かつて札幌に“澄川のキース・リチャーズ”と呼ばれた、伝説のギタリストが存在した。作曲家の藤原宏二郎がそのギタリストと出会ったのは2018年の夏、場所は行きつけのコンカフェ「狼庵」であった。ギタリストの名は、京極一亮。2000年代後半、札幌にて人気を博したロックバンド「回転石団」のギタリストであった彼とは、宏二郎の音楽の趣味と所々一致している事がきっかけで、意気投合した。回転石団のメンバーは、リードギターの京極の他にボーカルの清原正愛、リズムギターの藤原大雄、ベースの山部高、キーボードの那須光広、ドラムの柳家卓三郎の計6名である。そのうち、清原は宏二郎がかつて住んでいた障がい者向けのグループホームの職員であったが、宏二郎が回転石団のボーカリストが清原である事を知ったのは、グループホームを退去して間もない頃であった。
私が京極と出会った頃には既に、京極はいつも狼庵のマスター・大神拓兵衛に
「たくさん愛羅武勇!
赤ちゃんみたいで可愛いね!」
と、独特な挨拶をしながら狼庵に入店するのが御約束の名物客であった。だが、2019年10月頃から京極は狼庵への“自主出禁期間”へと突入し、京極に会える機会が激減してしまう。
京極の自主出禁期間中、宏二郎はかつて住んでいたグループホームの職員で、回転石団のボーカリスト・清原正愛と再会を果たす。
「宏二郎くん、俺さぁ早く
京極さんに会いたいよ・・・」
「私もですよ・・・」
京極の自主出禁の理由を知る清原と、理由を知らない宏二郎は京極の来店再開を待ちわびながら、狼庵にて大いに語り合った。
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