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ほんとうの実力とはなんなのか。オールブラックスの試合から考える。

ほんとうの実力とは、なんなのだろう。

昨日、2022年9月16日のオールブラックス(ニュージーランド代表)対 ワラビーズ(オーストラリア代表)のラグビーの試合をご覧になった方も多いだろう。ニュージーランドやオーストラリアで暮らしている方はもちろん、日本をはじめ世界中のラグビーファンが注目する一戦だった。

オールブラックスは今年は調子がよくなくて、アルゼンチンにさえホームゲームで1つ負けているので、メルボルンで行われたこの試合にも、絶対に負けるわけにはいかなかった。

試合は、残り時間6分でオーストラリアが同点に追いつき34対34とした後、残り3分を切ったタイミングで、ペナルティゴールで34対37とさらにワラビーズが3点リード。その上、残り1分半で、ワラビーズのゴールポスト前でオールブラックスに反則のペナルティーが与えられ、ワラビーズボールとなった。

残り1分半、3点リード、しかもボールはワラビーズ。ここでワラビーズが蹴り出せばもしかすると試合終了になるかもしれないし、もうワンプレーあったとしてもワラビーズボールのラインアウトだから、そこから数十秒ボールをキープすれば、ワラビーズがまず間違いなく勝てる状況だった。

見ている人全員が、オールブラックスがここから逆転して勝つことはもう無理だ、と思っただろう。

でも、ここでレフリーがワラビーズの反則を取る。ペナルティのボールを蹴り始めるまでに時間がかかり過ぎたという理由だ。テレビ中継では時計は動いていたように見えたけれど、不必要に時間を稼いで残り時間を少なくして、不当に有利に試合を進めようとした、と判断されたのだと思う。

ジャッジ直後のレフリーの言葉をマイクを通して聞くと、タイムオンにしてから何度もキックをうながしたけれど、(時間を稼ぐ目的で)なかなかキックをしなかった、との説明だった。

このレフリーの判断は一晩明けた今朝もまだ賛否両論が沸き起こっているけれど、試合は残り1分半、ワラビーズのゴールポストの10mほど手前で、オールブラックスボールのスクラムとなった。

ラグビーは、試合終了時間になってもプレーが続いていたらそのプレーが終わるまでは笛は吹かれない。残り1分半からのオールブラックスの攻撃は、試合終了時間を超えて続き、そして、80分35秒にトライ。スコアを39対37として、勝利を収めた。

これがオールブラックスの実力だ。

誰もがもう勝てないだろうと思ってから、最後の最後に逆転して勝つ。

確かに、残り1分半のレフリーの判断は、特にワラビーズサイドからは疑問があるだろう。

でも、そのあとボールを持ったオールブラックスが、逆転のトライを上げられるかどうかは、また別の問題だ。

残り1分半のレフリーの判断は、オールブラックスにとってはラッキーだった。しかもこれは、オールブラックスが相手のミスを誘ったわけではなく、ワラビーズのミスだった。

でも、その運を、残り1分半でみごとに活かして、逆転勝利を収めたのは、オールブラックスの実力だ。もっと言えば、その時点でワラビーズのゴールポスト手前10mまで攻め込んでいたのも、オールブラックスの実力なのだ。

そして、この残り1分半での逆転勝利を手中に収めるためには、そこまでの長い時間、それぞれの選手がきついトレーニングを続けてきた。大げさな言い方をすれば、それぞれの選手たちのラグビーキャリアの全てが、この1分半に集中して、トライにつながったと言える。

それが実力なのだ。

目に見える1分半の攻撃。その間の選手たちのスキルや判断。そんなものももちろん実力と言えるのかもしれない。

でも、個々の選手の短い時間の中のスキルや判断を生んだのは、それまでの長い長い間の、トレーニングであり、自負であり、プライドでもあり、また、オールブラックスの歴史であり、文化でもある。

それを、ほんとうの実力というのだと思う。

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