愛すべき駄作映画となり得るか【MODE MOOD MODE SENTENCE】
○はじめに
こちらの企画への参加で記事を書かせていただきました。ありがとうございます。
○「フィクションフリーククライシス」とはどんな曲?
「フィクションフリーククライシス」は、UNISON SQUARE GARDENの7枚目のアルバム『MODE MOOD MODE』では8曲目に位置する。
レトロなゲームのようなピコピコ音のちょっと長めの20秒のイントロに、これから何がはじまるのかと期待がふくらむ。
Aメロ、Bメロは早口で展開が早く、サビはややゆったりしている。へんてこポップな歌詞や2番の途中で間奏を挟む構成は「デイライ協奏楽団」に近い。
歌詞の世界観は違うが、「デイライ協奏楽団」では〈ああ、もう、ねえ、そう ああもう寝そう〉と繰り返すフレーズがあり、「フィクションフリーククライシスを」では〈自意識がクライシス迷子!〉が脅威の7回繰り返される。
サビの歌詞、メロディーが美しい。
特徴としては、母音のAの音を多用して明るさ、穏やかさが表現されている点だろう。〈たおやかな遊びを済ませてから。〉に至っては、15音中8音がAの音になっていて、ひときわ心地よく聴くことができる。
3分15秒の曲でアルバムの中では2番目に短い。歌詞の意味を考える前に次々と言葉が流れる。1番と2番の間の間奏もアウトロも非常に短い。意味を考えさせる隙がなく、駆け抜けてゆく。
「フィクションフリーククライシス」だけを聴こうと思っていても、「Invisible Sensation」との繋ぎが完璧なため続けて聴くことが多い。何度も聴いた「Invisible Sensation」がとても新鮮に感じられて、バラードの「夢が覚めたら(at that river)」、シングル曲の「10% roll, 10% romance」、「君の瞳に恋してない」で大団円を迎える。
名盤であるアルバムを聴き終えたあと、ちょっと変な曲があったな、と引っかかるけれど、再度聴いても「Invisible Sensation」のイントロでノッてしまう。そのため、「フィクションフリーククライシス」だけを聴いて考察をせず、5年が経った。
「Invisible Sensation」について、今更気づいたことがある。「Invisible Sensation」はテレビアニメ『ボールルームへようこそ』の2クール目のオープニング曲である。
アニメでは一度も早送りをせずに聴いたが、何度聴いても飽きず仕掛けが満載で楽しい。オープニングサイズの89秒にこれだけ詰め込むのかとはじめから驚いたが、1曲聴いても驚きは尽きない。
主人公である多々良くんのダンスのパートナーが千夏ちゃんになったこともあり、「10% roll, 10% romance」よりも情熱的な印象を受ける。
冒頭の〈高らかに 空気空気 両手に掴んで〉の〈両手〉には主語がないため、自分の両手と思ってしまうけれど、競技ダンスを描いた作品のため、この両手はパートナーと繋ぐ手のことを指していると考えられる。
つまり、多々良くんの視点だと、自身の左手とパートナーの千夏ちゃんの右手となる。作中のダンスシーンでは、多々良くんが自分の身体が重くなったように感じたり、脚が四本になったと錯覚する場面があった。千夏ちゃんと一心同体になっているからこそ感じられた感覚である。
なので、〈両手〉に主語がないのも自分の身体と同一と感じているから、と考えると納得がいく。〈両手〉の一言でここまで表せると思うと、改めて言葉を面白がることができる。
違う、そうじゃなくて、課題曲は「フィクションフリーククライシス」である。
この曲に関しては、楽しければOK、面白ければOKかと思っていて、歌詞の意味はそんなそないやと思っていた。
それでも、意味がないこともないはず。わからないと言って、大さじや小さじを投げてしまってはもったいない。
「オリオンをなぞる」のMVの3分12秒のところで停止すると反転された文字が見える。「歌詞なんてものはあなたの解釈が100%正解です。あなたの解釈があなたにとって大事なものに違いないのです。」と隠されたメッセージを読むことができる。
思考を停止させてはいけない。自分で考えて、掴んだものを決して離すな、とUNISON SQUARE GARDENは教えてくれている。
○物語を考える
まずは、冒頭の歌詞から見ていこう。
おっと…これはいきなり難しい。
最初から、ちょっと待てぃ!!ボタンを押されかねない。このままでは埒あかんので、妄想で補って物語を創ることにした。
※こちらの考察はフィクションです。実際の作品、団体、人物とは一切関係ありません。
一旦、「フィクションフリーククライシス」を訳してみよう。何かわかるかもしれない。
フィクション:虚構、架空の物語
フリーク:変わり者、異形の者、熱心な愛好家
クライシス:危機、重大局面
つまり…どういうこと?
