【稽古場レポート】熱量の海を前にして|ミクニヤナイハラプロジェクト『船を待つ』
吉祥寺シアターでは3月23日(土)より、ミクニヤナイハラプロジェクト『船を待つ』が上演されます。吉祥寺シアターこけら落とし公演より沢山の作品を当館で発表し続けている振付家、劇作家、演出家の矢内原美邦さんが、現代の船着き場を舞台に描く現代版『ゴドーを待ちながら』。今回は稽古場の様子をお届けいたします!
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稽古場では今まさにシーンを組み立てていく最中であった。既に大阪公演を終えているが東京公演は出演者が一新されており、改めて戯曲と向き合っていた。戯曲を前に全員で言葉の意味や意図を整理していく。自分達が創りたいものはもちろん重要だが、台詞の何が観客の作品理解を助けるか、という事にも注視しているようだ。一つの単語が持つ背景まで確認していく。東京公演出演者の一人、笠木泉さんはこの情報量と密度に「ずっと太平洋にいる気持ち」と仰っていた。しかしその雰囲気は決して重い訳ではなく、思い出話をするような和やかさがあった。戯曲との向き合い方に、観客がいての上演であるという事を再認識させられた。
この後実際に動いていくが、感情のままに動く身体には圧倒させられた。それは大袈裟な動作ではないし踊りでもない。一見すれば写実的で現代的な人の姿だ。ただよくよく見てみるとこの空間には感情が満ちていて、その中にぶつかり合う粒子のように駆け巡る三人がいた。稽古場の空間が三人には狭すぎるくらいに感じた。同じシーンを返す前のノート(提案や修正)では一人一人の動きを見る事もできた。分解して見てみるとそれはアニメーションのようにコミカルで、表現としての動きに見えた。それが物語と三人が揃った瞬間、日常的な動きに見えるから面白い。この三人が吉祥寺シアターの舞台に上がった時、どんな事になってしまうんだろう。私はどんな気持ちになるのだろう。想像するだけでワクワクした。
この作品は現代版『ゴドーを待ちながら』と掲げられている。このレポートを読んでくださっている方の中にはご存知の方も多いとも思うが、ここで一度原作について触れておこう。『ゴドーを待ちながら』とは劇作家、小説家、詩人のサミュエル・ベケットによって書かれた、1952年出版、1953年初演の戯曲だ。ウラディミールとエストラゴンという二人の男がゴドーを待っている、その間の物語である。本作は不条理劇の元祖とも言われ、20世紀の演劇を代表する作品の一つとされている。
本作は舞台を現代の船着き場に移し、船を待つ三人の人間が描かれる。三人の立場も色々だ。この三人だが、大阪公演と東京公演で男女比が違う事も一つ重要なのではないだろうか。何故なら、ここで男女比、という言葉を使う事も適切ではないかもしれないが、それは実際の性別は物語と関係がないという事だからだ。そしてこの事は、舞台上に描かれている事は誰にでも当てはまる可能性を秘めている。また、自分がこれからそのような立場になるかもしれないとも想像させる。現代が濃縮されているような感覚がありドキッとさせられた。
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稽古を通して私は、最近亡くなった祖父の事を思い出しました。そうでなくてもこの数年、私達は失う瞬間に沢山立ち会ってきたのではないでしょうか。そういった物事に対する私の心を、覗き込んで引っ張り出してくるような感覚がありました。足取りは軽やかに、でも熱い思いの詰まった作品になるのではないかと思います。私もあとちょっと、この三人に会えるのを楽しみに待つ事とします。
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