培ってきた確かな経験が生み出すもの
島野:僕は今回のクラフトジンが楽しみでしょうがないんですよ。
高崎:僕も相当楽しみです。無理して早く売りたいとかはまったく思ってなくて。むしろ寝かせていたいなとか思ってます。せっかくこれが始まりっていう、のろしみたいなイメージのクラフトジンなので、ほんとにわかってくれる方とか想いが伝わる人だけ手にとってもらえたらいいなという気持ちです。
小祝:岡空さんは最初にクラフトジンの話を聞いたとき、どんなふうに思いましたか。
岡空:「ラストジン」がなければ、あまりやる気はなかったかもしれませんね。「ラストジン」で得た経験と、「ラストジン」のまえにうちで「インパクト」というオリジナルのジンを出していて、それをつくっていなければ「ラストジン」もないし、丈さんのジンもないかもしれない。ぜんぶつながっていますが、「未来日本酒店」さんの山本社長に出会えたことの影響が本当に大きいです。
小祝:私は丈さんからこの話を聞いたときにアクロバティックな作り方をするんだなと思ったんですよ。福島の酒粕を鳥取に送って、そこでつくってもらって、また福島で売るなんてなかなかできないことじゃないかと。福島にかける丈さんの想いを預かってお酒にして返すようなものだと感じるのですが、どのくらいの期間預かっていたんですか。
高崎:たぶん1ヶ月ぐらいですか。
岡空:そうですね。酒粕をそのまま置いておくとよくないので届いてすぐに作業にかかったので、1ヶ月ぐらいでしょうね。届いたらすぐに酒粕を溶かして発酵するため事前に麹もつくっていたので。いろんな経験が活きているかなという感じです。たぶんこれをまったくやったことのない酒蔵ではどうしていいのかわからないと思います。酒粕と麹との割合でどれくらいのアルコールの酒量がとれるかということは見当がつかないと思います。酒粕焼酎をつくるためのレシピから、アルコールがとれて、数回蒸留して、高濃度のアルコールができるということがうちにはわかりますので。
小祝:種は福島産の、生まれが鳥取で、育ちが東京、そして福島でデビューみたいな感じですね。そこに入れるスパイスやハーブは福島でしたよね。
高崎:福島のボタニカルを探しているところです。蒸留をするのは東京の蔵前です。
岡空:蔵前だけではできませんしね、酒粕焼酎は。巨大なタンクに2ℓの酒粕を溶かしてますからね。
小祝:たくさんの人の縁がからんでますよね。双葉には。
高崎:僕まだ今回の酒粕の焼酎をまだ飲んでないんですが、蒸留してみてどういった印象ですか。
岡空:焼酎って蒸留したては粗さがどうしてもあるので、本当はもう少し置いてからのほうがよかったかなと思ってはいるんですけど、減圧蒸留なども使いながらなるべくそういった粗さが出ないようにしました。あとはボタニカルの特徴が出ないといけないので酒粕焼酎の特徴が出すぎてはいけないなと注意しながらつくっています。そのなかでは納得できたものができたと思います。
島野:完成したときには小さくてもいいから、双葉町でお披露目イベントをやろうと話してたんですよ。
岡空:できたら行きたいですね。
岡空:尚、来週から出張で東京へ行きます。都合がよければお会いしましょう。私東京でアパートを借りていて、ほんとはずっと東京に滞在したいんですよ。やっぱり情報の中心は東京ですので。
島野:そうなんですよね。いまいろんなお仕事をさせていただいていて双葉もそのひとつですが、多くの地方自治体を中心に地方創生のビジネスを立ちあげているように思います。もともと国や自治体も推進していましたがコロナによるオンライン化やバーチャル化も相まって、その熱の帯び方やスピードがとてつもなく速くなっています。だから僕ら東京の企業も地方創生に対してどんどん参加して、東京のリソースをつっこんでいって、地方と東京の両方からクロスオーバーしていっている。それがおもしろいですね。
岡空:地方に移住してビジネスしている人もいますからね。鳥取にもビジネスするために来た方が何人かおられます。場所を選ばなくなってますね。
島野:それがこんどは海外にまで波及していって、ビジネスのあり方がもうぜんぜん変わっていくんだろうなと感じていますね。
岡空:それについていけるか、いけないかですよね。
高崎:今日みたいな機会でお話を聞かせていただいて思うことは、蔵の創業当時から積みあげてきた技術の凄みですね。この目まぐるしい情報社会でゼロからなにかを立ちあげると、立ちあげたときにはつぎのトレンドに移っていて一瞬で吹き飛ばされるみたいなことが多いと思うんです。そのなかで千代むすびさんのもつ土台となるような技術力って簡単には吹き飛ばされるものではないですよね。その土台をもとにして多様性をもたせることで、このとてつもない時代の速さに負けない強度があるっていうことが印象的でした。
島野:トライアンドエラーを恐れずになんでもつくって、ちょっとダメだったからカスタマイズしようといってまたつくる、そういう柔軟性と判断力がすごいですよね。ものづくりというものは、どれだけの需要があるかを調べて、そこから割り出した製造工程と作業期間など、長いスパンをもうけて取り組むものだと思っています。プロトタイプを作るのにもまた時間をかけたり…つくるものの規模にもよりますが年単位で考えることを、千代むすび酒造さんは数ヶ月、早ければ週間単位で変えていってしまう。情報やマーケティングの世界ではあたりまえの速さですが、ものづくりでその速度をもって進めていくことは恐ろしいなと感じますね。
岡空:まったくゼロのマーケティングではなく、あるていどの狙いがあったうえでの製造ではあります。
島野:裏づけに経験や蓄積があるからこそなんでしょうけどね。
岡空:いままでやってこられた社長だったり、その先代のおかげかなと思っています。それでこんな出会いをいただけるのはありがたいですね。
次回は新作クラフトジン「ふたば」の最初の故郷、福島県郡山市にある酒蔵「仁井田本家」の仁井田穏彦(にいだやすひこ)さんをゲストとしてお迎えする予定です。300年という長い年月、脈々と福島で酒をつくり続け、福島を見つめる酒蔵のつくり手とどのようなお話ができるのか、ご期待ください。
文:丸恵(サムライジンガ)
撮影:福山勝彦(プランディング)
収録:須藤高志(サムライジンガ)
撮影場所:Creative Sound Space ZIRIGUIDUM(ジリギドゥン)
2021.7.8収録
今回はリモート収録にて、千代むすび酒造様より写真をご提供いただきました。ご協力いただき誠にありがとうございました。
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