マクロ経済学「デフレ・レポート」
■デフレーション【De-fla-tion】とは
(通貨収縮の意)通貨がその需要量に比して過度に縮小すること。通貨価値が高くなり、物価は下落するが、企業の倒産、失業者の増大などの社会不安を伴う。(『広辞苑 第四版』)
デフレーション(デフレ)はインフレーションとは逆に、通貨供給量や総需要の減少により物価が継続的に下落する現象である。商品取引が不活発となり、経済活動は不振となる。
「少なすぎる需要を、過剰な供給が追いかけることにより生ずるもの(Deflation would arise from too much supply chasing too little demand.)」がデフレである。
■デフレが進む日本経済 ― 深刻化する不況 と デフレ・スパイラル ―
デフレが株価に与える影響と深刻化する不況とは密接な関わりがある。1989年12月に株価はピークを記録したが、90年になって、湾岸戦争による原油価格の高騰や相次ぐ公定歩合の引き上げによって株価は下落を続けた。また地価も不動産貸し出し総量規制によって下落していった。91年には証券・銀行不祥事が相次いで発覚し、株価は更に急落した。このため政府は新総合経済対策をまとめたが景気は低迷したままである。
バブル崩壊による実体経済への影響は大きく、中でも巨額な不良債権や株・土地の含み益の激減で日本の金融システムは大きく揺らいでいる。また急激な円高や、安い輸入品が引き起こした価格破壊、国内の需要不足などにより、企業のリストラが進んだ。日本経済は物価の下落と需要の減少が連鎖的に起き、経済の規模が急激に縮小する悪循環であるデフレ・スパイラルに陥るおそれもある。
■デフレの影響
デフレとは、お金の価値が上がり、相対的にモノの値段が下がることをいう。モノの値段が下がったからといっても、通常、人は必要以上にモノを買うことはないので、モノが同じ数だけ売れても、販売価格が下がれば企業の売り上げは落ちていく。企業業績が悪くなると、経済活動全体が元気をなくし、経済が縮小していく。全てのモノの値段が比例して動けば、問題はないが、現実はそうではなく、物価の下落に追いつけないものが出てくる。
例えば、「賃金」などはその1つである。企業が出荷する製品の価格が下がり、売り上げが減っても、すぐに賃金がカットされるわけではない。賃金は従業員の生活を支えており、重大な関心事である。それを引き下げれば従業員の労働力を下げるおそれがあり、悪くすれば労使紛争にもつながりかねないからである。そのため、企業は賃金引き下げに慎重にならざるを得ず、それだけ収益が圧縮されることになる。そして企業は出費を抑えるようになり、新たな設備投資を抑制する。企業業績の不振が雇用不安につながるため、将来を心配した家計は、消費を抑えることになる。住宅のような長期ローンを伴う買い物を控えるようになり、ますますモノは売れなくなり、さらに物価は下がる。
■デフレが起こる理由
バブル経済崩壊後、日本でもデフレの状況が続いている。これは、好況に慣れきった企業が過大な設備投資を続け、家計も消費ブームにわき返り、モノが世の中に溢れた。モノが溢れていてもそれを買うだけの消費が続けばよかったのだが、その消費は崩れ、モノが供給過剰の状態になり、デフレに陥っている。
■デフレの本質
モノの値段がそのときどきで異なっていたら、いくら需要と供給のバランスで値段が決まるといっても、買い物をする時まで価格の見当がつかない。それでは当然困る。食料品などの生活必需品の場合には、価格が安定していなければ計画的な家計が営めなくなる。そもそも、モノの値段が変動しても、モノ自体の価値は、短時間ではそれほど変わらない。物価が高騰したり下落したりする場合は、モノの価値自体が変化しているのではなく、お金の価値が変化しているのである。
■長期化しやすい日本のデフレーション
戦後世界経済の最大の課題として常に意識されたのは、インフレーション、あるいはスタグフレーションの克服であった。このため、インフレに関する研究と政策は、実際に有効であったかどうかは別論として、かなりの蓄積がなされてきた。一方、現在のように物価が継続的に下がる状況が到来することをエコノミストも政策担当者も殆ど予期していなかったといっても良いだろう。このため、デフレに関しては、大恐慌の研究をのぞいては理論・実証ともに不十分である。標準的なマクロ経済学の教科書においてもインフレには多くのスペースが割かれているのに対し、デフレはせいぜいインフレの反対の現象としか把握されていない。現代の日本のように緩慢な物価下落が長期にわたって続いていること(クリーピング・デフレーション)が、果たしてどのような意味を持つのか正確に把握することは難しい。しかし、日本のデフレがいったん長引くと歯止めがきかなくなる構造を内包していることは、生存確率分析*1を用いたアプローチにより明らかにされている。
政策担当者、企業、個人のいずれもが、一般物価の下落傾向は容易には止まらないことを前提に意思決定をすべき時代に入っていることは間違いない。