シリーズ・留学を考える [16] - 親御さんの役割
留学生活は留学生のものだけれど、日本で見守る親御さんが留学生活に与える影響は、想像以上に大きい。
ネットでいつでも誰とでも連絡が取れる時代だから、親御さんも自分が連絡を取りたいときに9,000キロ離れて留学している子どもに連絡ができる。
だから、ネット以前の時代と比べると、今は親御さんやご家族が、留学生に頻繁に直接連絡を取り、影響を与える。特に18歳以下の中学高校留学生に対しては、親御さんの一言が留学生活を大きく変えるきっかけになることもあるし、親御さんのその時の気持ちが留学生の感情に波及することもある。
遠く離れて子どもを見守る親御さんは、とても心配だ。
だから、食事はきちんととっているだろうか、体調は悪くないだろうか、友達やホストファミリーとうまくやっているだろうか、勉強は進んでいるだろうか、自分できちんとタイムマネージメントはできているだろうか、ラグビーで怪我をしていないだろうか、何か犯罪に巻き込まれていないだろうか、楽しく過ごしているだろうか、一人ぼっちでないだろうか、夜に一人で泣いてないだろうか、などと、いろいろと想像して、いてもたってもいられなくなる。
けれど、親御さんが心配しているようなことは、留学生活ではほとんど起こならないし、たとえなにかが起こったとしても、なんとか解決できる。
学校の先生は先生としてプロフェッショナルだし、ラグビーのコーチは怪我の対処にも慣れいてる。ホストファミリーは留学生の毎日をよく見てくれるし、友達も相談相手になってくれたりする。もちろん私たちも留学生サポートの経験と知識を持つプロだ。だから、何か問題が起こったとしても、親御さんも含めて周りの人たちの力で、解決をしていく。
でもやはり、子どものことを一番わかっているのは親御さんだ。留学に来るまでずっと一緒に暮らしていたのだから、留学生の性格や考え方、感じ方、癖やできることできないことまで、よく知っている。
ただ、親御さんは子どものことをよく知っているからこそ、子どもに大きな期待をする。
せっかく留学するのだから、英語力はネイティブ並になってほしい、現地の友達をたくさん作ってほしい、単位をできるだけ取ってほしい、その上いい成績を残してほしい、ホストファミリーと家族のように仲良くなってほしい、たくさんの成功体験をして自信をつけてほしい、若い時にしかできない失敗もしてそこからいろんなことを学んでほしい、肉体的にも精神的にも強い人間になってほしい、スポーツもきちんとトレーニングをしてほしい、試合でも活躍してほしい、できれば地域の選抜なんかにも選ばれてほしい、中学生や高校生としての教養を身に付けてほしい、すばらしい大人の男性女性に成長してほしい、グローバルな感覚を身に付けてほしい、でも日本の人達と違和感なくつきあえるだけの処世術も持っていてほしい、卒業後は海外の大学や大学院に進学できる力をつけてほしい、将来は世界中で活躍できるスキルを身に付けてほしい、でもいずれは日本に戻ってきて親の面倒を見てほしい、など。
これらの期待は、留学生にも必ず伝わる。親御さんが何も言わなくても、留学生たちはなんとなくその期待を感じとる。
しかし、親御さんの期待にすべてこたえられる留学生はいない。必ず
親の期待 > 子どもの到達
になる。
親御さんはいろんな期待をするけれど、留学生は留学しているだけですごいのだ。目に見えないところで誰もが必ず成長をしている。
だからたまには、留学生活を送っているだけですごいのだということをもう一度思い返して、子どもの成長を信じて、ある程度手を出さずに任せてみるのもいいと思う。それでも、親御さんの期待や気持ちは伝わるし、親御さんが子どもに与える影響も大きいのだから。
そして、ある程度子どもに任せている親御さんの場合、十代の留学生でも、親御さんやご家族ととても仲がいい人が多い。男子高校留学生が母親とハグをしたり、兄弟の面倒をよくみたり、家族のことを気遣ったり、日本の中学高校生とはちがう親子関係ができる。それは、留学生が家族とずっと離れて暮らしていて、そのありがたみがよくわかっているということもあるだろうし、離れているからこそ家族のことをよく考えるということもあるだろう。そして、親御さんとの心地いい距離感もその関係を作っているだろうし、親御さんからの期待をどこかで感じていることもあるだろう。
遠く離れているからこそ、適度な距離感があるからこそ、親御さんや家族の影響は大きく、日本の中学高校生とは違う親子関係が生れる。
留学生、とくに中学高校留学生を見守る親御さんは、大きな期待をしつつも、留学しているだけですばらしいことを頭におきながら、ある程度子どもに任せて、離れているからこその深い親子関係をつくることができる。そして、留学生は親御さんやご家族からの計り知れない影響を受け、これからの人生を大きく形作っていく。
留学生にとって親御さんやご家族は、そんな存在なのだ。