が高まっていく
しかし、怖さと共にワクワクした感情があったことも確かだ
これはホンとに何かあるかもしれない
俺の想像力は、いつにも増して膨れ上がっていった。
Kさんは言わずもがな
俺もスイッチが入り、テンションが上がっていて、少々周りが見えなくなるくらい気分が乗って、『幽霊でも、お化けでもなんでもこいコノヤロウ!!』てな無頼な気分になっていた。
。
しかし、そんな俺の『無頼な気分』をあっとゆうまに蹴散らした
桁違いの『無頼』がすぐ隣にいた
『俺、この人形でひとりかくれんぼやるわ…』
廃屋に起き捨てられた、意外と綺麗な『ピーチ姫人形』を手に取ったKさんがそう言う
え?
残酷な殺人事件が起こったであろうこの部屋に落ちていた
殺害された娘さんが大切にしていた(かもしれない)人形を
自分を呪う呪いの人形として使用するのか?
なんでそんな発想が出来るんだこの人は…
本気で霊を呼ぶつもりか?
しかも、被害者を狙ってる?
やっぱKさん半端ないな…
そんな感嘆が…次の瞬間…
あっとゆうまに崩壊した
『…で、名前…エ○リちゃんにするわ…』
プツン…
それまで、この人が何を言おうとあくまでも他人事だ、俺には関係無い
と調子を合わせておだてて来たが
遂に堪忍袋の尾が切れた…
これはアカン…
ヤりすぎや…
死者への冒涜も甚だしい
俺は必死で『な、名前はいくらなんでも不味いでしょう?』と止めに入ったが
『いや、やる、もう決めた!!』の一点張り
ダメだ、この人はこうなったら意地でも実行する…
もうシラネ
俺は止めましたからね?
勝手に呪われたのは貴方ですからね?
うん。この人はやっぱり脳みそが煮えてグダグダに沸いてるんじゃないかな…
しかし、そんな彼を見ていると
俺自身の恐怖感なんざ大した事じゃない気分になってくる
探索が終わり、
ひとりかくれんぼの準備に取りかかった
Kさんはあたりを見回すと子供部屋のあるリビングの押し入れから、積み重なったカビ臭い布団を引っ張り出して、中に入っていく
『俺、ここ、隠れ家♪』とナゼかカタコトで宣言した、
ここが多分殺人の起こった事件の中核の部屋であったからだろう
Kさんはいつも『一番怖い場所を目指す』からな
またとことん踏み込んでいくなこの人は…
俺は…俺の限界に挑戦するか…
俺は前回暗すぎて、怖くて入れなかった
全ての窓が締め切られた、ジメジメした完全に真っ暗な部屋
不気味な姿見鏡のある寝室のクローゼットの中を隠れ場所に決めた。
ここはいろんな家具が散らばっていて、姿見に映る不気味な鏡の世界も加わって
見た目はこの屋敷中で一番怖いと感じた部屋だからだ
しかもこの部屋は何か在ったときの逃げ場が入り口のドアしかない
俺は自ら逃げ場のない袋小路にわざと自分から閉じ籠った
はは…なんだかんだで俺もKさんに影響させられてるらしい…
こうゆうチョイスは以前の俺はしなかっただろう
一か八かの賭け
そんなスリルが俺のテンションを掻き立てていく
リビングに定点監視カメラ、
廊下と風呂場にテープレコーダー、
廊下、風呂場、リビングの入り口にデジタル湿温計を設置
あらゆる角度から部屋の変化を捉える機器の設置も終わり
残り時間は一時間を切った
予定より大分時間が押している
俺達は一旦廃屋を出て車に戻った。
最後の休憩を挟んでTくんを中継役として一人車に残し
Kさんと二人でひとりかくれんぼ開始の最終準備に急いで取りかかった。
人形作りだ
廊下にランタンを起き
必要な道具を並べていく
米
糸と針
塩水
爪切り
ハサミ
カッターナイフ
そして人形…
Kさんは本当に遺品のピーチ姫人形を抱えている…
本気でやる気だこの人…
『じゃあ、人形作り始めます…』
俺の構えるカメラの前でKさんは手際良く人形作りを始めた
ズスッ…ズッ…ズッ…
いきなりなんの躊躇もなく人形の土手っ腹にカッターを突き刺し、ザクザクと裂いていく
人形は、当たり前だが目を見開いたまま無抵抗で引き裂かれていく
空気がヤバイ、
カチャカチャと人形作りの音だけが、ピリッと静まり返った不気味な廊下に木霊していく
Kさんは慣れた手つきで
人形の腹綿を取り、米を入れ、髪の毛、爪を入れた
ランタンの明かりが下からKさんを不気味に照らす
まるで生きた人形に闇の手術でもしているかのように淡々と作業を済ましていく
そしてKさんは
『さて…』と息を整えて
カッターナイフの刃を自分の親指に当てた
僕は
『血…ですね?』と
生唾を飲み込みながらその作業を見守った
『…っつ』
小さく呟いたKさん
赤い筋からジワジワと血がにじんでくるのが見える
これを俺もやるのか?
