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『追憶の余韻』【第二章・前】~ひとりかくれんぼ大作戦~【Yの葛藤】

2014年05月31日

『追憶の余韻』

~ひとりかくれんぼ大作戦~


第二章
『Yの葛藤』
~夢とうつつの狭間に~

前編

あれは夏前の梅雨明け頃だったと思う
とある休日に何もすることもなく
急に思い付いて一人で有名な心霊スポット『G病院』を見に行こうとしたときの事だった。

俺は愛機のカメラを手に、車を降りて、G病院の前まで足を伸ばした。

長く高い外壁に護られた鬱蒼と繁る森
その一部に大きくて不気味な有刺鉄線付きの鉄扉がある

門には『ここは心霊スポットではありません~』の注意看板が…
間違いない、ここが噂のG病院だ

さっそく中に入ろうとしたが壁も門もかなり高く、正面突破は苦労しそうだ…

どこか入り込める隙間はないかな?
と塀沿いにテクテク歩き出した

するとその森の切れ間に
昼間なのに暗く沈んだ雰囲気を醸し出す不気味な一軒家が見えた

見た目にもボロボロで、明らかに廃墟と化している

こんな心霊スポットの間近にある廃屋…

俺はワクワクとドキドキを抑えきれずあたりを見回した
ここは人通りも少ない線路沿いの脇道だ
人目はあまりないので思いきって中に入ってみた

おお…

昼間なのに暗く静かで寒気のする異空間に
外から差し込む光の陰影がさらに廃屋の不気味さを際立たせる

家具や電化製品、生活品、ポスターや文具等がそこかしこに散らばって生活観が生々しい…

中には窓を締め切って、一切光の入らない真っ黒闇な部屋などもあった


ここにはどんな人がすんでたんだろうか?

なぜこの家をこんな状態で放置したまま、この家の住人は忽然と姿を消したのだろうか…

夜逃げ?

それとも…強盗による一家皆殺し?

いろんな妄想が沸いてくる

俺はこうゆう怖い場所でいろんな想像をして怖がるのが好きだ

ビビりだがホンとに出るかもしれない場所をチラチラ覗いては楽しんでいる

俺はビクビクしながらアチコチ写真を撮りまくっていた

突然、

窓もない廊下の奥から風が吹いた

なんだ?

と思ってカメラを構えながらゆっくりと廊下の奥へ歩いていく

角を曲がるとそこは

真っ暗に佇む
なんにもない行き止まりだった


俺は少しゾッとした

なんだこの間取りは?

なぜこんな何もない場所に廊下が続いてるんだ?

あの壁の奥に何かあるのか?

隠し部屋?

そんな事を思ってファインダーを覗いていると、不意に目の前の空間が歪んだような気がした


?!

と思わずシャッターを切る


降りない

シャッターが切れない

さっきまで普通に撮れていたカメラが急に動かなくなった

ファインダーから目を話して廊下を直視する

空気が凍りついたまま動いている、空気が、いや暗闇が集まって目の前に集積した影を作ろうとしている

そんな感覚が俺の全身を強張らせた

ヤバイ…ヤバイ…


気がついたら俺は声もあげずに一目散に廃屋を飛び出ていた


なんだったんだ今のは…?





一年後の夏

俺のマイミクさんに、オカルト大好きなKさんと言う人がいて
その人にあるオカルト企画に誘われた

Kさんは元々は『SOUL'dOUT』とゆうグループのファンコミュニティで知り合った、一回り歳上の三人の子を持つオッサンなのだが
そんな歳の差を感じさせないくらい自由繁忙で屈託のない人だった

