月間韓国音楽(仮) 2308 各曲の紹介-2/2
最新の韓国音楽を紹介するプレイリスト、前回の21曲分の紹介に続いて、今回はプレイリストの後半21曲を紹介します。
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月間韓国音楽(仮) 2308 各曲の紹介-1/2|山本大地 (note.com)
注目アーティスト多、エレクトロ・ジャンルの新曲たち
22/42 Idiotape "Acid Punk"
23/42 HYPNOSIS THERAPY (Jjangyou, Jflow) "Ohm"
24/42 jerd, 짱유 "영업은 안 합니다 Closed"
25/42 Necta ”Fluid”
(22)韓国では数少ないエレクトロニカ・バンドであるトリオ、Idiotapeの新曲。もうキャリアは13年になります。アルバム『11111101』(2011年)は韓国大衆音楽賞のエレクトロニカ部門を受賞するなど評価が高いですが、特にライブバンドとしての評価が非常に高く夏のフェス・シーズンには欠かせない存在です。例えば韓国最大のロックフェス、Incheon Pentaport Rock Festivalでは昨年はメインステージのトリ前、今年も急遽キャンセルしたRideの代打でセカンド・ステージのヘッドライナーを務めました。その時の映像がフルで上がっていますが、こちらを見れば納得いくでしょう。ちなみに韓国ではこういうジャンルのバンドを挙げるならもう一組後輩にあたる3人組Glen Checkがいます。
(23)釜山出身の高校生の時からの仲であるプロデューサー、Jflowとラッパー、Jjangyou(チャンユ)によるエレクトロニック・デュオ、ヒプノシス・セラピー。昨年もアルバム『HYPNOSIS THERAPY』が素晴らしかったのですが、早くも次作となるEP『DANCE THERAPY』を発表しました。アンダーグラウンドな活動をしていることもあり知名度はまだまだなのですが、早くこの2人のライブはクラブで見てみたいです。ちなみにJflowはHIPPY WAS GIPSYでもプロデュースを担当、2人はWavisabiroomというクルーでも活動しており2015年の『물질보다정신 Soul Than Mammom』は非常に高い評価を得ています。またJjangyouはGIRIBOYの巨大クルー、WYBH(宇宙飛行)にも所属しています。
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(25)エレクトロニック系のシンガー、NECTAの新曲。プロデューサー、Weissenと二人三脚で作り上げるサウンドは、ハウスからテクノ、ハイパーポップ的なものまでどれもキャッチ―だし、何よりNECTA本人のボーカル表現力がR&B経由の豊かさがあって聞いていてどれも面白いです。オルタナR&Bから、yaeji、Charli XCXや彼女がコラボしていたPCミュージックのサウンドが好きな人にもおすすめしたい、この後も注目したい才能です。
26/42 youra "(The Cherry Trees)"
(26)日本でも韓国のインディ、R&Bシーンを追っている人にはよく知られているであろうyoura。彼女のこの曲を収録したアルバム『(1)』、私は今年のベストの一つだと思っています。作・編曲で共作したのは昨年末コラボ作出した、Mandongのベースでもあるナム・ソンヒョン。打楽器たちの不規則なジャズ・ビートが繰り広げられ、それは体に鞭を打ち付けるように強く、速く打ち込まれ、そこにyoura独特の神秘的な声が重なる時の奇妙な快感、中毒性があって、何度も聴きたくなります。youra自身も「(再生数などの)成績が低調だった」という通り、それまでのyouraの声を前面に押し出したロックな作風と比べると、大衆には難解だと思われたかもしれないけれど(ただ2021年の『GAUSSIAN』収録の"Zeebra"辺りから先鋭的なサウンドに舵を切る兆候はあった)、私はこのyouraの挑戦がかっこいいなと思います。ぜひEP単位で聞いて見てください。ちなみに彼女は長く所属したレーベル<文化人>を離れて最近<EMA>(george、Meaningful Stone、イナルチ、Say Sue Meら所属)に移籍しました。
UNE、キム・プルム、gongtokki… 個性豊かな新鋭たちの新曲
27/42 으네 UNE, Lil Boi "악당"
28/42 김푸름 Kim Pureum "사는 게 숨이 차도 Even though your life makes you suffer"
