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【稽古場レポート】アマヤドリ版「十二人の怒れる男」!これぞ真骨頂といえる超高密度会話劇『牢獄の森』
8月17日(土)より吉祥寺シアターにて行われる、アマヤドリ新旧二本立て公演『牢獄の森』『うれしい悲鳴』。
2001年の旗揚げ以来、20年以上の間小劇場演劇を牽引し続けてきた劇団・アマヤドリが、”ベスト盤と新譜を同時発売するかのよう”と称する今公演。
本レポートでは小劇場ファンの吉祥寺シアター新人職員が、『牢獄の森』本番1週間前の稽古の様子をお届けします!
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『牢獄の森』あらすじ
──この時代において、森は牢獄の役割を果たしていた。かつての島流しのように森という異界に犯罪者たちが追いやられ、元々好き好んでそこに住んでいるものと共生していたのだ。技術の進展によって人間の多くは「つまらない仕事」から開放され、それぞれが自分の趣味や個性を伸ばして生きられるようになっていた。けれど、常にそれぞれの「最適解」がサジェストされる社会の中にあって、最適でない発言や行動は厳しく制限されるようになっており、そのことへの息苦しさもまた頂点に達しつつあった。──「賢い奴隷」になって森に留まるか、「愚かな自由」を満喫するためにこの場所を捨てるのか、森の住人たちはゆるく苦悩しながら、それぞれの人生を生き延びていく。
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18時、池袋にあるスタジオ空洞に到着。スタジオ空洞はアマヤドリが運営する、稽古場としての利用以外に有観客での公演も行うことができるスペース。利用料が廉価であるため、若手劇団の発表の場ともなっており、私自身も何度か観劇のため足を運んだことがある。団体ごとにかなり使い方が分かれるおもしろい場所だ。
アマヤドリは公演活動以外にもこういった場づくりや、学生劇団へのワークショップなど、後進の育成のための活動も多く行っている。その一環として、多種多様な割引チケットも挙げられる。特筆すべきはヤング割だ。各回先着20名で25歳以下1,600円、高校生以下500円で観る事ができる。昨今のチケット価格高騰に逆行するこの取り組み。8月14日現在確認したところまだヤング割が予約できる回もあったので、当てはまる方はぜひ利用してほしい。
稽古自体は15時から行われており、ちょうど終盤である三幕の稽古に入るところだった。
出演者10名のうち、9名が劇団員。また、今作は今年の6月に愛知県豊橋市の「穂の国とよはし芸術劇場PLAT」にてレジデンス制作した作品である。衣裳や動線の整理について活発に意見交換が行われており、すでに信頼関係・共通言語ができている座組であることが伺えた。
19時45分から、衣裳付きでの通し稽古。
『牢獄の森』は、犯罪者予備軍として社会から半ば排除されてしまった人々が形成する近未来の「森」を舞台にして展開されるSF会話劇だ。近年のアマヤドリが得意とする解像度の高い会話劇の手法を使い、森の住民の苦悩や葛藤、人間に等しく与えられているはずの権利とは、倫理とは——といったドラマが丹念に描き出されている。
三幕もので、うち一幕と三幕は森の住民たちの会議の様子が描かれているのだが、会議と言っても静かなものではなく、喧々囂々、圧倒的熱量のぶつかりあい、いうなればアマヤドリ版『十二人の怒れる男』。感情的にまくしたてる者、論理的に仲裁する者、他人の喧嘩を楽しみながら水を差す者、なにを言われてものらりくらりとかわす者……と、個性的なキャラクターがどんどん議論を展開させていく。
一人ひとりのキャラクターは現実離れした部分も多くあるのだが(そもそもこんな頭の回転速度で議論していくこと自体超人的である)、不思議と「もしかして、この俳優さんってもともとこういう人なのかしら」と思わせるほどのリアリティ。浮気男・高力役の稲垣干城さんなど、物腰柔らかで真摯な方であることは事前のやり取りから重々承知しているのに、「こんなに恋愛面でだらしない人だったの…?!」と一瞬驚愕してしまったほどに、俳優の演じる役それぞれが、その人自身の言葉とからだであるように見えた。
どうやら、登場人物は俳優への当て書きで書いたそう。さらに私が特に心を掴まれた、冒頭の浮気を巡る会議のシーン(序盤からどんどこ高出力でコミカルなシーンです)は、設定を定めたうえでのエチュードをベースに作られているそうだ。
当て書きといっても、前述の通り俳優さん自身が「そういう人」であるということではなく、広田さんが作ったキャラクターを通して、その俳優の持ち味・魅力が増幅されているような当て書きだと感じた。通し稽古後のノートの時間では、広田さんも「全体のセリフ・キャラクターが時間をかけて馴染んだ」と言っていた。
そして「森で小さなコミュニティを形成する人々という劇の設定が、お互いのことをよく分かっている劇団員同士であることにマッチしている」とも言っており、その通りに今、ほとんど劇団員というメンツで上演する意味のある作品だ。
また、唯一の客演であるさんなぎさん(やみ・あがりシアター『フィクショナル香港IBM』でのキュートすぎる悪(?)役の好演が記憶に新しい)も驚くほど劇団の演技トーンに馴染んでいて、「この人しかできないのでは」と思わされる役柄と、常軌を逸した爆発力に圧倒された。
なんといっても、改善点を言われた時の俳優の皆さんの返しがおもしろく、演出・俳優がお互いに意見を述べたうえで最終的な動きを決定しており、よい稽古場だなと思った。
なんと『牢獄の森』の台本は63,000字あるそう。それを2時間15分で演じるというだけあって、すさまじい文量の言葉が耳にとめどなく入ってくる。俳優同士の言葉のラリーは、卓球オリンピック決勝戦か?というほどのテンポ感。しかし言葉のリズムと音が気持ちよく、誰が誰にエネルギーを向けているのか明確だから、スッと頭で理解できる。
私が過去にアマヤドリを観たのは、2015年の『すばらしい日だ金がいる』。同じく吉祥寺シアターでの上演だった。その時最も印象に残っているのは「群舞」。「アマヤドリといえば群舞」と言う人も少なくないのではないだろうか。今回の『牢獄の森』には群舞がない。
しかし、それに観終わってから気づくほど、濃密な時間だった。群舞がなくともセリフの美しさに心は踊る。強固な会話劇を生み出す俳優の一体感は、群舞で見るそれと同じか、それ以上に観客の脳みそを揺さぶる。
ひょっとこ乱舞名義の最高傑作が『うれしい悲鳴』なら、アマヤドリ名義の現在の最高傑作は『牢獄の森』になるだろう。これからも最高到達点を更新し続けていくだろうアマヤドリの最新作を、ぜひ目撃しに来てほしい。
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アマヤドリ本公演
『牢獄の森』『うれしい悲鳴』
2024年8月17日(土)〜8月26日(月)
吉祥寺シアター
予約
・(公財)武蔵野文化生涯学習事業団チケット予約
Tel: 0422-54-2011 (9:00-22:00)
Web: https://yyk1.ka-ruku.com/musashino-s/sameShowList?en=398
・CoRich
https://ticket.corich.jp/apply/325628/
一般/セット券/U25/高校生以下/各種割引チケット
・Confetti
https://www.confetti-web.com/events/2886
一般/U25
公演詳細
https://www.musashino.or.jp/k_theatre/1002050/1003231/1006530.html