怪談No.16 臨死体験論争
知人から聞いた話。
知人の大学時代に友人、小林(仮)はバイク事故で意識不明になったほどの大怪我を負った。
小林は長い入院生活から解放され大学に戻ってきたが、小林は友人や知り合いたち相手の不思議な臨死体験を話すようになった。
小林はなんと意識不明になっていた間、神様に会ったというのだ。
小林曰く
「山や雲、海、砂漠など様々な景色をストロボ映像のように高速で見た後、真っ暗なトンネルに入って小さな光に向かってものすごいスピードで移動した。」
「トンネルを抜けると地平線も何もない真っ白な空間にいて、周りを見回してもなにもない。すると突然目の前に"言葉では言い表せないようなもの"が現れた。」
「でもその何かを見た瞬間、不安や苦痛が一瞬でなくなって人生で1番心地よい気分になった。あれは神様だと思う!」
と語っていた。
みんな小林の臨死体験を信じていたかはわからない。
だが死んでもおかしくない事故から奇跡的に復帰した小林が話していたから、みんな真摯に小林の話を聞いていた。
1人を除いて。
知人と小林と同じサークルにいた同期、村上(仮)は小林の話を馬鹿にしていた。
村上「小林は、『アメリカに旅行に行ったら、空港で大統領が出迎えてくれた!』と言ってるようなもん。どうして小林なんかにわざわざ神様があの世の入り口でお迎えするんだよ笑」
たが小林はそれに対して
「人間の道理・能力を基準に神様を語るのはおかしい!神様なら分身して死者全員を出迎えてきてくれてもおかしくない!」
とか一理あるが無理矢理な理論を展開。
いつのまにかサークル内で小林 vs. 村上の議論をみんなで面白がって見るのが風物になっていた。
ある日村上は小林に
「お前が神様だと思いこんでいるモノの見た目を教えろよ!"言葉では言い表せないようなもの"って言っても実際見えていたわけだから、少しは特徴を言えるだろう?」
と聞いた。
おそらく小林から多数の情報を引き出して、そこから矛盾点を見つけて突いていくという作戦だろう。
小林は答えた。
「だから本当に言い表せない!!絵でも描きようがない。はっきり言えるのは人型だったってこと。」
「一目見た瞬間に鳥類とか爬虫類とか虫とかの特徴がまるで一緒に合わさったかなような印象だった。とにかくあらゆる生き物の情報が頭に入ってきたけど、神様の側にいた気持ちよさが強すぎてはっきり覚えることができなかった。」
みんなは思わず笑ってしまった。
いろんな動物の特徴があるって、それってHUNTER×HUNTERのキメラアントじゃん!笑
周りが笑う一方、村上は真剣そうな顔で
「それ悪魔じゃね…?」
と尋ねた。
周りが一瞬固まる。村上が続けて
「西洋絵画とかにある悪魔の絵って色んな動物の特徴を合わせてるだろ?」
「西洋だけじゃない東洋でもそうじゃん。鬼とか龍とか。そもそもお前が行ったあの世って本当に天国か?」
普段ならみんなは「村上が意地の悪いこと言ってる」って思うだけなのに、村上は真剣な表情で小林に聞くから異様な雰囲気が漂い始めた。
小林も小林でちょっとの間真剣な顔して黙ってしまった。
この状況がとても怖かった。
何人かはこう思ったんじゃないか?
"小林自身も天国とは言い切れない理由があるのではないか?"と。
小林は沈黙した後周りの雰囲気を察して、笑いながら村上に「オーイ!びびらすなよー笑」と言ったきり。
その後小林は臨死体験を話さなかったらしい。