(27)UNEはヒップホップ系レーベル<Dejavu Group>に所属するアーティスト。8月に発表したEP『The Lost Diary』から。
(28)キム・プルムはなんと2006年生まれ、Z世代だとか、その前にまだ高校生のシンガーソングライターです。大物新人としてかなり期待できそうなので、長めに紹介します。彼女は俳優として映画「1987」などの作品にも出演したのち、昨年チャンネルAのオーディション番組「青春スター」に出て準優勝を果たしました。「青春スター」では80年代終わり頃から90年代中盤にかけて活躍した韓国では誰でも知ってるレベルの、曲が愛されている人です、フォーク・シンガー、キム・グァンソクのカバーをしたり、自作曲を披露したりと、聴衆を驚かせていたようでした。この曲は7月に発表された2枚目のEP『TEENS』に収録されていて"私たちの10代を代弁する話がしたかったです。これ以上子供でもなく、大人というにはまだ違う、曖昧な境界の中で季節の変わり目のような時期を一生懸命乗り越えている私と友達の言葉で歌いました"とEPの公式紹介文にある通り、タイトル曲のこの曲は直訳すると"生きるのが息苦しくても"という意味。いまの時代、特に激動で、乗り越えるのが大きな壁であろう10代のどうしたらいいのかわからない複雑な思いを、同世代の共感を得られそうな赤裸々な表現で歌っています。
29/42 HUS (ハミング・アーバン・ステレオ) "Drive feat Risso"
30/42 OOHYO "Honey Tea Returns 돌아온 꿀차 帰ってきたHoney Tea"
31/42 gongtokki 공도끼 "은하호수육교 Milky-walkway"
32/42 Room306 "Dinner feat. KLANG"
(30)OOHYO(ウヒョ)のこちらは2018年に発表した"Honey Tea"をOOHYO自身がシンセビートに乗せてリメイク。
(31)シンガー、gongtokki(ゴントッキ)のニュー・シングル。不安定で"静かに"張り裂けそうな歌声、生と死の境界のような世界観、過剰なまでの情愛…何とも独特なアーティスト性に惚れてしまい、5月に出たEP『하얀 밤 붉은 사랑 White night, Red love』も繰り返し聴いています。この曲は以前からYouTubeに上がっていた曲でついに音源化。彼女は音源、YouTube以外の活動が今のところ積極的ではないですが、そのキャラクターの魅力含めもっと多くの人に知られてほしいです。
(32)ローファイ、アコースティック、R&B、エレクトロニカと色々な質感のサウンドを混ぜたスタイルで地道に活動を続ける、レーベル<YOUNG&GIFTED&WACK Records>所属の4人組バンド。
ヒップホップの夏、Beenzino、E Sensのニュー・アルバム
今年の夏はヒップホップの季節でした。何しろシーンを代表する2人のラッパー、Beenzino、E Sensという2人のラッパーが相次いで久々のアルバムを出したのですから。この2人はジャンルを超えて愛され、評価されているので、本当にこの時期は2作が、ファンからも評論家からも並べて語られました。
33/42 Beenzino 빈지노 "In Bed/Makgulli 침대에서/맡거리"
34/42 Woo ウ・ウォンジェ "Ransome feat. Bill Stax"
35/42 E Sens "What The Hell"
(33)まずは今のところ私の今年ナンバーワン・ヒップホップ・アルバムでもあります。Beenzino『Nowizki』(ノヴィツキ)からお気に入りの曲です。"韓国ヒップホップ・ワントップ"と彼のことを形容する人も少なくないくらいの地位にいるラッパーですが、今作はソングキャンプを開催して募ったトラックで作ったそう。彼はサンプリング・センスがすごく良くて、中でもこの曲、2曲が合わさったような曲なのですが、後半は70年代後半にLAで活躍したバンド、Greenflowの"I Got'cha"を引用、すげえかっこいい。Beenzinoはラップもうまいですが、ライミングに中毒性あるフロウを作るのがうまいですね("Travel Again"で繰り返される'ヨヘン アゲイン'のような)。とにかく『Nowizki』はアルバム単位でも語りたい名作です。おそらく韓国の年末総決算でも必ず入ってくるでしょう。
