怪談No.14 おはぎを川に捨てに行った話
変なタイトルだが、何も嘘や誇張はない。
僕がおはぎを捨てるにあたり、不気味な人に会ったときの体験です。
2年前のお盆で山中にある超田舎の祖母の家へ行ったときの話。(祖父は他界してる)
普通お盆で祖父母の家に帰るときは家族全員で行くものだが、両親は仕事とか入院やらで参加できなかった。
そのため僕と姉だけで祖母の家に行った
祖母の家でご飯を食べて話したり、墓参りも終わった夕方ころ。
そろそろ田舎を出て自宅に帰ろうとしていたら、僕と姉は祖母に「御供物のおはぎをある川に捨てに行って欲しい」と頼まれた。
これは祖母の住む田舎の風習で、お盆の時期はある川に御先祖様が帰ってきているから、その川にお供物を捨てるのが慣わしだった。
悪く言えばただの不法投棄であった。
祖母は足腰が不自由だし、姉は山の中を歩くのは嫌だとかいうから僕1人でおはぎを川に捨てに行くことになった。
お供物を捨てる川は山の中にあり、祖母の家の近くの一本道をひたすら道なりに歩くと着くと聞かされた。
またその一本道の幅は3メートルほどだが、片方は崖のようになっており、足を滑らせたら確実に無事では済まないような道だった。
祖母は川にはすぐ着くと言った。
しかし田舎の人の「すぐ着く」なんて信用出来ない!
実際片道20分ほどかかった。
ボロくて小さめの橋がかかっているので、橋の真ん中まで行っておはぎを川へ捨てた。
帰ろうとしたら
「兄ちゃんどこの人?」
と見知らぬ初老の男性が声をかけてきた。
その男はいつの間にか僕の近くいたのでびっくりした。
僕が自分の苗字を言うとすぐ男は「〇〇(僕の父の名前)の息子か?」と聞いてきた。
そのあとも会話を続けると、その男は僕の父の小学校・中学校のときの同級生であった。
正直僕は早く帰りたかったが、男は止めどなく話を続ける。
するとその男は川辺の方を指差して、「あそこの木の近くの大きい岩があるところ見える?、あそこで俺はお前のとこのお父さんにイジめられてん。」
うわ…
気の毒ではあるけど、息子である僕はこれを聞かされてなんて言えばいいのだろう?
最悪だ。
その男は話を止めず、どんないじめられ方をしたのかまで話し始めた。
男の話す声には怒りや悲しみが感じられず、まるで懐かしい良い思い出を語るかのような声色で僕に話しかけてくる。
それが不気味でたまらなかった。
黙って聞くのも限界だったため、僕は父のよくない思い出や現在悲惨な境遇にいることなどを男に伝えた。
心なしか男は満足そうだった。
僕は早い段階で「僕急いでるんで」と断って帰ればよかったと後悔した。
その男が虐められたなんて話をしだしたため、尚更帰りづらくなった。
しかし悪いことは重ねて続くもの…
今度は霧が濃くなってきた。
僕は霧を理由に帰ろうとした。
すると男は近道と称して別の帰り道を教えてきた。
しかし僕は余計なことをせずにすぐ帰りたかったので話半分に聞き流していた。
その後男は僕が来た道とは逆の方の道に向かって帰っていった。
霧が濃かったので僕は慎重に来た道をそのまま歩いて祖母の家へと帰った。
帰宅後、祖母にボロい橋の上からおはぎを捨てたと言ったら、祖母は慌てて「そこちゃう!その橋渡って奥にもう一つ新しい橋があってそこに捨てるの!」「あとボロボロの橋のとこはだいぶ前に枯れて水は流れてない!」なんて言った。
どうやら僕は家を出る前に祖母の話をしっかり聞いていなかったようだ。
だがボロボロの川にはしっかり水が流れていたから、祖母は少しボケてるのではと疑った。
たが翌年のお正月に再び祖母の家に行くことがあり、例の橋のところに行くと水は一滴も流れていなかった…
またその橋を渡った奥には、もう一つ新しい橋があった。ここの川がお盆に御先祖様たちがいると言われている川だった。
もしかしたら僕が出会った男はお盆に帰ってきた幽霊かもしれないが、断言は出来ない。
なぜなら新しい橋を超えた先には、人が住む集落があるからだ。
でもその男は確実に僕に対して悪意を持っていた。
そう思うわけとは?
それはお盆のときに僕が男から教わった近道の話を聞き流した理由にある。
あの男はずっと崖側の方をさも道があるかのようずっと僕に説明していたからだ。
とにかく父のせいで僕は殺されそうになった。
たまったもんじゃない。
あとこの出来事を父には話していない。
ぼかして言うなら、父と僕含むその他家族には物理的かつ心理的な距離がある。
話そうなんて思わない。
しかし今度のお盆は父一人で橋のところへ行って、あの男と決着をつけるべきだ。