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「いきものとの共存」

秋めいてきたからか、真夏にはやや劣勢だった蚊たちが、夜な夜な猛威を振るっている。
耳元で、近づいたり離れたり、徒党を組んでずいぶんと調子に乗っている。


この夏、寝室においては「クーラーなし」を達成した。
表向きは「電気代節約だよー」というていだが、実際は、クーラーの調子がいまいちなのである。つけるとポタポタと雫が滴るし、冷房の温度を20度とか厳しめに設定しても、ちっとも体感が得られない。
ああ、それはきっとダクトになにか詰まっているはず。
ヤールーなのか埃なのか知らんけど、「いちど電気屋さんに見てもらわないとな」と思いながら、気づけばうっかりひと夏越えてしまった。

なもんで、常にサッシが全開。
サッシは東側にけっこう広く開いているが、たまに南から帯状の風がスーッと入ってくる。合わせて扇風機の風もあれば割と寝れる。
窓辺には「りんねしゃ」の菊花線香を設置。しかし、線香がちょうど消える明け方、「待ってました!」とばかりに蚊がやってくる。
まどろみの明け方、毎度このタイミングで起こされていたが、
ようやくそれも解決。「ハッカ油」さえあれば、むしろ刺してくれてサンキュ!ってくらいに(うそです)爽快な明け方を約束してくれる。
ハッカ油を塗れば、スースーハーハー、どこまでも涼しい。
菊花線香と併せて、窓全開の睡眠には欠かせない神器だ。

といった感じに平和的な明け方を過ごしていたのだけれど、最近はもっぱら仔猫がうるさい。2匹で追いかけごっこ、若気の至りか節操がなく、顔の上でも構わず全速力で駆け回るから、家族からの苦情が頻発している。
「痛いっ!」「いい加減にしろ!」と怒声が響く。極め付けは、あれ?静かになったなーと思ったら、わたしのタオルケットの上でおしっこをしていた。

カオス、またはケイオス。

この間の土日は、子どもたちがなかなかの野生味を発揮していた。
まず末っ子が、「ママー、網買いたいからお金ちょうだい」と言った。「網?何に使うの?」「海老とるの」「海老なんてどこにいるの?」「ガソリンスタンドの前の川」
あの川、か。これまで人が入っているのを見たことないってことは、きれいなはずがない。
わたしが「うーん」と衛生面で悩んでいると、末っ子は「だめ?だったら網つくるか!網、どうやって作るんだろ。洗濯のネットとかで作れるかも!」と、網のことしか頭にないようだった。
バンコクのチャオプラヤー川に飛び込んで遊ぶ子どもや、ホーチミンの路地がスコールで膝丈くらいまで冠水してそれに大喜びして水球する子ども、泣く子も黙るインドのガンガー。
どこでも現地の子どもは濁水にまみれてた。(いや、ガンガーは聖水ですね!)
楽観はできないにしろ、「汚いよ」のひとことで済ませてしまっていいのだろうか。
そこには海老も蟹も魚もいるらしく、そこそこ生き物がいるってことは、(わさびが植生する清流ではないにせよ)まだマシってことだろう。
川自体、深さもないし、流れも限りなく緩い。
子どもたちに目立った生傷もないし・・・・とかなんとか。

そんなことをあれこれ考えて、「ま、いっか」に思い至った。

「いいよ、スーパーで網買っておいで」と300円渡すと、末っ子と近所の子たちは「やったー!」と歓声を上げた。(作るのもいいけど、わたし絶賛仕事中だから、「ママ、針金!」とか言われても対応出来かねるので)

しばらくして、全身びっしょびしょな子らが、顔を紅潮させて帰ってきた。「帰ってきた」ってよりは、「帰還した」がぴったりなほど、誇らしげだった。
「見てー!やばいよー!でかいよー!」と、見せてくれた手長海老は、ジャングルに住んでいた頃、まいにちのように手長海老獲りをしてたセミプロのわたしからしても、目を見張るほどの大きさだった。さすが街。無為人為の有機物のなせる匠の技。
てか、大きい個体ほど捕まえるのが難しいのだ。すごいな!

で、これどうするの?って言ったら、「もちろん焼いて食べるっしょ!」と。
一瞬、怯む。
でもすぐに、「やれるもんならやってみろ」という反骨精神がむくむく発露して、「おお、喰ってみろ、喰らえ、今帰仁仲宗根の海老を喰らうがよいわ!」という心境で、最後まで子どもたちの好きにさせた。

「いえーい!出来たよー!」
しっかりと米油で焼かれてきれいな赤に変色した海老は、仕上げに溶けるチーズがのせてあった。さながらオマール海老のグラタン風だ。

3人の子らは並んで海老に向かう。
バリバリ、ガチャガチャ、ポキポキ。
丈夫な歯の小気味いい音を響かせて、無言で貪る子どもたち。
数匹を胃袋に収めたあたりで、ようやく感想がもれはじめた。
「めっちゃ美味しいよね!」「うん!海老の脚がとくに美味しい」「香ばしい!」「明日も行こう!」「うん!」

さて、これから明日の朝までお腹が痛くならなかったら、海老との戦いはあなたたちの勝利だ。

梅肉エキス、琵琶の葉エキス、高麗人参エキス。
これらの常備薬の在庫を確認しながら、人間の性(サガ)を思った。
いつの時代でも、「食べてみたい」という誰かの好奇心が功を成してくれたおかげで、わたしたちはこんにち安心して食べることが出来る。「たべもの」とひとえに言っても、トライ&エラーを繰り返し、いったいどれだけの犠牲の上で成り立っているのだろう。
それに昨今は、除草剤にPFOS、残留農薬と、自然由来の毒以外もてんこ盛りだから、ますますのサバイバル。


で、さいわい全員、お腹痛いとか熱出すとかボツボツ出たとかなくて、ほんとうによかったんです。
だからこうして書けたのだけど、よい子のみんなは真似しないでね。(笑)


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