たにし観音(十一面観音立像)
秋田県湯沢市山田の土沢集落には、たにしに守られ焼失を免れたという伝説をもつ十一面観音像、通称「たにし観音」がある。
伝説によると、天正15(1587)年に兵火にあった際、境内の池に住むたにしがびっしりと覆って観音様を火災から守ったといい、「たにし観音」と呼ばれるようになった。
境内の池には今でもたにしが住んでいるが、これ以降、土沢集落の人々はたにしを食べないそうだ。
拝観には事前予約が必要とのことで、管理者の方と事前に拝観日時を調整し、いざ現地へ。
普段は天気に恵まれることが多いのだが、当日は結構な土砂降りだった。
現地に着くと、土砂降りのなか、管理人さんが傘をさして待っていてくださった。駐車場がないため、車は神社入口前の道路に路駐する。
土沢集落は、秋田県が指定する「守りたい秋田の里地里山50」に選ばれている地域で、6月上旬の田植え後の風景が美しく見ごたえがある。
たにし観音が祀られているのは土沢山神社という神社で、もとは土沢山安楽寺という天台宗寺院に祀られていた仏像が、いつのころからかこの神社に祀られるようになったそうだ。
管理人さんによると、安楽寺は現在は廃寺となっており、どこにあったのかもわかっていないとのこと。おそらく土沢山神社の境内にあったのだろう。
社殿に入ると、奥の扉が開けられており、たにし観音の足元が見えた。
奥に進み、たにし観音を仰ぐ。高さ約4.5mの仏像を至近距離から見上げるのは圧巻で、その存在感に圧倒される。
たにし観音は慈覚大師円仁がカツラの木から彫りだしたと言われる一木造の十一面観音で、高さ約4.5mもある巨像だ。左手と膝から足元までは後世の補修によるが、お顔から胸にかけては表面が真っ黒に炭化しており、たにしが火災から守ったという伝説が思い起こされる。
この日は天気が悪かったため暗いが、天気が良ければもっと明るい環境で見ることができるそうだ。
たにし観音に圧倒されて最初は気が付かなかったが、たにし観音の向かって右手に1mほどの厨子に納められた破損仏があり、驚きのあまり思わず声が漏れた。
何の仏像かは不明だが、天部像ではないかとのこと。お顔がえぐられ手足は欠損し、胴体も損傷が激しいが、その佇まいからは確かに天部像と思えなくもない。炭化している箇所があることから、天正年間の火災でかろうじて焼失を免れた仏像なのだろうか。
少子高齢化が進み、昔のようなお祭りは出来ていないものの、祭礼日には近隣から神職さんを呼んで祭礼を行っているとのこと。
管理人さんのお話を聞いていると、地域の人々からとても大切にされているのが伝わってきた。
帰り際、「また来てください」と管理人さん。次は天気が良い日だといいなと思いながら、再訪を誓う。
それにしても、秋田県内には社殿のすぐ前に池がある形式の古社が多い気がするのは気のせいだろうか。
【所在地】秋田県湯沢市山田北土沢
【駐車場】なし(神社入口の道路に路駐)
【拝観予約】必要