“アウトサイダー”としてのヘルマン・ヘッセを描く──ティーファクトリー『ヘルマン』
“アウトサイダー”──社会から外れた、異端者。その言葉は、多くの人がヘッセに向けるイメージとは乖離している。
日本でヘッセと言えば、小学校の教科書にも掲載されている『少年の日の思い出』だ。
このセリフは多くの人の記憶に残っているだろう。罪を犯した少年の心の機微を描く、道徳的、教訓的とも言える作品だ。その作品から、ヘッセ自身にも道徳的なイメージを持つ人も多い。だが、『少年の日の思い出』が広く知られているのは日本だけであり、海外の人々が抱くヘッセの人物像は日本のそれとは大きく異なっている。事実、彼は『クヌルプ』や『荒野のおおかみ』を始めとして、多くのアウトサイダー小説を残している。
2024年1月18日(木)~28日(日)、吉祥寺シアターにて上演される『ヘルマン』。アウトサイダーとしてのヘッセの人生を描く演劇作品だ。上演するのはティーファクトリー、構成・演出は川村 毅氏だ。
ティーファクトリーの歴史は長く、その前身となる劇団「第三エロチカ」は1980年に結成され、川村氏は小劇場ブームの旗手として注目された。以来40年以上、川村氏は日本を代表する劇作家・演出家として活躍し続けている。
私は『ヘルマン』のキャスト顔合わせ・初稿読み合わせに同席した。11月某日、稽古場にはキャスト・スタッフが一同に会した。キャストのほとんどはオーディションで選ばれ、年若い俳優も多い。川村氏から「まずは声を聴いてみたい」と挨拶があり、台本読みが始まった。
『ヘルマン』は、晩年のヘッセ(麿 赤兒)が、その作品を通して彼の生涯を辿るようなつくりになっている。登場人物が現れては消え、魂のほんとうの居場所を追い求めるヘッセの姿が浮かび上がる。ヘッセは孤独で、どうしても社会から外れてしまい、放浪を続けるアウトサイダーだ。
ティーファクトリーの作品は、毒気を孕んだ鋭利な言葉で人心に迫りながらも、見る人を拒絶してはいない。それは、『人』の切り取り方の断面があまりにも鮮やかだからではないだろうか。人の存在のあり方をキッと突き付けられたこと、言い当てられたことに、どこか安心するのだ。
読み合わせを終え、川村氏は出演者に、「身体性を活かして欲しい」と話した。出演者には、英国のダンス学校でクラシックバレエやコンテンポラリーダンスを学んだ鶴家一仁、ダンサーとして活躍している村井友映、パントマイムの第一人者に師事し、学んでいるキクチカンキ、身体表現にも優れた和田華子など、多彩な俳優が揃い踏みだ。
俳優の身体性や映像を駆使し、ポスト・ドラマとして鮮烈に映し出される、アウトサイダーとしてのヘッセ。演劇界のアウトサイダーとも見える川川村氏と交じりあってどのような世界を立ち上げるのか。
ヘッセが好きな人も、読んだないことが無い人も、社会に生きる人なら誰もが心を揺さぶられる作品だと思う。ぜひ劇場へ足を運んでみて欲しい。きっと、今、あなたが必要としている「何か」を見つけられるだろう。