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スマホがあるならエクスペクトパトローナムだって使えるはずだ
目に見えないものは信じますか。
魔法ってあってもおかしくないな。
ワイヤレスイヤホン。こいつを見るとき、本気でそう思う。
優雅にモーツァルトを奏でたと思ったら、サンボマスターの激しいサウンドが鼓膜を叩き、五等分の花嫁たちの甘い歌声に包まれる。
こんな足が生えたビー玉みたいなものが、どうして多彩な旋律を作り出せるのか不思議で仕方ない。
この小指のよりも小さいボディにそのだけの機能が詰まっていることが信じられない。
小指にできることなんて、守られることないゆびきりげんまんに使うくらいしかないのに。
いちばん信じがたいのが、「モーツァルトの魔笛を奏でよ」という指令が空中を飛んでいることだ。
何十ページにもわたる楽譜が宙を待っているのだろうか。
そうなると、福山雅治のイケボも空中を漂っていることになる。あの妖艶なボイスに体を包まれていると思うと、男ですら頬が紅くなる。
とかく空飛ぶ楽譜も、不可能を可能にするビー玉も意味がわからない。
始まりの大魔術師、スマートフォン。
ヴォルデモートなんて目じゃない。その魔法の源には、電波という名のマナがあるらしいのだ。
初めて電波を発見した人はおかしい。そして、それを使おうとした人もおかしい。
目に見えないそれを信じたことになる。
糸電話で会話ができるのは、なんとなくわかる。
けれど、見えに目ない電波たるものが、糸の代わりになるという思考回路はてんでわからない。
ぜんぜん分かっていないが、もう電波があることは分かったとする。
けれど、LINEで特定の誰かに「好きです」と送れる仕組みが理解できない。
駆け出しのシンガーソングライターのラブソングよろしく歯の浮くメッセージを、他人が拾っていてもおかしくない。
特定のスマートフォンにだけ届いたと、誰がどう証明できると言うのだろうか。
しかも世界の人口は増えている。
つまり、電波の総量も増えている。これからも増えていく。
圧倒的な量の電波を日常的に浴びているのもかかわらず、平均寿命が伸びているのも不可解だ。
そもそも、電波が人体に悪影響を与えるという前提が間違っているのだろう。
とはいえ、誰かを傷つけるコメントや友人に悪口をいうグループといった悪意に満ちた電波が自分のスマートフォンから日々発せられていたら、身体に良くない気がする。
だから、愛や希望といったキレイゴトしかスマートフォンに語らせないようにしたい。
電波について、理解できる日は来ないだろう。
たとえ理解できようができまいが、それはある。現に多大な恩恵を受けている。
そう考えると、やはり魔法があってもおかしくない。
明日からエクスペクトパトローナムが普及しても不思議じゃない。
ぼくは驚かない。だって電波があるなら、守護霊の魔法くらいあるかと思える。
魂を吸ってくるあの嫌なヤツにかましてやれ。