パパがエイリアンなことは確定しているので、他の家族も人間ではない可能性が高い。
ざっくり歌詞を見ていくと〈SF〉〈ディレクターズカット〉〈クランクアップ〉など、映画に関係しそうな言葉が並んでいる。
SF映画をモチーフにしていると考えて間違いないだろう。主な登場人物は、パパ、姉ちゃん、ママ、僕の4人家族だろうか。おそらく、『アダムス・ファミリー』や『ときめきトゥナイト』のような能力者である家族の物語になるのかな。やがて世界の危機が訪れ、なんやかんやで僕が世界を救うと思われる。
「フィクションフリーククライシス」自体がこの家族と世界の危機を描いた映画のタイトルと予想する。
登場人物について整理していこう。
パパ:エイリアン。超能力が使える。家をめちゃくちゃにして家族を困らせる。トイレを火星人、キッチンを金星人にリノベーションした。宇宙の生態系も変わるため、宇宙人が怒ってキャトルミューティレーションで家畜が犠牲になる日も近い。
敵はパパなのではないか?
火星人は、和菓子や洋菓子を製造する工場で使われている包餡機の名前と同じなので、キッチンに火星人がいてくれたほうが助かりそう。
姉ちゃん:陶酔癖。吸血鬼(?)。10代後半。一般男性を部屋に入れ込み、家族を困らせる。脳の左側が露出しており、掻くたびにほどける。常識が通じないが、黙認されている。ジュエリーの総額で貧困を消せたはずなのに手放そうとしない。
姉ちゃん、最早敵では?
〈常識混濁して もう黙認〉の部分の〈もう黙認〉は「盲目に」にも聴こえ、姉ちゃんの陶酔っぷりが伺える。
ママ:魔女(?)。ブランチタイムに権力者を問い詰める。邪念を煮込み、政治権力を突如変動させる力を持つ。デザートに致死量のチーズケーキを振る舞い家族を困らせる。
ママ、ラスボスでは?