(35)一方で、E Sens、こちらはもっとオーセンティックなスタイルで、ラップそのものを聞かせるスタイル、リリシストとしても一級品の評価です。(特に2015年のアルバム『The Anecdote』は韓国でオールタイムベスト級の評価です)Beenzinoにもそういう評価がされることが多いですが、金持ちであることや女性関係をボースティングすることよりも、もっと内面の感情を巧みに表現するスタイルで、ジャンルを超えて支持を集めています。ニュー・アルバム『Jeogeumtong 저금통 貯金箱』は低音が打ち付けるビートもかっこいいですが、なんと元Balming Tiger、現在はHyodo and BASSというバンドでドラマーを務めるHukky Shibasekiが全曲を手がけています。そのHukkyと一緒にパフォーマンスるこちらのライブクリップがおすすめです。こちらもアルバム単位で語りたい。アルバム発表後ライブを2度見ましたが、2回目となるRapbeat Festivelの時はなんとDJ Soulscapeを携えてのパフォーマンスで鳥肌ものでした。
R&B、ネオソウル、ジャズ…韓国インディのグルーヴを
36/42 Cadejo 까데호 "Into Your Dream"
37/42 PoPoMo (Jinbo, Hersh) "Canvas, Brush & Knife"
38/42 Moskva Surfing Club "Prozac feat. Kim Oki"
(36)ジャム演奏を生かしたグルーヴが気持ちい、唯一無二な3人組、R&B/ファンク・バンド、Cadejoのニュー・アルバム『FREEVERSE』から。これまで以上に自由になった演奏を堪能してみましょう。5月には民謡歌手のイ・ヒムンと共に来日しましたね。
(37)レーベル<SuperFreak Records>の代表であり、K-POPからヒップホップまで韓国大衆音楽シーンに、洗練されたヒップホップ、ファンク、R&B、ネオソウル_サウンドを果敢に取り入れてきた重要プロデューサー、JinboがR&Bシンガー、Hershと組んだプロジェクトの2枚目のシングル。Jinboのこれまでのプロデューサーとしての経歴はぜひこちらのSpotifyのプレイリストで。
(38)ここ数年インディ・シーンでブレイク中のバンド、Moskva Surfing Clubの新曲は、韓国のインディ〜オルタナ・ジャズ的なシーンの重要ミュージシャンであるサキソフォニスト、キム・オキとコラボ。このバンドにとってのこれまでのベスト曲では。
静かな歌唱からも、本人だけの魅力が感じられる実力派SSWたちの新曲
39/42 sunwashere "easier"
40/42 Jeon Jin Hee 전진희 "Should We Leave 떠날까"
41/42 Kim Ildu 김일두 "Going for a drink feat. Kim Euisung"
42/42 SWJA ソヌジョンア "싸움 (Love War)"
(40)バンド、Ravie Nuage(ハビ・ヌアージュ)のリーダー、ピアノ/ボーカルでもあるシンガーソングライター、チョン・ジンヒの好評の3枚目のフルアルバム『아무도 모르게 Without Anyone Knowing 誰も知らないうちに』から。痛みや悲しみを抱えた人への慰労、愛で乗り越えようという歌、というとすごくありがちなテーマに聞こえるかもしれないですが、淡々と最小限の言葉たちで表現されているのが良いです。
(41)レナード・コーエン、ジョニー・キャッシュなんかの影響も受けているシーンで慕われているベテランのシンガーソングライター、キム・イルドゥのニュー・シングルにはバラッド・バージョン、ロカビリー・バージョンが収録。その前者です。
(42)もう20年近いキャリアで、ジャズ・ピアニストとして、K-POPの作曲家として、そして今ではジャンルを超えたポップ・ミュージシャンとしてインディ・シーンを超えて認知されているソヌジョンア。新曲は終わりが見えるほど、理性を失って言い争ってしまった時の、悲しみ、絶望感をリアルな言葉でそのまま描写して歌っていますが、その歌声は解決策こそ提示しないものの、歌声で治癒する力は持っている気がします。以前彼女の「SAMSAM」という曲の歌詞を解説と日本語訳したことがあります。冷静に韓国社会を見る視線も素晴らしいものがあり、ぜひ読んでみてほしいです。音楽性やプロデュース能力、歌唱も満点の実力なのに、歌詞までよく書ける…この人のことは次のアルバムのタイミングでインタビューとか大きな記事とか作りたいです。
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