見出し画像

今、フィリピンでキチママと暮らしてます。(第二期)(1)

コリアンタウン


フィリピンのパンパンガ州に、「コリアンタウン」と呼ばれる場所がある。

そのコリアンタウンから郊外にいき、ハイウェイから車一台がやっと通れるような細い路地を少し中に入っていった先に大きな家がある。

そこはバランガイの長であるバランガイキャプテンの家で、キャプテンの家族や親類が住んでいる家が敷地内にいくつかあり、その奥にトタンの屋根にコンクリートの壁でできている古い家があった。


家の裏はちょっとした坂になっていて、南国でよくみるような木が1本斜面に立っていて、ちょうどその家のリビングにある窓から少し高い位置に収穫するにはまだ少し早い緑色のバナナが見える。

すぐ隣にあるキッチンは、ほとんどベニヤ板のような薄く細く、しかもくすんだ色の木材とその間にできた隙間をビニールで覆った質素な壁でできていて、ビニールがないところが何か所かあり、そこから外が丸見えだった。屋根には無数の小さな穴が開いていて、所々から光が差し込んでいた。、

「屋根に穴、開いてるよ。雨漏りするんじゃない?」

と、「ストリングビーンズ」というひも状の豆で、日本のサヤエンドウのような野菜を短く手で折っている中年女性に言ったが

「こんな天気のいい日に雨なんて降るわけないでしょう」と笑われた。


*******

「キチガイなママ」こと、キチママが娘とヤヤさん、そして叔母から引き取った子供たちを連れて私の家から車で10分ほど離れたこの場所に移り住んで、もう数か月になる。

「コリアンタウン」と呼ばれる、韓国人が大勢住んでいる繁華街から少し離れ、橋を越えてすぐの国道から少し中に入ったところにアヌナスという場所がある。

そこにキチママは家を借りた。

この場所を選んだ理由は、

キチママがボホール島から出てきて私といっしょになるまで住んでいた場所の近くでもあり、
子供たちをキチママに預けて借金取りから逃げ回っている叔母やヤヤさんの家の近くだからというのもあるだろう。

もちろん、この家の家賃は私が払っている。

今回彼女が私の家から出ていった理由は私が犬嫌いなのを知っていて何も相談せずに飼いだして、私が反対したところ「じゃ、出ていく」と言い出し、止めたにもかかわらず勝手に家を借りたことから始まっている。


キチママが別居して以来、毎月きっちり養育費を払っているのだが、お金の管理が全くできないキチママは、前借りを繰り返し、毎月養育費を支払う日になると4分の1の金額になっていて、そのお金もすぐなくなってしまうので、また前借りになってしまう。しかしキチママがここに移ってから新しい食器や家具が増えていくところをみると、私が払っている養育費を使って贅沢三昧をしているようだった。


ここにはキチママが移ったときに私の家にあった家具を全て持ってきていた。私の家にはマットレスと扇風機、食器を1セットを残して全て持って行ってしまったので、何も残っておらず、私の私物であったギターや趣味の音楽機材、自転車、それにトイレの電球や私が契約していたケーブルテレビとインターネットのルータまで持ち出していたが、私物は後日回収した。


あのときは感情的になり、傲慢な態度を取っていたキチママもいつもようのように、精神状態が落ち着いてきたのか「いつになったら、ここに引っ越してくるの?」とあきれるようなことを言ってきていた。

実は私が折れて、すぐにキチママを追っかけて来ると思っていたらしく彼女が引っ越した2~3週間は、毎週キチママの家に行くたびに、「いつ、いつ?」と聞かれた。自分からすれば、何を好んで、こんなところに住むのか。


私が住んでいる家は、キチママの住んでいる家よりもはるかに広くて大きいし、しっかりした作りをしているタウンハウスで、もちろん雨漏りすることもないし、ここよりも比較的栄えている中心部にあり利便性も良く、買い物にも大変便利だ。


それに比べて、キチママの住んでいる家は、私の家から遠く、買い物に行くのが不便で、スーパーなど周りにないので、いつも食べ物がなかった。

キチママの家の中には猫ほどのサイズのネズミが、よくキッチンの下を走り回っているのを見かけたが家中、穴だらけなのだ。ネズミも入るだろう。そのキッチンだが、雨の日は至る所から雨漏りをして水浸しになるし、隣の家の寝室と屋根続きで、天井が突き抜けているので、隣の一家の声が丸聞こえだった。

トイレも水洗ではなく、フィリピンではよくある、バケツに水が入っていて自分で洗い流さないといけないしシャワーだって、お湯は出ない。トイレの横にあるバケツに水を溜めて、それで洗うしかないので私はどうしても体を洗いたいときは、我慢して自分の家に帰ってから風呂に入っていた。

リビングはリフォーム中だったのか辛うじて現代的なものではあったが、崖っぷちに立っているので万が一地震で土砂崩れがあったら、ひとたまりもないだろうと思わせるような場所に立っていて、初めてこの家にきたとき、正直「こんなところに住んでるのか・・」と衝撃でしかなかった。


「ねぇ、いつ引っ越してくるの?」と何度キチママに聞かれたかわからないこの質問に対しての答えは、「子供と暮らせる」そんな当たり前なこと心から望んでいる今の私にとって、正直、何度も何度も自問自答を繰り返し考えたが・・さすがに、日本人として、こんなところには住みたくない、いや住めない。

そんな答えに行きつく。

それに何よりキチママが勝手に出て行ったのに、追いかける理由などない。


続きを読む


第1期1話から読む

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?