大和撫子育成計画

「大体さ、みんながみんなあいつみたいになったら、私死にたくなる」
言葉遣いが悪いそいつはまあまあ聞こえる程度の声でそう言う。
だいたい10×10メートルもないこの小さな世界では、大きな声でなくてもほぼ全員の耳に入る。
声の主はこのクラスでも、綺麗どころと言われる女子だった。変に悪ぶっているわけでもなければ、真面目な印象も受けない。どっちつかずのどこにでもいる女子高生だ。
普通で平凡で、ありきたりで、悪びれる様子もなく、誰かを上に見ることも下に見ることも平然と行う。中間層にいるからこその余裕ってやつだろう。どこまで行っても中間に居続けるであろう女子の言葉は続く。
「あんな、髪が長くてさ、なに? なんかのコスプレかよ、みたいな。今どきいる? あんなの」
誰の事を言っているのかなんとなく分かったような気がした。
長い髪が特徴的な少女はこのクラスに一人だけいる。
それに気が付いたのは俺だけではないだろう。声の主が誰の事を揶揄して言っているのかその場にいる人間は理解した。それと同時に興味を失ったかのような雰囲気を感じる。
実際に興味を失ったのだろう。声の女子に一瞬目を向けた男子たちは、どうでもよさげに目を逸らし、自分たちの話題にその興味を移していく。
「ほんと、なんなんだろうね? あの子?」
「はいはい、授業、始めるから。席に着け」
言い切ったタイミングを見計らったかのように次の授業の担当教員が入ってくる。いつの間にか予鈴は鳴り終わっていたようだ。
「えっと、朝倉は保健室だったな」
一つ空いた席に目をやって、教員はそうつぶやき、そして興味を失ったかのように授業を開始した。
朝倉凛。
このクラスの不登校で、そして、長い髪が特徴の少女。

#cakesコンテスト2020

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