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「銀座にて」

羽田に着いてからは、しっかり頭に叩き込んだ電車の乗り換えミッション遂行、最終目的地の地下鉄有楽町線「新富町」を降りて、「こっちかな〜」と適当に歩き出したはいいが、完全に迷ってしまった。
方向音痴なのに、つい「勘」を発動させてしまうのは、たんなる面倒くさがりなんだろう。

時刻は22時過ぎ。それでも人が歩いている都会でよかった!

会社帰りっぽいOLさんに道を尋ねると、すこぶる親切にスマホをバックから取り出して調べてくれた。
「あっちの方向ですかね〜?」と、ビルとビルの合間を指差す、その指先に「希望」という名の光を見出してしまった。
「ありがとうございます!」
お礼を述べると、「頑張ってください!」なんて、思いがけずエールをいただく。かたじけない。

さて、気を取り直して歩く。
数分も経った頃、「なんかー違うかも」と一抹の不安がよぎるも、「自信を持て!自分を信じろ!」と汗だくでガシガシ歩く。が、悲しいかなその「勘」は当たっており、たちまちここはどこ状態に陥ってしまった。
自分に搭載されている「あっちの方向」という方位磁石のポンコツっぷりにうなだれつつも、ちょうど目の前に店じまいをしているスキンヘッドの男性が。
「すいませんっ!」と小走りで駆け寄って、いかにも田舎から出てきたおばさんライクで困った感をついアピール。
「ああ、そのホテルだったらあの信号を左。すぐに見えますよ」
って、近いってこと?!
甲斐あって、目的地のホテルの看板が見えたときは「キターッ!」ってガッツポーズ。

こうやっていつも人に聞いて事を為してしまうせいか、一向にスマホを持つに至らない。家族友達他人さま、人類に依存しているのである。

ホテルのエントランスで無人チェックインを済まし、久しぶり過ぎる東京の風景を反芻しながら、ボーッと部屋で休んだ。

駅から駅へ、たくさんの人たちを見て思ったのは、東京は恋の街だなぁってこと。
有楽町も浜松町もカップルで賑わっていて、♡がホワホワしてた。
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今回の東京滞在は3泊4日であった。
滞在先のホテルが築地市場まで歩いて10分ほどの好立地だったので、連日に渡って朝から築地市場&築地本願寺参拝に勤しんだ。
外国人観光客が列を為す海鮮屋台や玉子焼き屋などを横目に、こちとら鮮魚店が立ち並ぶ専門店通い。

跳ね上がった形状のままトロ箱に並ぶ真鰯♡、旬のしんこやコハダ♡、整列されたピッカピカの太刀魚♡、ショーケースに鎮座する本鮪赤身♡、ぺったりと平行なヒラメやカレイ♡、目が水晶の玉のような金目鯛♡、ちいさくてさも柔らかそうなサルエビ♡、ツブ貝、ホッキ貝、巨大な蛤♡、原始オーラのシャコ♡
わたしの目(まなこ)が猛烈に喜んでいるのがわかる。鮮魚を愛でていると思わず目尻が下がり、「くうーーーーったまらんわい!」と声がもれる。
なもんで、初日は落ち着いて買い物どころではなかった。
がしかし、沖縄まで持って帰れるものや送れるものはごく限られているからまぁ無念。だが、まぁよし。

場内を3周ぐるりとまわり、ようやく岩牡蠣に食指が動いた。
無言でひとつ、つづけてふたつと呑み込む。

もうだめだ。ここに住みたい。

冷静さを取り戻すためにいちど建物を出て、両脇の雑居ビル群を見上げてみれば、窓辺に洗濯物がヒラヒラたなびいている。なかでも白い作業服が目立つのは、ここで働いている人たちのものであろう。「市場で働くってどんな感じなんだろう」と想像しながら、「綱兼」という激渋の珈琲ショップでアイスコーヒーをいただいた。

お土産は、筋子、鰻の蒲焼き、鰯丸干し、本山葵、ホワイトアスパラガス、各種乾物。
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銀座「森岡書店」の森岡さんとは初見であった。
飄々としながら腰が低い森岡さんは、まったく人を緊張させるようなタイプのお方ではなかった。
会話の相槌のツボをよくご存知の、可笑しみ溢れる森岡さん。

ここは「書店」であるにも関わらず、週に1冊の本をレコメンド。すなわち本はその1冊しか店頭に置いていない。
でも週ごとに本は変わるので、毎週通うお客さんが多いのだそう。
なんて都会の文化的なお店なんだろう。それにそのニッチなビジネス形態は、きっと世の窮屈さや閉鎖的な雰囲気に息が詰まる〜って人たちに冒険や勇気を与えてくれているんだと思う。

にしても、展示の期間中は胸がいっぱいだった。
従姉妹を筆頭に、30年ぶりに会う幼馴じみや親しみと愛着ある愉快な仲間たち、1作目から本を買ってくださっている方、お世話になった編集者やブックデザインの方々・・・・。

もう嬉しくてありがたくて、しあわせを噛み締める。なんなら噛み過ぎて奥歯がすり減ったと思う。感謝の風呂にとっぷり浸かっている気分。

やんばるくんだり。
ああ、長く続けてきた甲斐あったなーって。でもこうして続けてこれたのは、ひとえにみんなのおかげさまである。
私めのために、いろいろ準備や宣伝をしてくれる方々の愛に、もう先祖代々を代表して御礼を申し上げます。
深謝。
__________________________________ちいさな路地をひょいっと入ったいちばん奥の、穴子づくしの料理屋さんで、穴子の刺身なるものを初めて食べた。
半透明のうつくしい身、確かな隠し包丁の技、甘くてプリプリした歯応え。
夏だけの旬の風味。
なにより、生の山葵を鮫肌おろしで各自しゃこしゃこと擦る。
偉大なる生山葵。随分とご無沙汰じゃーねーか、ほっといてごめんよ、忘れたわけじゃーねーんだよ。
べらんめえ調で、ひたすら擦った。

隣では赤澤さんが龍談義している。
京都のとある寺の龍はめったに見れないだとか、ハワイの神話に出てくる龍とか。
わたしにとって、「龍」っていったら赤澤さん。そろそろ「ドラゴンかおり」に改名する日も近いのではないかだろうか。
今度ぜひ、今帰仁の龍神さまにお連れしたいなぁと思う。
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那覇空港には、家族総出で迎えに来てくれた。
潤ちゃん、長女長男次女。みんなが「おかーさんおかえり!」と声を掛けてくれる。
「あーそうだった!わたしはおかーさん(って役目)だったんだ」と我に返る。
そして、「家族」というカプセルにスポッとはまる感覚もあり、なにかを約束したわけでもなく、契約も規範もないけど、なんとなく合致している。同じ方向を見てる。
なんか、すごーく不思議な気分であった。









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