思い出
14歳からスキーを始めた。それなりに好きで、上手く滑れるようになりたかったので、夜行バスやらでバイトで稼いだ金はほとんどスキーに使っていた。なんならスキー場でバイトすればいいんじゃないって思ったほどだ。
だけど、自己流で滑ってきたのでカッコが悪い。僕の妻は、スキーが上手だった。準指導員の資格があるくらい。女子体育大卒だ。
彼女の実家が所有するマンションがいくつかある。新潟県の越後湯沢の岩原スキー場。もうどのくらい行っただろう。数えられないや。
越後湯沢の温泉街の端に「思い出」という名のホルモン屋さんがある。カウンターと小上がりのテーブル席が2つあるだけ。オバちゃんが1人で切り盛りしている。
初めて食べた時の衝撃は、今でも忘れられないし、どうしても食べたくなって、東京からホルモン目当てで、車で行ったこともあるくらいだ。
専用のロースターこ台の上で、油が滴り落ちてファイヤー全開になる。完全に焼けるまで待てない。特製ダレは、市販のタレを10種類ミックスするんだよガハハって、オバちゃんは笑う。ニンニクが効いている。
ピタピタのタレにつけたホルモンを炊きたての銀シャリの上にチョンチョンとつけて、ご飯をかき込む。この南魚沼産のコシヒカリがめにはいらぬかぁ〜。水戸黄門様バリの美味さだ。加えて、オバちゃんが作るけんちん汁と白菜ときゅうりと大根の漬物。もうあとはなんもいらない。たぶん、4人前はペロリと喰らう。申し訳ない程度にビール瓶を1本だけ空ける。本来僕は呑兵衛だ。
でも、このホルモンの前には、銀シャリが合う。痛風だけど、銀シャリとホルモンとチョコっとのビール。あ〜〜っ、もういつ発症してもいい。これを食って死ねるなら、本望だ。
こうして完食する姿を、オバちゃんはいつもタバコを燻らせながら、ニコニコ笑ってこっちを見てる。
今日もよく食べたなぁ。毎年、あんたの顔を見るのが楽しみだよ。
そんなオバちゃんは、今年で89歳。いつまで生きられっかわかんねぇでよ。
長生きして欲しい。
だって、このホルモン食えなくなるじゃん。
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