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【開幕レポート】吉祥寺ダンスLAB.vol.7関かおりPUNCTUMUN『モリンネ』−生命と緑の向こう側−(乗越たかお【舞踊評論家[養成→派遣]プログラム】第二期受講生)

 10月11日(金)に吉祥寺シアターで開幕した、吉祥寺ダンスLAB. vol.7 関かおりPUNCTUMUN 新作公演『モリンネ』。本作の開幕レポートを、乗越たかお氏の舞踊評論家[養成→派遣]プログラム二期生の中本登子さんに執筆いただきました。同じく中本さんに執筆いただいたリハーサルレポート(第一弾第二弾)もぜひお読みください。


※演出等についての記載が含まれますので、観劇前の方はお気をつけください。

 コンテンポラリーダンスのフロントランナーである振付家、関かおりは、舞台空間を構想する時「客席との距離感が親密か分断か」を考えるという。今回は「親密なようで分断」と言っていた。
 新作『モリンネ』は、会場である吉祥寺シアターの、全体を取り囲むようにバルコニーがある、客席と舞台に一体感を感じる舞台空間を、どう変えたのであろうか。
 会場に入ると、舞台と客席の間は透けている緑の紗幕で仕切られていた。
緑の紗幕は客席中央が舞台側に迫り出した形で仕切られているが、通常の会場は舞台が客席に迫り出した形が典型的であるから、通常の逆「虚構の空間である舞台が客席」で「現実の空間である客席が舞台」になっているようである。
 タイトルの『モリンネ』は、モ(森、死)リン(輪廻)ネ(根、音)を表す関の考えた造語だ。ルドルフ・チェスノフリーデク著の『利口な女狐の物語』を基として、ヤナーチェクの同名オペラも参考に、関の自然観、死生観を表した作品だ。

 作品が始まると、自然に近い緑、茶、白、桃、黄などの色の服に毛や紐、血の汚れがついたような衣裳を着たダンサーたちがゆっくりと動き始めた(衣裳、臼井梨恵)。その姿は植物や昆虫、そして動物などに変容して見える。
音響の安藤誠英が、絶妙な音量とタイミングで自然や録音された音源を添える。オペラ歌手の林眞暎の床に響くような鮮やかな歌声やダンサーが実際発している声もあったのだが、どれが録音かハッキリとはわからないような切り替えだ。
 ダンサーたちの鼓動を感じられるほどの静寂の中、気が付くと照明は刻々と移り変わる日差しのように、上手から下手に移動していた(照明、木藤歩)。

 作品の中盤に多発した、関の振り付けたリフトは独特だ。男性、女性問わず持ち上げ、人数、体勢も様々だ。これは、リハーサルで細かい手の位置や高さなど、ギリギリの所まで関を含む参加者全員が何度も確かめ、考え、そして知恵を集結させて完成した賜物だ。横たわる高宮梢の骨盤の上に倉島聡が座り、北村思綺が肩に乗り、手を離すリフトもあった。今回私は、3人で縦に支え合ったリフトというものを初めて見た。

 最後のシーンでは、舞台にいくつかある透明の水溜まりか池のようなものに、四つ足の動物たちが寄って来た。そして、客席を見て博物館の剥製のように静止した。
その時、「人間を世界の中心に据えて、自然を都合よく扱い標本のようにしているのは、人間かもしれない。自然は現実として循環し続け、1人の人間は死して無に還るのに」と心を責め立てられた気がした。

(監修:乗越たかお@舞踊評論家[養成→派遣]プログラム)
(撮影:松本和幸)


[今回のコラボレーションにつきまして]
関かおりPUNCTUMUN×舞踊評論家[養成→派遣]プログラム
舞踊評論家の乗越たかおです。
現在私がメンターとなり、舞踊評論家を本気で育てる【舞踊評論家[養成→派遣]プログラム】の第二期を進めております。
そんなおり、関かおりさんのカンパニー「関かおりPUNCTUMUN」様から受講生による稽古場レポートの依頼がありました。

受講生はまだ勉強中の身とはいえ、これは書き手の知見を広げる実践的な機会であり、またアーティスト側にとっても、新しい書き手との出会いの可能性もあり、本プログラムの意義と可能性を示すものとして、積極的に取り組まさせていただきました。

今回は当プログラム第二期受講生の中本登子が挑戦いたしました。
乗越たかおは監修という形で最終的な責任を負いますが、あくまでも書き手のオリジナリティを尊重し、取材も中本一人で行っております。

「関かおりPUNCTUMUN」の皆さんは非常に温かく中本を迎え入れて下さり、アーティストと評論家の関係に新しい視点を提案してくださいました。
ありがとうございました。

こうしたプログラムの伸張をこれからも続けて行きたいと思います。ありがとうございました。

乗越たかお


中本登子さんプロフィール
4歳よりクラッシックバレエをはじめ、16歳の時School of American Balletに留学。
その後、クラッシックバレエの主役、ソリスト、バランシン作品などを踊る。
慶應義塾大学文学部でフランス文学を学び、バレエに関する著書『文学的「バレエ ジゼル」のすすめ』(奏亘書房)がある。
バレエ教室、レンタル衣裳、出版、企画など行う「穂坂バレエグループ」代表。
乗越たかおの舞踊評論家[養成→派遣]プログラム二期生。


吉祥寺ダンスLAB. vol.7
関かおりPUNCTUMUN 新作公演
『モリンネ』

2024年10月11日(金)〜14日(月)
吉祥寺シアター

(公財)武蔵野文化生涯学習事業団チケット予約
Tel: 0422-54-2011 (9:00-22:00)
Web:https://yyk1.ka-ruku.com/musashino-s/sameShowList?en=400
公演詳細:https://www.musashino.or.jp/k_theatre/1002050/1003231/1006557.html

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