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幼馴染の笑顔が見たくて



ぼくは井上〇〇。

この前小学生になったんだ。


でも今、ぼくはひとりぼっち。


友だち100人できるかな。


そんな風に歌って、

ドキドキしながら入ってきた小学校だったけど。


クラスのみんなは、手に白黒のボールを持って、外に行っちゃった。


あんまり人とおしゃべりするのが上手じゃなくて、

みんなは友だちと楽しそうにしてるのに、

もうピンクの桜はなくなっちゃったのに、

ぼくは友だち、作れなかった。


だから、ひとりで教室で本を読んでるんだ。


学校、たのしくないな。


晴れてて、真っ青なはずの空も、なんだか色がないように見えてくる。


ほんとは、みんなと一緒にサッカーやってみたいけど...。


ぼくには、勇気でないや。





「ねぇ。〇〇くん。」





「サッカー! みんなとやりに行こうよ!」



ふしぎに思って振りかえったら、


みんなよりもちょっと茶色い髪がきれいな、いっつもにこにこ笑顔の女の子が。


菅原咲月ちゃんって名前だった気がする。


〇〇:やりたい!


うれしくて大きな声で返事した。


そしたら、咲月ちゃんの真っ白な手がぼくの手をにぎって、2人で廊下を走りだす。

下ろしてある長い茶色の髪が揺れる。


なんで声かけてくれたんだろう。


ぼくはふしぎに思って


〇〇:なんで友だちじゃないのに、誘ってくれたの?


って聞くと、咲月ちゃんは


咲月:だって〇〇くんサッカーやりたそうな顔してたもん!


って笑顔で言った。


なんでわかるんだろう。


そんなこと思ってたら、真っ青な空の下、緑いっぱいの校庭に飛び出した。


咲月:〇〇くんとわたしもいーれーて!


咲月ちゃんがおっきな声で言ったら、

みんな笑って


「いいよ!」


って言ってくれた。


だからぼくはうれしくて笑っちゃう。


咲月ちゃんはすごいな。


ぼくは怖くて声もかけれなかったし、

いれてとも言えなかったけど。


ぼくにはできないことをたくさん出来ちゃう、すごい子なんだ。


きみと、友だちになれるかな。







ある日、いつもみたいに友だちとたのしくサッカーをして、教室にかえってきたら。


咲月ちゃんのまゆげが「ハ」の形してる。

お勉強がうまくいかないみたい。


最近はあんまりたのしくなそうだし、あんまり笑ってない。


ぼくもお勉強は教えてあげられないけど...。


咲月ちゃんには笑っててほしいな。

だから、今度はぼくが咲月ちゃんを笑わせてあげないと。


どうすれば笑ってくれるかな。


っていっぱい考えてる内にひらめいた。


プレゼントをあげるのはどうだろ。

誕生日にもクリスマスにも、プレゼントをもらったらうれしいもん。


そのあと、そのことをお母さんにお話ししたら、


母:髪が綺麗な子なら、シュシュとかいいんじゃない?


って教えてくれた。


シュシュ。

最近アイドルも歌ってて、テレビでよく聞く気がする。


プレゼント、笑ってくれるといいな。







おひる休みの昇降口。

みんなでサッカーしにいく途中。


〇〇:咲月ちゃん!


ちょっぴり勇気をだして呼んでみたら、


咲:ん? なぁにー?


ふしぎそうな顔で振り返る。


〇〇:こ、これ咲月ちゃんにあげる!


ぼくが渡したのは、綺麗なピンクと水色のシュシュ。


咲月:え! いいの? 今日お誕生日じゃないし、〇〇くんサンタさんでもないのに、もらっちゃって。


あれ?


まゆげが「ハ」の形。


でも、ぼくは笑ってほしいから


〇〇:いいの! 咲月ちゃんにもらってほしいから!


って言って、きれいで真っ白な咲月ちゃんの手に渡したら、


咲月:ありがとう! うれしい!


って前みたい笑ってくれた。


だからぼくも、勝手に笑っちゃう。


そしたらきみが聞いてくる。


咲月:おかえしはなにがいい?


おかえし?


う〜ん。


〇〇:咲月ちゃんが笑ってくれたのがおかえしだから、いらない!