オフ会等で何度か話をしていて、オカルト好きとゆう話を聞いて以来、『今度一緒に心霊スポット行きましょうよ?』等とよく絡んでいくようになった。

今では何度か心霊スポット探索をご一緒した事もある、立派なオカルト仲間だ

そんなKさんがこの夏
『心霊スポットでひとりかくれんぼやるぞ?』

と言い出した

ひとりかくれんぼは俺も2ちゃんのまとめサイトで見たことはあるが、流石にやったことはない。
『やってはいけない危険な交霊術』だってことは周知の事実だったから

が、もちろんこれでも自称オカルト好きだ
興味がない訳じゃない

Kさんは一度決めると周りを巻き込んで何がなんでも遂行するパワーを待った人で
俺はいつもその流れに自ら捲き込まれるように乗り込んでいた

『心霊スポットでひとりかくれんぼ』…想像するだけで恐怖感に押し潰されそうになる

がしかしやはり今回も

『お前はメンバー決定だからな?』
と冗談混じりでその流れに捲き込んできた

俺は『怖いから嫌だ』とゆうありふれた拒否理由を
Kさんに当たり前のように踏み潰して、逃げ場を奪われる事はあまり嫌いではなかった

退路を断ってもらうことで、きっぱりと覚悟が決まるからだ

決まったからには楽しむ他にない
俺は『了解しました』と快諾した。


後日、Kさんが最初に立てたプランを見てさっそく準備に取りかかった

とゆうか流石はKさん
やるなら徹底的にやる、ヤり過ぎなまでの周到なプラン立てだ

まずはメンバー集めとイベント会場の選定

これはプライベートが忙しいKさんに代わって、俺の方で手を回した

しかし、Kさんご所望のイベント会場候補
『皆殺しの館』とやらはどうやら不審者の放火によって焼失したらしい。

そう報告すると

『Yくん前に京都の廃墟探索の写真挙げてたよな?あれって確か心霊スポットの側じゃなかった?』
とKさん

告知もしてない俺の個人的な探索写真集なんぞ、よく覚えているもんだ

『はい…行ってみます?』

と俺

しかしKさんは
『いや、いい…楽しみは本番にとって起きたいし…』

続けて
『あの廃墟写真、凄く嫌な空気が漂って見えたから、ちょっと気になってたんよ?』

俺は一瞬あの不気味な出来事を思い出した
もちろんあの体験の事は誰にも話してないんだが
Kさんには何かみえたのだろうか?


取り合えず、一度詳しくあの辺りの過去の事件や事故を調べるべく、二人でワザワザ廃墟近辺にある図書館まで足を運んで二時間ほど新聞記事を調べ漁った。

しかし、やっぱりそんな簡単には見つからないかぁ…と
そろそろ半ばやる気が無くなっていた時

突然となりで分厚い新聞記録を読んでいたKさんが小声で
『ビンゴ!!』と叫んで軽くガッツポーズをした。

『来た…来たよYくん!
ほら…これ?』

と見せてくれたのは
一家皆殺しの猟奇的な心中事件だった。

『ここ見ろ、ここ』

とKさんは記事の最期のあたりを指差した

[…現場は京阪沿線

駅近くの踏み切り前…]


『これモロにあの廃屋じゃねぇ?スゲェよ!やっぱあそこなんかあるんだよ!!』

と嬉しそうに興奮しまくっていたKさん

僕も合わせてテンション挙げて騒いでいたが

実際は正直ちょっと引いていた…

本物の事件現場やん…

マジでここでやるのか?

と…


Kさんと付き合っていると、
時々この人には『危機感』とか『不安感』、『防衛本能』…いや『人間として大切な何か』そんな感情が欠落してるんじゃないか?と思うことがよくあった。

俺等はこう…危ないモノを、ギリギリのラインまで近づいても、あくまで安全なラインで、いつでも逃げられる場所にから覗いているから楽しいんだ。

でもこの人はそんなラインをあっさり踏み越えて、一か八かの賭けみたいな飛び込み方をする。

Kさんを見ていると時々思う

『この人は死ぬのが怖くないのだろうか?』






そうして現場が決まり、俺のマイミクのTくんとPくんも手伝ってくれることが決定した。

プランで使用する予定のトランシーバーやビデオカメラ、電子湿度温度計、その他ひとりかくれんぼに必要な道具を揃え

Kさんがひとりかくれんぼコミュニティにトピ立てをした。

すると過去例を見ない大胆な企画にコミュニティ内でも
『リアルタイムで観覧します』
『楽しみにしてます』
『凄い勇者ですね?頑張ってください』
とギャラリーも増えてきた

自分達が主人公として、今まで味わったことのない注目が集まってくる
嫌が応にもだんだんとテンションが上がる
そしてここに来て、盛り上がったテンションが俺のオカルト魂を刺激した