ロバートのコントに「邪念0研究所」というネタがある。ママに狙われないように研究所に通い、邪念をゼロにする練習をしておいたほうが良さそうだ。
『有吉ぃぃeeeee!』でファーストサマーウイカさんがコストコのチーズタルトを差し入れした際、「8万カロリーくらいある」「致死量」と言われていた。このチーズケーキもコストコサイズをイメージするとわかりやすい。
僕:10代前半。家族の中では一番人間に近い。強大な能力を持つが、身体への負担が大きい。家族の行動にいつも困っている。映画のラストでは世界を救う。
語り手である僕の説明はあんまりないので、想像するしかない。本人が語ろうとしていないのかな。
映画『フィクションフリーククライシス』の設定はこの辺りかと思う。けれど、それだけでは終わらない。
曲の中での僕は〈SF中毒です〉〈キャトルミューも秒読み段階です〉〈手こずります〉のような丁寧な言葉遣いをしているが、〈エンディング向かおうとしてんじゃねえよ〉〈最もそうな理由つけてんじゃねえよ〉と言ったりもする。これは僕が二重人格ということではなく、悪態をついているのはもう一人の僕だと思う。
愛が足りなかったと解釈され、愛を与えられて世界を救うのかな。そんなんでエンディングに向かうなよ、世界救えるかよ、と不満に思ったり、クランクアップが不本意だったことを語っている。こういった発言をするもう一人の僕は、僕を演じていた子役の僕なのではないだろうか。
僕を演じていた僕は大人になっていて、当時を振り返って今になってやっと言えるようになったんじゃないかな。他の家族のキャラクター紹介はするけど、自分のことを語らないのも映画に納得がいかなかったからかもしれない。
もっと言うと、僕を演じていた僕がこの曲の真の主役ではないだろうか。
映画に例えると、『カメラを止めるな!』のような入れ子構造になっていると考えられる。映画『フィクションフリーククライシス』の中の世界と映画の外の世界が1曲の中に存在している。
僕を演じていた僕、と言うのもややこしいので、仮に名前を倉石愁(くらいし・しゅう)とする。SF映画『フィクションフリーククライシス』は海外の作品っぽいけれど、親しみをこめて日本人の名前にさせていただく。
ついでに、倉石愁の人物設定も考えてみる。
倉石愁:元子役。主演映画『フィクションフリーククライシス』がヒットせず、その後も役に恵まれなかった。思春期と人間不信で自意識がクライシス迷子になる。ひっそりと芸能界を引退。大人になった現在は一般企業に就職している。
このままでは倉石愁が不憫なまま終わってしまう。彼を救うべく、考察は続きます。
○元子役へのインタビュー
我々取材班は、特別に『フィクションフリーククライシス』で主演を務めた倉石愁さんにアポイントを取ることができた。
ー本日はお越しいただき、ありがとうございます。
ありがとうございます。インタビューは久しぶりなので緊張しています。
ー子役として活躍されましたが、引退されたとお伺いしています。大変な苦労もあったと思います。当時を振り返っていかがでしょうか。
期待されていた主演映画『フィクションフリーククライシス』がコケて、気分が落ち込んでいました。映画のラストの展開が腑に落ちなくて、それでもそのまま演じました。
自分の存在意義もわからなくなっていました。俺悪くねえのにって思って、自分の気持ちは誰にもわからないとふさぎ込んでいました。
ーその後心境の変化などはありましたか。
映画の中で僕は世界を救いました。それは現実も同じで、自分の世界を救えるのは自分なんだと思います。
中学には周りの目が怖くて通えなかった時期もありましたが、このままじゃ駄目だと思って登校し始めました。自分が変わらないと周りも変わらないと思って、自分から皆に話しかけることにしました。そしたら意外と大丈夫で、僕が勝手に周りは敵だと思い込んでいた部分もありました。
映画の約2時間と比べると、人生はまだまだ長いので、捨てたもんじゃないなと思います。
ー『フィクションフリーククライシス』はあれから観る機会はありましたか。今はどう思われていますか。
ここ数年でサブスクなどで『フィクションフリーククライシス』も観られるようになって、僕も観てみました。
最初から駄作とわかっていて観れば、結構楽しむことができました。15年前の作品ですが、今は若い方にも観られて昔ほど評価は悪くなく見直されてきているみたいですね。
“愛すべき駄作”と呼ばれていて、まあそれもいいかなと思います。いい映画にしようと思って創られてうまくいかなかったけれど、そうやって受け入れられているのもいい時代ですよね。
