「イブなのに、悪夢キタ」
後味のわるい夢をみた。
沼からずるずると這い上がるように目を覚ました。
そのタイミングで潤ちゃんが階下から、「お昼どうするー?」と聞いたけど、食欲なんかぜんぜんない。
「どーした、具合悪い?」
夢の内容を説明するほど、まだ言葉に落とし込んでいないので、「いや」と言うだけ。
「所詮、夢」と一蹴できない。
夢という形で見せようとしている何か。
夢はこんな内容だった。
わたしたち家族は、過疎化した町の古い喫茶店にいる。
茶色の木が複雑に入り組んでいる店内は、昼だというのに薄暗くてランプが灯っている。岩手とか長野とかにありそうな民芸調の内装。
そこで偶然に居合わせた友人が、ここからすぐ近くにある物件を見てきたという。
価格が破格で、「とにかくでかい!」と興奮していた。
話を聞いていたらなんとなく興味がわき、暇だし見に行くかということに。
車で数分、その物件は廃校だった。(聞いてないよ!)
木造とモルタルで出来た昭和の建物。リノリウムの床は色褪せたグリーンで、歩くとペタペタと音がする。
講堂みたいな広い建物に入る。建て付けの椅子がアールを描いてUの字に並んでいる。席はひな壇になっていて、いちばん高い席のすぐ後ろには大きな窓がある。そこから目も眩むほどの西陽が真っ直ぐ差し込んでおり、そのせいで座面のビニルがやけている。
講堂を出て、突き当たりは体育館だった。
体育館の屋根は白いコンクリでぽってりと覆われいて、まるで雪が積もっているように見える。
室内はすごーく寒くてシンと静まり返っている。かつての子どもたちはここで体育の授業をしていたのだろうが、今はまったくその気配の名残すら残っていない。
廃校の価格は990万円だった。
確かに破格。だけどここにあたらしい新鮮な風を吹き込ませるためには、いったいどれだけの予算とあかるさが必要なんだろう、と買う気もないのにひとり気が遠くなった。
そこにきれいな服を着た背の高い人たちがずらずらと入ってきて、わたしたちに声を掛けてきた。
そのまま立ち話となったのだけど、話の内容は「自分を輝かせましょう」というような趣旨だった。実際にその人たちは、「毎日とても充実してますよ」みたいな目をして、わたしたちを値踏みするように見ている。その目のもっと奥には、「あなたたちは輝いていないからわたしたちがお手伝いしましょう」というようなぎらつきがあった。
とにかく話がうまくて、気がついたら家族全員でセミナーのような場所で並んでいた。他にもたくさんの人がいたけれど、みな知らない人だった。
資料のようなものを渡されて、なんとなく目を通した瞬間、急に我に帰った、いや、完全に正気に戻った。
まるでスイッチがパチっと切り替えられたかのように。
「これはぜったいにお金の絡むやつだ」
直感的に確信して、そこからは無我夢中で脱出することだけを考え始める。
でも、どこを見ても見張り(のような人たち)がいて、「彼らは確実にわたちたちを洗脳するまでここから逃してはくれないだろう」と絶望的な気持ちになる。
どうしてこんなところに来てしまったのだろう。
逃げようとして捕まっても酷い仕打ちを受けるに違いない。
でもなんとかここから出ないと、家族全員で。
そこで目が醒める。
隣には、寝息を立てている末っ子。一昨日からの高熱でまだ息が荒い。
足元には猫が丸まっている。雄鶏のクロちゃんが空気をつんざくように高らかに鳴いた。
末っ子のおでこに手を当て、熱と平和を確かめる。
一方で、ちょっと軸が変わればあの世界が続いていて、それはまったく関係のないことではないのだ、と。
後に起きてきた末っ子が、レモン入りの甘酒を所望した。
そうだった、今日はイブ。
クリスマスという世界線のなかで悪夢君臨。