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インディゴの気分feat不可抗力

この城戸家は、華族の家系で代々繊維産業で財を成してきた。
私はこの家に仕える使用人として、14のときから働いている。
元いた地元を離れ、ひとりこの屋敷に住み込みでと聞いたときは驚いたが、私の父はこの家に恩があり父自身も研究者として働き海外の施設で仕事に集中したかった。僕が邪魔だったのだ。
それに、城戸家は僕が仕える代わりに特別に名門の中高一貫教育を受けさせてくれたし、学費や生活費も面倒をみてくれた。
これ以上ないってほどに僕は恩を感じている。



そして、私には親友がいる。
この城戸家の長男である゛士郎さん゛だ。
士郎さんは僕とは2歳違いで、学生のときは同じ学校に通っていた。
有名な家族のご子息ということで、色眼鏡で彼と仲良くしようとする者も沢山いた。
そんな中で家でも兄弟同然の私だけが士郎さんの心の親友だったと思う。
また、私も慣れない学校や家で心を許せるのは彼だけだった。

彼には誰にも言えない秘密があった。
彼は人を好きになれない。
様々なプレッシャーからくるものだと思う。
彼にとって恋愛とは無駄なもので、
結婚は恋愛の延長線にはないことをよく理解していたのだと思う。
好きになったところで決まった許嫁としか一緒にはなれない。
家が認めない女性を愛することなんて汚らわしいものと思い込むようにしているのだろう。

ところで、先述したが僕にとって士郎さんは大切な家族も同然の親友である。
なにかあればすぐにお互いを頼ってきた。
しかし、家族の前ではそんな姿は見せないようにしている。
僕はあくまでこの家の使用人であり、士郎さんと対等になんてなれないのだから。

初めて彼と会った日、私は父に連れられてきた日本庭園のある立派な旅館の廊下だった。
すれ違った彼は僕をジッと見るとふと目をそらした。
まだ紹介される前だったからこちらも相手がご子息だとも分からず愛想もできなかった。
でも、スラッとした高身長に切れ長の目。
ハスキー犬のような鋭さと野性味を併せ持つ稀な存在感に少し身震いがした。




理生に初めて出会ったのは、16のとき。
世の中の自分のポジションと自分とのギャップに苦しみ、若さを呪っていたころだ。

廊下の向こうから、眼鏡をかけた年の近い男の子が歩いてくる。
やけに凛として眼鏡の奥の瞳は色気さえ漂わせ、俺はその姿から目を離せなかった。

それからあいつは俺の世話係として屋敷に住むようになった。はじめて俺の部屋に挨拶に来たとき、あいつは柔和な笑顔を作ってはいたが、表情は固いままだった。
「なぁ、木島くん。僕は本当の友達がほしいんだ。・・・だから僕にはYESで返事をする必要はない、君の思ったことを正直に僕に教えてほしい。」
「そんな、使用人の私が士郎さんの友達に?」
「そうだ。俺には居ないんだ、そういうの。嫌か?」
「いいえ、めっそうもございません。そう言っていただけて、、嬉しいです。」
少し戸惑いながらも頬を赤らめ、眼鏡の奥の大きな瞳はキラキラと揺れていた。

理生は俺にとって初めての心を許せる人間になっていった。


覚えているのは、そうだな。
理生はスポーツ万能だった。
センスや感でやりこなすのではなく、あいつは頭に攻略を作ってからこなす方だった。
一見、知的そうに見える。
しかし普段の生活は怠惰なところがあって、俺の部屋は綺麗に掃除するが理生自身の部屋はとても片付いてなんていなかった。
勉強や使用人の仕事は完璧にこなしながらも、ひとたび自分のこととなるとどうでもいいのだろう。
ある時、あいつは怪我をして帰ってきた。
どこで怪我をしたのか誰にやられたのか、何も答えなかったのだが。
でもその晩、熱を出して病院に連れて行かれたんだ。そしたら体中傷だらけで、大きなあざがいくつもできていた。
あいつは大丈夫と言っていたけど、全然大丈夫ではなかったんだ。
痛みを我慢して、、自分のこととなると黙る癖がある。
「しばらくすれば治ると思って、、。」
こうやってすぐ自分のことは後回しにしてしまうところがあり、そこから俺は理生を気にするようになった。
あいつが何を感じて、何を我慢しているか。
兄貴代わりの自分が早く気付いてやるんだと。


そのせいなのか、俺は日毎にあいつを目で追うようになった。あいつが今苦しんでいないか
何を欲しているのか。
俺への欲情にも気づくハメになるのだが、、。



士郎さんはいつも私を心配し、構ってくれる。
私はそれを自分の父の姿と重ね、愛情不足を補っていた。
しかし、成長するにつれ君は男になっていった。比較的成長の遅い自分とは体つきも大分違ってきていた。


いつものように一緒に風呂へ入る。
この屋敷の風呂はちょっとした大浴場ほどの大きさがある。その大きな湯船で私達はわざわざ隅の方に入る。
近くでないと声が聞こえないから、昔からこうやって入っている。

このとき、いつも士郎さんは僕の身体をよく見てくる。
はじめはなんでかわからなくて、でもなんだかドキドキして。
彼が一通り見終わるまで顔を見られなかった。
一体どんな顔で僕を見ているのか、
見てしまったらどうにかなってしまうのではないかと。


いつもの通り風呂に一緒に入るとき
脱衣所で理生が服を脱ぐのを躊躇った。
嫌な予感がした俺は理生の服を無理やり脱がせる。
すると理央のハイネックで隠れていた首筋にはキスマークが紅潮して主張している。
腰と足の付根の間には強く掴まれたような痕。

俺の鼓動は跳ね上がるように早くなる。
昔、あのとき感じた気持ちとは違う感情が駆け巡る。
・・・これは暴力の跡ではない。


これは・・・・

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