なぜか人気が出て『フィクションフリーククライシス2』の制作も決まりました。僕も裏方ですが、関わらせていただくことになりました。どんな映画になるのか今は楽しみです。
ーずっとモヤモヤされていたことを徐々に克服されたようでよかったです。これからの目標はありますか。
心を曇らせないようにしたいです。自分の半生を振り返って書いてまとめたものが、暗い詩集にならないようにしたいです。
心の角が取れてきてダイヤモンドのように多面的に光らせたり、完全に球体になって周りを照らす月にもなるのもいいと思っています。
ーこの度は貴重な機会をいただき、ありがとうございました。
ありがとうございました。
○おわりに
「フィクションフリーククライシス」の次の曲「Invisible Sensation」では、このような歌詞がある。
さらに、その次の曲「夢が覚めたら(at that river)」も見ていこう。
こちらの2曲からは、現実は厳しいけれど、生きていたらいいこともある、どうか報われてほしい、というまっすぐなメッセージが伝わる。
「フィクションフリーククライシス」も最後は明るく締めくくっているため、考察も暗いまま終わらせたくなかった。
先日、映画『ばしゃ馬さんとビッグマウス』を観た。田淵さんが一番好きな映画と言われている作品である。
主人公の女性は脚本家を目指していて、同じように脚本家を目指す青年と知り合うが、彼は一度も脚本を書いたことがない自信家だった。
※以下、ネタバレも含みます。
物語の中くらい幸せになってほしいという気持ちもあるけれど、単純に夢が叶うよりも叶わないことのほうがリアリティがあった。介護現場のシーンは現実を知る点で必要だけど、苦手な方もいると思うので覚悟してほしい。このシーンを逃げずに描いた心意気は素晴らしかった。
主人公は最後まで報われないけれど、友人の成功を祝えるようになったり、前向きになれて後味のいい映画だった。人生はこんなもんだと折り合いをつけて、新しい目標へ進むほうがよっぽど誠実で信頼できると感じた。
なので、映画『フィクションフリーククライシス』のことも倉石愁のことも、ちょっとだけでも救えるようにしたかった。
『ばしゃ馬さんとビッグマウス』で描かれていることは、酸いも甘いもある人生を賛歌するUNISON SQUARE GARDENの音楽にも通じる部分があると感じた。
「フィクションフリーククライシス」の歌詞には二度〈Yo, keep on keep on doubting.〉という言葉がある。〈keep on〜ing〉は「〜し続ける」、〈Keep on doubting.〉なら、“疑い続けろ”という意味になる。
UNISON SQUARE GARDENは音楽を通して、君はどうだ?と問いかけ続ける。
○出典
「フィクションフリーククライシス」(作詞・作曲:田淵智也,編曲:UNISON SQUARE GARDEN,2018,TOY'S FACTORY)
『MODE MOOD MODE』(全作詞・作曲:田淵智也,全編曲:UNISON SQUARE GARDEN,2018,TOY'S FACTORY)
Fictionfreakcrisis
UNISON SQUARE GARDEN 7th Album 「MODE MOOD MODE」クロスフェード
「デイライ協奏楽団」(作詞・作曲:田淵智也,編曲:UNISON SQUARE GARDEN,2009,TOY'S FACTORY)
「Invisible Sensation」(作詞・作曲:田淵智也,編曲:UNISON SQUARE GARDEN,編曲協力:eba,2017,TOY'S FACTORY)
「オリオンをなぞる」(作詞・作曲:田淵智也,編曲:UNISON SQUARE GARDEN,2011,TOY'S FACTORY)
「オリオンをなぞる」MV
「夢が覚めたら(at that river)」(作詞・作曲:田淵智也,編曲:UNISON SQUARE GARDEN,2018,TOY'S FACTORY)
『ボールルームへようこそ』(作者:竹内友,2011〜,講談社)
『ボールルームへようこそ』(原作:竹内友,監督:板津匡覧,アニメーション制作:Production I.G,製作:小笠原ダンススタジオ,2017,MBSほか)
『有吉ぃぃeeeee!〜そうだ!今からお前んチでゲームしない?』(2018〜,テレビ東京,2020/9/13放送分)
『カメラを止めるな!』(2017,監督・脚本:上田慎一郎,原作:和田亮一、上田慎一郎)
『ばしゃ馬さんとビッグマウス』(2013,監督:吉田恵輔,脚本:吉田恵輔、仁志原了)