って言って、ぼくがくつを履こうとしたら、咲月ちゃんがうしろから


咲月:〇〇くん!

咲月:シュシュありがとう! ずっと大事にするね!


って言って、またにこにこ笑ってくれた。



プレゼント、あげてよかったな。






僕は井上〇〇。

今は中学生でサッカー部に所属してる。


隣にいるのは、鮮やかなシュシュで束ねた綺麗な茶髪と、眩しい笑顔が特徴の女の子。

小学校からの友達で、授業でした僕の怪我の手当てをしてくれるような、


〇〇:痛っ。

咲月:ちょっとぉ! 〇〇! 動かないでじっとしててよ!


ちょっと世話焼きなタイプ。


〇〇:別に頼んでねぇし...。


まぁ保健室行くのも面倒だったし... ちょうどいいけど。


咲月:ほっといたら、ばい菌入って危ないんだよ!?


〇〇:わかってるよ。


咲月に手当てしてもらってるのは、なんか恥ずかしいから、ぶっきらぼうに答える。


咲月:サッカー大好きだからって調子乗らないのっ!


〇〇:ガキ扱いすんな!


ちょっぴり赤くなった顔を逸らす。


咲月:ほらっ! バンドエイド貼るよ!


サンタの帽子みたいに真っ赤に染まった傷に、咲月がバンドエイドを貼る。

ちょっとの痛みと同時に、咲月の手のちょっとした違和感が目に止まる。


〇〇:咲月... 手、どうしたの?


ちょっと前は真っ白だった咲月の手には、痛々しい赤みが。


咲月:あぁ...これねっ! 洗い物とかしてるから、手、荒れちゃっただけだから...気にしないで!


君は眉をちょっとハの字にしながら、ぎこちない笑顔を浮かべて言った。


〇〇:そっか...。


なんて今は相槌打つことしかできないけど。


今日のちょっとばかりのお礼も込めて、

帰りにハンドクリームでも買ってあげようかな。

柑橘系の匂いとか、なんか咲月っぽくていいかも。






僕は井上〇〇。

今は高校生でサッカー部に所属してる。


隣にいるのは、ちょっと鮮やかなシュシュで束ねた綺麗な茶髪と、眩しい笑顔が特徴の女の子。

小学校からの知り合いで、自分が所属してるサッカー部のマネージャー。

僕たちの身の回りこととか、健康のことを心配してくれる、


咲月:最近、ちょっと練習しすぎじゃない? 体壊さないでよ?


思いやりが深いタイプ。


〇〇:選手権前だからね。気合い入れないと。


それと...





咲月:まあ、無理しない程度にがんばって! すっごい応援してるよ!


僕の好きな人。





君に真っ白な手を差し伸べてもらってから10年くらい経って。

ずっと友達でいられると思ってたけど。

気づいたら自分にとって、君は友達以上の存在になってた。


君には昔から、色々貰ってばっかだったから。


だから今日くらい、僕からの想いを君に贈らせて欲しい。



〇〇:ねぇ、咲月。



僕だって、勇気を出すんだ。



咲月:ん? なにー?



冬の真っ赤に染まった夕焼けが、

真っ白な君に映って、

君は不思議そうに振り返る。





〇〇:僕、咲月のこと好きだ!





自分の顔が赤くなるのがわかる。





〇〇:だから... 付き合ってほしい...。





勇気を絞り出したら、







咲月:ご、ごめんなさい...。





1番聞きたくなかった言葉が、耳に響く。


さっきまで真っ赤にに染まってた冬の空も、なんか白黒に見えてくる。





咲月:うれしいけど...。私じゃ〇〇に似合わないよ...。私、〇〇になんにもしてあげられないし。





咲月:だから... 他にもっといい子探しな?





君は眉をちょっとハの字にしながら、ぎこちない笑顔を浮かべて悲しそうに言うんだ。






僕は井上〇〇。

今は大学生でフットサルサークルに所属してる。


隣で綺麗な茶色の髪をとかしているのは、小学校からの知り合いで、眩しい笑顔が素敵な女の子。


思いやり深くてとっても優しいけど、


咲月:ねえ。今日の私、顔変じゃない?


自己肯定感がちょっぴり低いタイプ。


〇〇:全然変じゃないよ?


それと...