せっかくの機会だし、自分もひとりかくれんぼを実体験してみたい。
と思い出した。

しかし綿密に組み立てた計画が崩れそうなので、申し訳なさそうにKさんにそう告げると

『う~ん』と暫く考えた後、

『うん、分かった』
と意外とあっさり了承してもらった。

Kさんは『そりゃ、やりたいよな?』と笑っていた

僕は嬉々としてトピックスで挨拶文を書いた

『初挑戦ですが、逃げ出さないようにがんばります』


これで俺も勇者の仲間入りだ

しかし、そんなことを偉そうに言っていた俺は

結局『Kさんを裏切って逃げ出す』事になるんだから

ホンとに情けない&申し訳ない…



2011年8月15日

いざ決行日となった

Kさんを駅に迎えにいき、そのまま近くのファミレスへ

次いで、Tくんが合流

Pくんも、自宅で準備完了の連絡が入った。

ファミレスで最終確認のミーティングを行う。

イベントの撮影は二部構成で行われる

前半は『心霊スポット&廃墟探索』をメインとした『現場探索シーン』
後半は『人形作りから一連のひとりかくれんぼ作業シーン』の撮影だ。

前半の探索中の撮影カメラマンは俺、探索紹介のメインMCは稲川淳二のコスプレで物まねしてくれるTくん、
写メや動画撮影や実況中継トピへの書き込みはKさんが担当

後半は、ひとりかくれんぼ作業中の視点カメラをKさんが、
俺も作業しながら自分の愛機で現場の写真撮影係、
Tくんは屋外で待機&トピへの実況中継係りだ。

今回の売りは『リアルタイムの動画中継』
俺達が現場で撮影した15秒のショート携帯動画を、メールで自宅待機中のPくんに送信して、ヨウツベで即時アップロードしてトピに張り付けてもらう事で、
今までにない臨場感で実況中継出来ることだ。

そうして


時刻は午前0時を回った

オープニングで三人の挨拶動画を撮って

撮影開始だ

序盤、Tくんの物まね司会で期待通りのおもしろい動画が撮れた

俺はTくんのハチャメチャな現場紹介に乗っかって煽る煽る

G病院前、呪いの踏み切り前、


そして現場の『心中廃屋』

一年ぶりの現場だったが、
前回はそんな大変な現場だったとは知らず、昼間だったのもあって、づかづかと入っていけた廃屋が、

この不穏なお盆の真夜中の雰囲気に加え、その背景を知ってしまうと、なんとも言えない気味悪さを増して、近寄りがたいオーラを放って見えた

今にも窓の暗闇に人影が立っていそうな…

kさんが、号令をかける
『よし、じゃあいこうか♪』

俺は少しビビりながらも、Kさんの言葉に背中を押され、覚悟を決めた

Kさんを先頭に、俺、そしてTくんが続く

裏門から入った俺達は廊下を抜けて、リビングへ出た、

壁にはアイドルのポスターや、漫画雑誌、ビデオテープ、ゲーム機器や文具などが散乱している

アイドル好きな女の子の子供がいた事が如実に伝わってくるこの生活観は、一年前にも感じた事だが

『人が生きていた息遣い』を生々しく感じさせてなんとも気味が悪い

俺はビデオを廻しながら、Tくんと二人で一部屋づつ探索しながら紹介していく。

前回は入れなかった不気味な部屋や、トイレ、台所、寝室、二階など、くまなく調べて回った。

そして、例の不可思議な行き止まりの廊下…

やはり気味が悪い、何かがいる気配が半端ないのだ

余談だが、ここを撮影したビデオを後で見直すと、ここだけ急に完全に画面がボヤけて何も見えないのだ

やはりこの空間は何かいそうな気がする…

ある程度探索を終えたあたりで
一人で勝手にアチコチ写メを撮りながら探索しまくっていたKさんと合流…いや発見した

何か見つけたようだ

ライトも付けずに、まっ暗闇のリビングで手招きをしている。

『どうしたんですか?』

と近寄ると、一冊のノートを差し出して、ライトで照らした

学校で使用されていたと思われる普通の大学ノートだ

Kさんは表紙に書いてある持ち主の名前欄を照らして

『新聞記事の…被害者の女の子…エ○リちゃん…』

と呟いた。


『あっ、ほんまや!』
ビクッとなった

頭が回転しない

えっ?てことは…

記事には『○○駅近くの踏み切り前』としか書いていなかった

ここが確実な事件現場だとゆうハッキリした証拠も無かった

心の奥で『ひょっとしたら違うのかもしれない』
いや『違っていて欲しい』と思っていたのかもしれない

そんな心の支えを奪われたようなショックが俺の心臓をワシ掴みにした。

ここは正真正銘

間違いなく『猟奇的な一家皆殺し心中事件のあった現場』なのだ。

第二章
『Yの葛藤』
~夢とうつつの狭間に~

前編

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