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これはほんとうの寿司ではないと言ってももう仕方がない
ニュージーランドで私が暮らし始めた1997年頃は、「スシってなに?」とか「生魚をたべるの?なにそれ信じられない!」などというニュージーランドの人も多かった。
けれど、少しずつニュージーランドでもお寿司屋さんが増えてきて、今ではどのフードコートにも持ち帰りのお寿司屋さんがあるから、最近はスシを食べたことがない人のほうが少ないだろう。
日本のお寿司屋さんと同じようなメニューのレストランももちろんあるけれど、フードコートなどのお寿司屋さんは、日本ではないようなお寿司が食べられる。
20年前からあるアボカドとサーモンをまいたカリフォルニアロールや、照り焼きチキンを巻いた照り焼きロールはもちろんのこと、チキンカツやエビフライを巻いたり握りにしたお寿司もあるし、揚げ物にマヨネーズをたっぷりまぶした巻きずしも定番のメニューだ。
日本から来た方の中には、「これはほんとうの寿司ではない」とおっしゃる方もいる。確かに、日本で普段食べているお寿司とは違うし、日本のお寿司屋さんでは絶対に出てこないメニューだ。
ではこれらは「ほんとうの寿司」ではないのか?というと、そうとも言えない。
これらがほんとうの寿司ではないのなら、たとえば、日本で食べているカレーやパスタも、ほんとうのカレーではないし、ほんとうのパスタではないものもあるだろう。甘口カレー?和風パスタ?なんだそれは、という方もそれぞれの本場ではいらっしゃるかもしれない。
でも、甘口カレーもおいしいし、和風パスタはもう定番だ。
だったら、エビフライ巻きやマヨネーズたっぷりのカツ巻きも、寿司の仲間だといってもいいのではないか。
そしてここが大切なところだけれど、そういったメニューが、売れるのだ。
お寿司屋さんは寿司を作るだけではなくて、売って利益を上げることが目的だ。いくら「日本と同じ寿司」を作っても、だれも買わなければビジネスとしては失敗だし、続けることもできない。
けれど、エビフライ巻きやカツ巻きは実際に売れるし利益が上がる。言い換えると、お客さんが好んで買うし、そこに需要がある。
そうであるならば、日本の甘口カレーや和風パスタと同様に、もうそれは寿司として、丁寧に言えば寿司のグローバル進化系として、許容すべきだと思うのだ。
「これはほんとうの寿司ではない」といくら言っても、好んで食べる人が実際にたくさんいるのだし、食べたくない人は食べなくてもいいのだから。
これはほんとうの寿司ではない、という考え方自体が、もう時代から少し遅れているのだと思う。