【追悼】オシムさんから僕が学んだこと
イビツァ・オシムさんが亡くなられたニュースを聞いて驚いて、ショックを受けて、しばらくして僕が自覚したのは、「こんなにもたくさんのことを学ばせていただけた。ありがとうございました」という感謝の思いだった。
これまで様々な素晴らしい指導者の方々と交流を持たせてもらっている。刺激的なディスカッションをしたり、新しいアイディアや視点に気づかせてもらってきた中で、僕は特に3人の方を《師匠》としてお手本にさせてもらっている。門下生になって免許皆伝してみたいな関係性ではもちろんなくて、僕が一方的に尊敬して敬愛している方々だ。
一人は僕がドイツサッカー協会公認A級ライセンスを獲得した時の指導教官で、指導者育成の第一人者であるベルント・シュトゥーバーさん。サッカーというスポーツの中でグラウンドを出発点に、自チームだけではなく地域全般にまでの幅広い観点と時間をかけた我慢強い活動で、指導者育成とグラスルーツサポートは行われなければならないことを学んだ。
2度直接インタビューをする機会があったデットマール・クラマーさんからはサッカーとは?指導者とは?のベースを教えていただけた。選手に対してリスペクトを持つこと、指導者として規律正しく手本としての自覚を持つこと、指導者は暴力や暴言を使うことなく相手を納得させるすべを身につけることの大切さは今の時代にも欠かせない。
そして3人目がオシムさん。オシムさんにはお会いすることはできなかったけど、でも様々なメディアやオシムさんの影響を受けた知人・友人から本当にたくさんの話を伺っている。
僕がとても印象に残っているのは、オシムさんがずっとドイツサッカー協会が発行している指導者向け雑誌Fussballtraining(サッカートレーニング)を定期購読していることだった。そしてそれを楽しみに読んでいるというのは、正直にすごいことだなと思っている。
僕はドイツでライセンスを取って、A級ライセンスまで取って、講習会に出て、国際コーチ会議でいろんな講義やデモンストレーションを見て、聞いて、クラブで何年も監督をして、日々の生活があって、家族との時間があって、仕事があって、いろんなインタビューがあって、執筆があって、オンラインサロンがあって、WEBマガジンがあって、自分の時間があってとなると、なかなか学びの時間をとれなくなってしまう。もういいかな、というわけではないけど、「よし!学ぶぞー!」というモードには日常的になかなか入れない。
たぶんその方が普通なのかもしれない。僕もFussballtrainingは定期購読しているし、目は通す。でも毎号ちゃんと読めているかというと読めていない。そしてしょうがないなという思いがないわけではない。いや、むしろそうだ。
そのうち時間ができたらと思いながら、読めていない号が積み重なっていく。数日間取材で出るときはカバンの中に1冊でも忍ばせて、移動中や夜寝る前に読もうとするけど、いろんなやらなきゃいけないことがあって、そっちを優先しているうちに、結果一度も読むことなく、帰路を共にする。
たぶん、読まないままでも大きな問題はない。読んで、学ばなきゃ今の生活がどうにかなっちゃうなんてことはない。例えば今僕が監督をしているのは街クラブのU19とU15。U19の6部リーグで7位のチームだ。7チームのリーグ戦で7位のチーム。練習に毎回多くの選手が集まる、なんてこともなかなかない。選手にも学校があって、日常生活があって、病気やケガがあって、数人しかいないなんてことも普通にある。
いろいろ学んだところで実践の場がないじゃないかといわれたらそれまでだ。これまでの経験だけでやろうと思ったら全然できるし、それもかなり質の高いものを提供できる。
だから、僕は読まなくてもいいのかな?学ばなくてもいいのかな?
そういうことではないんだ、きっと。
学ぶうえで何より大事なのは知的好奇心だから。損得じゃない。
新しい知識や知恵、アイディアを知ることは、サッカーを人生を豊かにしてくれる。新鮮な驚きはあれば素晴らしいけど、なければならないわけではない。学ぶことで見つけられる発見の喜びがそこにはあるから。
忙しいからそうした時間が取れないというのではなく、そうした時間を取れるようにスケジューリングをして、自分の時間を作り出していくことが必要で、大切なんだ。
できることから始めたい。
まずは一日30分からでいい。本を手に持って、メモを取って、面白い内容は僕のWEBマガジン《フッスバルラボ》でも紹介していこう。興味深いトレーニングや取り組みは《オンラインサロン》で紹介していこう。
学ばなきゃいけないんじゃない。僕は学び続けていたいんだ。
07年9月6日オーストリアのディ プレス紙で紹介されていたオシムさんのインタビュー記事にこんなことが記載されていた。特に共感した二つのコメントを引用させていただきたい。
「昨今のメディア対応について全てがネガティブに観察され、ミスだけが探されている。それはプレッシャーでしかない。そんな見方をしていたら何も面白くないではないか」
その通りだ。僕らはできないことばかりに目を向けがち。そしてしたり顔で、できないことを攻撃する。ミスすべてに目をつむれという話じゃない。できないことには理由がある。そしてできないことをやり続けていかないとできるようにはならない。
「常に全てを正しく解釈する必要はない。常に勝つ必要もない。日本はそれを学ばなければならない。日本人は1位になれないということに慣れていない。伝統と経験は変えられない。私の目標はチームを成長させることだ」
成長するためには何をすべきかを中心に考えることこそが、プレーヤーズファースト。すべてが計画通りに進むなんてことはない。うまくいくために準備はするけど、それが答えではない。だから観察することが大事だし、相手を配慮することが大事だし、コミュニケーションを取ることが大事だ。人間が指導者をして、人間が選手をしているんだ。いろんなことが起こる。
僕は生涯サッカー指導者でいたい。
生涯サッカー好きでいたい。
毎日を大切に生きていきたい、
オシムさんから学んだことを胸に。
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