シリーズ・留学を考える [19] - 留学を考え始めたときからすでに留学は始まっている
留学は、留学先の国に降り立ったときから始まる、と思っている人もいるけれど、実はそうではない。
実際に留学にきた人には、必ず留学を考え始めた瞬間がある。テレビの情報、友達の言葉、読んだ本、ネットの情報など、あとから思い出せないこともあるけれど、この瞬間から留学を意識し始めた、という「とき」が誰にも必ずある。
最初はあこがれから始まる人も多いだろう。なんとなく留学に行きたいと思う。そしてしばらくそのまま時間が経って、ふとまだ自分は留学に興味があることに気づく。
じゃあとりあえず情報でも集めてみようと、ネットで検索したり、本を読んだり、経験者に聞いたりする。
留学に関する情報は莫大だ。書店でも留学のコーナーがあるし、ネットで検索しても何万件という項目が出てくる。
それを一つ一つ選んで、調べていく。情報は、留学先の国や学校に始まって、ビザや入国に関すること、費用や滞在可能期間、滞在先の法律や、気候や文化など、数限りない。そして基本情報を集めた後は、実際に留学に行くとなると考えるべきこと、たとえば、家族や友達、仕事や学校、持っているものを捨てなければならないこと、人との別れ、それまでの人生の計画変更、などについても深く考える。
そして、これじゃあ留学はちょっと今は無理だわ、と留学をやめる人もいるだろう。それはそれでいいと思う。留学を考え始めた誰もが実際に留学に行くわけではない。そこまでいろいろと情報を集め、いろんな人に相談し、自分のことを深く考えたことは、あとで必ず活きてくる。
でもそこからさらに留学に興味を持って、絶対に行きたいと強く思うようになる人もいるだろう。集めた情報を自分の現状に照らし合わせてみて、留学は可能だと考える。留学が、最初のあこがれから強い希望に変わる瞬間だ。
そしてさらに情報を集めながら、いろいろと幅広く、そして深く考える。そうするとある日、留学に行くかどうか、決断するに足る情報が手元にあることに気づく。そこが決断のときだ。
留学に行くのだ、と最終決断するときには、情報だけではなく、自分の現状と、そして家族や友人など自分の周りの人の状況もじっくり考えなければならない。そして、決断する。
「よし、留学に行こう」
それは、単に留学に行くという決断だけではなく、未知のところで未知の人と未知の時間を過ごすという決断でもあり、今持っているものを捨てるという決断でもあり、自分を変えるという決断でもあり、新しいことを学ぶという決断でもある。
この、「決断する」という行為そのものがとても大切だ。誰もが簡単にできる決断ではないからだ。
決断したら、つぎは行動だ。
留学までの準備もいろいろある。出発日も決めるから、それまでのタイムマネージメントも必要だ。また、人と違うことをするのだから、そこからは人と違う生活が始まる。今まで遊んでいた人からの誘いを断ることも出てくるだろうし、全ての人に自分のことを言うわけでもないだろう。人間関係がうまく行かないいこともあるかもしれない。
でも一旦決断したら、行動あるのみだ。
そして出発日が近づいてきたら、具体的な準備に取り掛かる。学校の申し込み、ビザ申請の準備、航空券の購入、そして荷造り。
大きな期待に胸を膨らませながらも、どこかで「この決断は正しかったのだろうか?」「このまま留学にいっていいのだろうか?」とふと頭をよぎる。
でも「いや、私はよく考えて決めたのだ。必ず留学に行くのだ」と自分を振るい立たせる。
そして、最後に出発の日を迎える。その日は、留学に行くスタートの日であるばかりでなく、留学を考え始めてから実現するまでの、最後の日でもあるのだ。
そこまででも十分、留学の醍醐味を味わっているし、留学の一部と言ってもいい。
万一状況が変わって直前に留学に行けなくなったとしても、そこまでの経験はその人しかできない経験だ。絶対に無駄にはならない。必ずあとで活きてくる。
そして留学に行く人は、空港に行って、出国ゲートをくぐり、飛行機に乗って、留学先の国に降り立つ。
今、留学に来ている人たちはみんな、そんな経験をしてきている。
留学を考え始めたときから、留学は始まっているのだ。