と思うと
この企画に参加したことを少し後悔しかけた
そしてティッシュに血を含めて人形に押し込んだ
その後、糸と針を取り出した
あれ?
良く見ると糸が白い
確か『赤い糸』が必要なんじゃなかったか?
実際俺は赤い糸しか持ってきてないし
するとKさんはさっき切った親指の傷に糸を這わせて
ピぃ…と引っ張った
『…ッツィ…テテテ…』と顔をしかめるKさん
そりゃ、痛いだろう…
なんの拷問だ?これは
見てるだけでサブイボが立つ…
『…これが本式の赤い糸だよ』
白かった糸は血に染まり、斑気味の不気味な赤い糸が出来上がった
どこまでやるんだこの人は…
怖すぎる…
その糸を針に通して
人形の傷を縫い止め
がんじがらめに縛っていく
『これは霊を閉じ込める結界なんだよ…これを切ると…霊が解放されるんだ…』
そう言いながら人形の顔で
指に残った血を拭う…
あえてそうしたのだろうか?
目玉の下に【血の涙】を流したような痕が残った…
この人形ヤベェ…
『はい、次、Yくん、
もうあんまり時間無いから急いでね?』
ハッと我に返り、俺も自分の人形を用意する
俺の人形はジョジョ好きな俺の為にKさんがワザワザ裁縫の得意なマイミクさんに頼んで作ってもらった、
特製の手作り呪い人形『エボニーデビル』だ
不気味なライティングに照らされ、ギザギザの歯がむき出しになったその人形の顔は
Kさんをして、
『うぉ…怖すぎるだろこの人形…』といわしめた逸品だ。
俺もさっそく手順通り作業を進めていく
人形の腹を裂き、綿を抜き、米を入れた
気持ち悪い…
端で見ているのと、実際に自分がやるのとはえらい違いだ…
今にも人形がこっちを向いて
『何シヤガンダ!コノ金タマヤロウ!!』と叫び出しそうで
手が震える…
俺は沸き上がるマイナスイメージを必死に抑え込みながら
自分の髪の毛を入れ、爪を入れた…
そして…
『次は…血…を…』
カッターの刃を指に押し当てる…
………
……………
……!!
出来ない…
痛みの想像が体を蝕む…
手が震える…
怖い…
自分で自分の指を切る?
こんな事、普通の神経じゃ出来るわけがない…
なんでこの人はあんなにあっさりやってのけたんだ?
『…ッハァ…ハァ…』
なかなか決心のつかない俺を見たKさんは
『もう良いよ?無理すんな?
爪と髪の毛があれば十分だから…血は危険度がかなり高くなるしな…』
とたしなめてくれた
情けないが俺には血を流す事は出来なかった…
そのまま普通の赤い糸で縫い止め縛り付け
人形は完成した
そんなこんなで人形作りが終わり
後は開始の時間を待つだけとなった
『あと7分…いくぞY…ひとりかくれんぼ開始や…』
そしてついに
夜中の三時を迎えた
第二章
『Yの葛藤』
~夢とうつつの狭間に~
中編
完
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