「象印」
台風で壊れた(?)精米器の件で、象印お客さまセンターから電話がかかってきた。
電話口の中年男性は落ち着き払った声で、「今回、お客さまの精米器は無料で修理させていただきます。」と言った。
「お客様が保証書を紛失した件に関しましては、製造番号をこちらで確認しまして、製造からまだいちねん経っていないことが証明されたので、保証期間が適用されます。まずは、ご希望の9日着で精米器の代用品をお送りしますので、到着したらその場で中身を確認していただき、取り出してください。そのまま壊れた精米器をその箱に入れて、宅配業者の方に渡してください。この費用もいっさいかかりません。」
これまで何度も電化製品が壊れては、修理だなんだと各社「お客さまセンター」とやりとりしてきた。
保証書を失くしたらその時点でアウト、当たり前に有償で修理、かつ修理したらこんなにかかりますがいかがなさいますか?と、遠回しに「あたらしいの買った方が安いよ圧」をかけられるものだと鼻っから思い込んでいた。
この圧は実に悩ましく、お客さまセンターの意見が合理的とはいえ、正直いいカモになった気分になる。
その点、象印は有償修理の場合でも、「上限〇〇円までの範囲で」といった設定をあらかじめ設けているため、おもむろに金額を提示されることはない。
処分する際は、村のコンビニで「粗大ゴミ処理券」を300円で購入して、ごみ処理施設に直接持っていく。そんなに手間ではないけれど、そんな簡単に捨てるに至ってしまっては、「修理する人のスキル」どころか、「修理する」ということ自体が絶滅するんじゃないか。
金継ぎやダーニングみたいに、「うまれかわったうつくしさ」や「経年変化による味わい」みたいなことを家電には期待しないにせよ、「電化製品はわざと壊れやすいように作ってあるらしい」という、ほとんど都市伝説みたいなことが脳裏によぎって、疑い深さにますます磨きがかかる。
嫌なことです。
そこで、この度の象印だ。
加えて、代車ならぬ代用品があるなんて。業務用ならともかく家庭用なのに。
「ああ、精米器ないと困るなぁ。修理の間、アッコの家に精米させてもらいに行くかなー。はー、まとめてだとひたすら精米しなきゃだよなー」という、こちらの憂いを察してくれたかのよう。
わたしは電話口の中年男性に、ハグできないもどかしさを込めて、
「こんなに丁寧で痒いところに手が届く対応は初めてです。めちゃめちゃ感動しました。修理、よろしくお願いします!」と思いの丈をぶつけた。
男性は、「かしこまりました。この度はご利用ありがとうございます。」と、誠実に言い、お互い気持ちよく電話を切った。
たった数分のやりとりだったけど、世の中捨てたもんじゃない。
この気持ちを胸に刻むべく、精米器に名前をつけようと思う。
象印の創始者は、市川金三郎、銀三郎という兄弟らしいので、それにつづけとばかりに、銅三郎!がいいんじゃないか、と。