「映画パンフは宇宙だ!」に出会って知った映画パンフの魅力
今年の3月ごろ、Twitterでとあるスペースを見つける。「映画パンフは宇宙だ!」という団体による「パンフ自慢合戦」と称されたスペースには、映画パンフに精通する3〜4人で映画パンフの魅力を語り合っていた。
「映画パンフは宇宙だ!」ーー?
すぐにはピンとこないが、なんとなく言いたいことが伝わってくる団体名に惹かれて、あまり焦点を当ててこなかった映画パンフに興味を持ち始めた。それから映画館に行くと、映画パンフがあるか売店を覗いたり、見本が置いてあれば手に取ったりするようになった。
これまでは1年に1冊買うか買わないかの頻度だった映画パンフだが、この頃から2、3回に1回の頻度で購入するようになる。
映画パンフについてもっと知りたくて、そして、当時通っていた編集・ライター養成講座の卒業制作で映画パンフについて執筆したくて、今年の6月に団体の皆様に取材を申し込ませていただいた。
取材では本当に素晴らしいお話が聞けた。映画パンフの魅力を知れたうえに、映画パンフという日本特有の文化をもっと大事にしようと思えた。
本記事では、「映画パンフは宇宙だ!」の皆さんに取材して発見した映画パンフの魅力について、ゆるりと綴っていきたい。
①映画を知る一助となる「読み物」としての映画パンフ
映画パンフの中身には、規定がない。監督やキャストへのインタビュー、シナリオ採録、プロダクションノート…。作品によって構成は大きく異なる。そこが魅力と言えるだろう。
「昔は映画評論家によるコラムをよく見かけましたが、最近は映画の素材に合った有識者が執筆しているので、多様性に富んだ読み物になっています」と、小島さんは話す。『グレート・インディアン・キッチン』(2021)では、地方の風習やカルチャー、男尊女卑の背景などが映画パンフに書かれていたため、映画のワンシーンへの理解が深まった。
「ネットで簡単に情報が手に入る時代であるため、人々はより深い知見を求めていると思います」。そのため、最近の映画パンフは専門家による解説があったり、社会背景を細かく書いたりと、内容が充実しているのだと予想する。
パンフマンさんは「ある人気作を観て、つまらなかった」ため映画パンフを手に取った。つまらなかったのは、映画の見方がわからなかったからかもしれない。みんなが夢中になっている理由を知りたくて、映画パンフを読んでみた。
映画中に感じた「わからない」を知る一助となってくれるのが、「読み物」としての映画パンフなのだ。映画を観て、パンフを読んで、また映画を観る。映画パンフを読んだ後に観る映画は、一度目とは違う楽しみ方ができるだろう。
②部屋に飾りたくなる「デザイン」の映画パンフ
構成と同様、デザインも映画によって異なるのも映画パンフの魅力だ。
村岡さんは、デザイナーの大島依提亜氏が手掛けた、レコードのジャケット仕様の『シング・ストリート 未来へのうた』(2016)やタイプライターの形をした『タイピスト!』(2013)の映画パンフなどに出会い、衝撃を受けた。
「映画の解釈や大事なモチーフを形にして残す映画パンフは、映画を観た思い出として、その時の感情と一緒に残せます。部屋に飾っておきたくなるものばかりです」。
cahoさんも村岡さんと同様に、映画パンフの多様なデザイン、そして紙の肌触りに魅力を感じている。中でも『ムーンライト・シャドウ』(2021)の映画パンフがすごかった。「文庫本の形になっていて、手触りの良さが印象に残っています」。
画一化されない映画パンフのデザインに対して、「サイズがバラバラなのが魅力です」とパンフマンさん。「一部のコレクターからは保管に困るという意見がありましたが、個人的には大きさやデザインが作品によって異なる点が、映画パンフの面白さだと思います。保管しにくくても良いので、これからも様々なデザインの映画パンフが作られてほしいです」。
③時代を映す「貴重な資料」の映画パンフ
紙である映画パンフは、時が経つにつれて見た目も変化する。小島さんは、1999年に公開された『Buffalo'66』の映画パンフがお気に入りだと言う。
「経年変化で色がくすんでいる様子が、見ていて楽しいです。映画が公開された当時のイケイケな様子がコラムから滲み出ています。今だったらタブー視されているようなことも書かれているので、映画パンフは、人の考え方や文化の変遷を読み解くうえで貴重な資料だと感じますね」。
アップデートが激しいデジタルは、経年変化を楽しんだり、古い価値観を目にしたりする機会も少ない。紙だからこそ感じる魅力である。
④映画の世界を紙に閉じ込めた映画パンフ
「映画の世界観をまるっと、コンパクトな体裁に閉じ込めてあるのが映画パンフレットです」。
映画パンフの魅力は?と質問した時の、今井さんの答えがとても印象に残っている。「触れられるもの、形あるものとして、手でページをめくる営みが、愛でポイントです」。
映画の内側の人(関係者)の証言や外側(映画評論家など)の評価が書かれた映画パンフは、位置付けとして意義深いと述べていた。
作品によって、デザインも内容も異なる映画パンフ。2時間もある映画を数ページの紙に閉じ込める行為は、一筋縄ではいかない。本業で映画パンフレットの編集に携わっていた経験がある今井さんは、「編集者やデザイナー、そして印刷会社の協力と葛藤のもとで、映画パンフを作っていました。その仕事ぶりに燃えていましたね」と、経験者ならではの視点で話してくれた。
⑤映画パンフを愛する「コレクター」
「映画パンフは宇宙だ!」の皆さんからお話を聞いていると、言葉の節々に映画パンフへの偏愛や情熱を感じる。どの方もそれぞれ自分の言葉で、映画パンフの推しポイントを紹介してくれた。
なぜみんな映画パンフについて楽しそうに、愛おしそうに話すのか。その理由は「宣伝しないと滅んでしまう危機感があるから」ではないかと小島さん。昔と比べると、そもそもパンフを作らない作品が増えている。「映画パンフという文化がなくなってしまう危機感から、“いいぞ”を声を大にして発信しているのだと思いますね」。
「映画パンフは宇宙だ!」では、映画パンフを紹介したり、イベントを開催したりするほか、業界初の映画パンフ専門誌「PATU MOOK」や、作品・監督にフォーカスしたファンブックなど、映画にまつわる書籍の自主出版を行なっている。
今回お話を聞いて驚いたのが、アリ・アスター監督の短編8作品を解説した「"I HOPE THAT PEOPLE WILL FEEL UNSETTLED.”」の完成までの道のりだ。脚本を掲載するため、なんとアリ・アスター本人に直談判するというドラマチックな制作の裏話を教えていただいた。下記記事を読むと、現場の臨場感が伝わってくる。
これほど、情熱的な人々によって支えられているのが、映画パンフという文化なのだ。
映画パンフはいいぞ!
「映画パンフは宇宙だ!」という団体名。今はなんだかしっくり来ている。宇宙のような、無限の可能性が広がる映画パンフ。知れば知るほど奥深くて、好きになる。
デジタル化が進むが、映画パンフは紙という体裁で残ってほしいと「映画パンフは宇宙だ!」の皆さんは口を揃えていた。手元に残したくなる感情や、ページをめくる営みは、デジタルでは代替不可能だ。
日本にしかない映画パンフという文化。残り続けるためにも、声を大にして“いいぞ“を発信していきたい。
「映画パンフは宇宙だ!」今井さん、小島さん、パンフマンさん、cahoさん 、村岡さん、貴重なお話をありがとうございました!