佐野洋子さんの世界を、明るく賑やかに描く──演劇集団円『ヨーコさん』

 8月26日(土)から9月3日(日)にかけて上演される、演劇集団円『ヨーコさん』。この作品は、『100万回生きたねこ』など、数々の作品を世に残した作家・佐野洋子さんのエッセイをもとにしています。佐野さんは演劇集団円の公演、円・こどもステージに戯曲を3作品書き下ろしました。
 佐野さんが出会った人々への思いや感情の記憶をたどりながら過去と現在の景色を描く、人生を全力で味わい表現した佐野さんのエッセンスがあふれる舞台。どのような作品なのでしょうか。その稽古初日の様子をお届けします。
 
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 7月15日土曜日、本番の約2か月前。場所は演劇集団円の稽古場。見た目にはそうと分からないような、倉庫のような建物。天井の高い、一面黒で塗られた空間の中、今作に関わる俳優やスタッフが一同に会している。

(稽古初日の様子。右手が俳優、左手がスタッフ陣)

 俳優は全員、演劇集団円に所属している。若手からベテランまで揃っていて、幅の広さを感じる。演劇集団円は設立から約50年になる日本でも有数の歴史ある劇団だが、柔らかさと新しさも共存した独特の雰囲気がある。付属の演劇研究所があり、その研究所を卒業して今年度から会員になった方も、今回稽古補佐として参加している。
 まず、一人ひとり挨拶をしていく。写真は主演を務める谷川清美さんだ。谷川さんは今年、新たに演劇集団円の代表に就任してから、初の出演になる。

(挨拶をされている谷川清美さん)

 谷川さんは、プラスワン企画(注:8月27日(日)、28日(月)の終演後に開催する、演劇集団円所属の若手俳優による短編3作品を上演する企画)の開催によって、新しい表現の場が出来たことについても語られた。
 
 一通り挨拶が終わると、舞台美術の紹介が始まる。美術を務める江連亜花里さんを中心に、50㎝ほどの舞台のミニチュアを囲み、イメージを全員で共有する。

(セットを囲む一同。一体どういうセットになっているのでしょうか。)

 ト書きに書かれた家具などの情報をベースに、作・演出の角ひろみさんのお話や、モデルになっている佐野さんの絵本からイメージを膨らませたという。「思い出」、「死ぬときの幻想」、「サーカス」など、抽象的なイメージが、ミニチュアという形をとって現れていた。お話の中で、どう実現するのか想像もつかないようなアイデアも出た。(実際どのように表現されるのか、その目でお確かめください!)
 
 休憩をはさみ、読み合わせが始まった。私も台本をいただいた。角さんの書くセリフは詩のようでテンポよく、軽やかだ。耳に、身体にすっと馴染む感じがする。歌がたくさん散りばめられていて、音楽の西井夕紀子さんが小さなキーボードで、その場で演奏する。俳優たちが、その場で音を探りながら歌う。歌の場面もこの作品の見どころの一つだ。
 俳優を通して発される言葉は、軽やかさを持ちつつも骨太で、熱量と質量が詰まっている。血肉が通っていて、人間らしさを感じた。

(息ぴったりの掛け合いをするヨーコ(谷川さん)と小さいヨーコ(大橋繭子さん))

(私はニッコリ堂さんがかなりツボでした。ニッコリ堂さんはニッコリ堂さんとしか言いようがないのです…)
 ヨーコさんが出会った人たちがふらっと現れ、別れていく。読み合わせを見ながら、私は終わってもいない自分の人生に、なんとなく懐かしさを覚えた。『ヨーコさん』はそんな力のある作品だと思う。
 
 この作品の上演が決まってから、私は元になった佐野さんのエッセイ『シズコさん』と『死ぬ気まんまん』を読んだ。私は佐野さんのことを好きになってしまった。とことん人間らしさがありながら、カラッとしている。この佐野さんが舞台上に現れるのか、面白すぎる!
 私はまだ生まれたばかりで、人の死が身近な時代に生まれたヨーコさんとはまったく違う時代を生きている。死というものが未だにあまりピンとこない。でもなんとなく、知っているような気さえしてくる。『ヨーコさん』は、誰もがきっとそんな風に、身に覚えのある瞬間がある、そんな作品だと思った。
 
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【公演情報】
演劇集団円『ヨーコさん』
日程:8/26(土)~9/3(日)
会場:吉祥寺シアター
公演詳細:https://www.musashino.or.jp/k_theatre/1002050/1003231/1005065.html

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