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「ホームスクーラー」

子どもたちは週に4日牧場に通い、午前中は馬のお世話、午後は海や川に行き、毎週月曜日は薪でごはんを作るといった屋外での学びが中心なので、「読み書きそろばん」のような机上の勉強は家で行っている。
カッコ良く言えばホームスクーリングである。

そりゃ長男のときはやる気みなぎる30代(後半)だったから、熱血かつスパルタだった。
暮らしの中のささいな出来事を、思いつく限り「問題形式」にする。
例えば、お菓子作りからは「量」の概念が学べるし、出来上がったケーキを切り分けることは割り算。
車に乗れば九九を合唱し、目的地までの距離と時速から到着時間を導き出す。
「コンビニでチョコ買いたい」と言えば、「お金の計算が自分で出来るまではおあずけよー」と焦らしてハッパをかけ、いっしょに風呂に入ればのぼせるまで数を数えた。

自慢じゃないが自分史上、もっとも成績が良かった記憶は小3で、中学は陸上と雑誌「Olive」と恋愛に全エネルギーをそそぎ、高校は枕持参で寝に行くようなものだった。(バイトとデッサンに明け暮れ)
そんなわたしが「勉強を教える」だなんておこがましいにも程があり、「ギャグ?」ってくらいに身分不相応だわけ。

そんなとき、偶然「どんぐり倶楽部」http://reonreon.comの算数文章問題に出合ったおかげで首の皮いちまいで助けられ、5歳児から6年生までの各100問、計700問をすべてやり遂げたことは、わたしにとってかなりの偉業である。(やり遂げたのは長男と長女だけど)

それが末っ子の代になったらどうだろう。
長女と末っ子は7歳離れている。その7年のあいだにいったい何があったというのか、わたしは完膚なきまでゆるゆるに堕ちてしまった。
どんぐりはなんとか週1で行っているが、絵本の読み聞かせも、学年に沿った読み書きも、さながら春になっても冬眠から一向に目覚めない熊並みにサボっており、国会で爆睡する自民党の萩生田光一議員並みにサボっているのだ。

牧場が休みの日は、いつものように朝からネトフリ♡とスタンバッていた末っ子に、「チョット待った!」と声高らかにストップをかけてみた。
「カタカナ覚えよう。ママがお手本書いてあげるから、それを真似して書いてみよう」と促してみる。
「えー、いいけどー」と若干の不貞腐れ感がありながらも、健気に「すみっコぐらし」https://www.san-x.co.jp/sumikko/のノートと鉛筆を持ってきて、おまけにカチューシャまではめてきた。
わたしは黒マッキーで(下にうつるからやめて〜と言われてもなお)張り切ってキュッキュと書き始めたが、あいにくマッキーはインクがぎりぎりでカスカスの文字しか書けない。
そんな末期なマッキー(笑)で「ア」から「ン」まで、過不足なく書き切りると、やがてマッキーは寿命を迎えた。

「はい、ではやってみよう!」
末っ子はノートに向き合い、わたしは店の仕込みに戻った。

しばらくしてから末っ子は、まるで鬼の首をとったかのような勝ち誇った顔でわたしのところにツカツカと来て、「ママ、カキクケコ間違ってるし!」と鼻息荒く言った。「え、そんなバカな」であるが、いちおう確認したら、「カキコケコ」になっていた。
紛れもなく「ク」ではなく、「コ」のフォルムである。

そんなやりとりの一部始終を見ていた長女がひとこと、「キテるね」と言った。

やはり、わたしは骨の髄までゆるゆるに侵食されちまっている。
でも、そうはいっていられない。けっこう焦っている。いや、ようやく焦りがふつふつと湧いてきている。
いいぞいいぞ、この焦りは非常に貴重。
この焦り、決して無駄にはせん!

そんな決意表明したところで、昨日とて末っ子といっしょに「呪術廻戦」と「文豪ストレイドッグス」の新作を一気観してしまった。
(ちなみに呪術廻戦だったら夏油が好きです。文豪だったら芥川です。)

長男からも長女からも「おかーさん、いよいよやばそう」と、脅かされているし、そろそろ本腰入れなきゃな〜。

と、ふわっと思っていたら、ななんと!

長女がカタカナカルタを速攻で手作りし、末っ子といっしょに
「じゃあ次は『ヌ』!」とか言いながら朗らかに取り組んでいるではないか。
じーん。
めっちゃありがたい。
いや、「カキコケコ」やカスカスの筆致から、「こんなアホに我が妹を任せちゃおけない」と長女は悟ったに違いない。

結論から言うと経験上、読み書きは「それなり」に出来るようになる。じゃないと何かと不便が募って、遊びがままならなくなるからだ。
問題はわたしが(なるべく)「手をかけたか」とか「眼差しを注いだか」であり、3人目だからって放置していたら後戻り出来ない。
末っ子の、この年齢にしか出合えないおぼつかない文字や、可愛い勘違い、「あ!わかった!」という閃きの瞬間など、そこをいま共有&目撃しないでどーするの?って自分に詰めているのだ。

(しばし沈黙)


あ、なんかやる気出てきたかも!

そしたら末っ子の方から、「ママ、これから朝と夜に勉強するね!」と言ってきた。
じーん。
「じゃ、ママも手伝うね!」と言ったら、小首を傾げて苦笑いされた。








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