〇〇:むしろ、すっごいかわいい。





僕の大事なかわいい彼女。


咲月:へへっ。ありがとっ!


君は顔をちょっと赤くしながら、眩しく微笑む。


最初に告白した時は、自分じゃ何もしてあげられないって断られたけど。

何回も僕が告白するうちに、君も折れて付き合ってくれた。


咲月:〇〇もいい感じだよ?


こうやってちょっと顔を赤くしながら褒めてくれるのも、


〇〇:そりゃどうも。

咲月:ねえ! 本気で捉えてくれてないでしょ!


揶揄うとちょっとムキになるのも、


〇〇:ごめんってば。


君の好きなところのひとつ。


他にも色々あるけどね。



君は腕に通したちょっと色褪せたピンクと水色のシュシュで、綺麗な茶髪を束ねようとする。


〇〇:あ、咲月。ちょっと待って。


君を呼んだら、


咲月:ん? なにー?


って不思議そうに振り返る。


〇〇:これ、あげる。


僕が差し出したのは、綺麗なピンクと水色のシュシュ。


咲月:え! いいの? 今日、誕生日でもクリスマスでもないよ!?


眉毛がハの字になってくる。


〇〇:いいの。そのシュシュ、ずっと使ってたでしょ。だから新しいのあげたくて。


咲月:でも... 貰ってばっかなんて悪いよ。

咲月:私はなんにもあげられてないし、お返しもできてないのに...。告白だって何だって、全部〇〇からだよ...?。


君は眉をちょっとハの字にしながら、ぎこちない笑顔を浮かべて悲しそうに言うんだ。



君は気づいてないかもだけど。

いつも貰ってばっかなのは僕の方だよ。


手を差し伸べてくれたのも。


優しさをくれたのも。


僕の人生に彩りをくれたのも。


全部、君なんだ。


だから、最初のシュシュだって、


ハンドクリームだって、


僕が君に告白したのだって、


それに今も...、


全部君から貰った色んなものへの、僕からのお返し。


〇〇:いいんだって。僕があげたくてあげてるだけだし。


だから君からのお返しなんていらないんだ。


咲月:でも...。


〇〇:あと、


〇〇:咲月が新しいシュシュ、欲しそうな顔してたからね?


僕がちょっとふざけて言ったら、


咲月:なにそれ〜。


って君も笑顔になってくれた。


僕も自然と笑っちゃう。


〇〇:だから貰ってくれるだけで大満足なの。

咲月:う〜ん。そういうことにしとくね!


君はほんのり柑橘系が香る真っ白な手で、笑顔で僕からのプレゼントを受け取って、

慣れた手つきで綺麗な茶髪を、綺麗なシュシュでポニーテールに束ねた。


腕にはちょっと色が落ちたシュシュが。

物理的には色褪せてても、僕たちの思い出に染まってる。


〇〇:それは捨てないの?


って僕が悪戯に笑って聞いたら、


咲月:これは〇〇からの最初のプレゼントなんだから取っとくよ!  勝手に捨てないでよね!


って真剣な顔で言いながら、ちょっと色が落ちたシュシュを、君は机の中に。


〇〇:冗談だよ。覚えてるって。捨てないよ。


君も思い出に染まってると思ってくれてたみたい。







〇〇:咲月〜。そろそろ出るよ。


僕がクローゼットの前の咲月に声をかけると、


咲月:〇〇! まだ、コートいるかな?


ポニーテールを揺らしながら、青いコートを持って僕に聞く。


〇〇:いらないんじゃん? そろそろ4月だし。

咲月:たしかに!


なんて何気ないやりとり。


〇〇:じゃあ先に靴履いて待ってるね。


僕はリビングを出て、玄関へと向かう。

靴箱に手を伸ばすと、後ろでリビングのドアが開く音が。


咲月:そういえば〇〇! ほんとにお返しいらないの?


リビングから顔を出して、僕に聞いてるみたい。


〇〇:ほんとのほんとにいらないよ。


僕は咲月から誕生日にもらった、真っ白い靴を履きながら答える。


まだお返しのこと、気にしてくれてたんだ。


咲月:ねぇ! 〇〇!

〇〇:ん?


それにもし君からのお返しがいるとしても、


咲月:シュシュありがとう! ずっと大事にするね!


ほら、もう貰ってる。


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