Kickstarterの新機能に見る、クラウドファンディング全面戦争の幕開け
きびだんごの松崎です。
最近公開されたKickstarterの新機能「Late Pledge」を例に、同社の最近の戦略、ひいては業界の動きまで俯瞰して考えてみます。
Kickstarterとの出会い
2011年に初めてKickstarterを知り「これは面白い!」とたちまちその魅力に取り憑かれました。そして2012年の2月に本社を訪れる機会がありました。
何とか創業者にコンタクトできないだろうか、と画策する中、かの伊藤穰一さんが同社のエンジェル投資家であることを知ります。
これだ!と思いすかさずご紹介をお願いしたところご快諾いただき、それはそれは歯の浮くようなレコメンドメールを書いていただきました。
(恥ずかしいので日本語訳は勘弁してください)
ほどなくして創業者の一人で当時の初代CEOだったPerry Chenから返事が来ます。
「ニューヨークまで来たら45分くらいなら時間作れるよ。意味あるならね」
もちろん答えはYes!です。
Kickstarterへの提案
当時提案したかったことは3つ。
終了したプロジェクトページが魚拓みたいでもったいない。商品化されたものがそこで買い続けられたら良いのでは?
大企業とのコラボとか、あったらいいのに。
日本でもクラウドファンディングは絶対にウケるはず。Kickstarter Japanやろうよ!
1については「僕たちはECとか良くわからないんだよね。だから自分たちではやらない。もっと詳しい人たちがやればいいんじゃないかな」
2については「全力でお断りしてるんだ。だって我々のプラットフォームはクリエイターたちのためのものだからね。広告代理店とかからくる『Nikeとコラボしませんか?』みたいな提案は来たらソッコー断ってるよ」
3については「日本ね。興味はあるけど当分先かな。まだアメリカ国内だけのサービスで、もし他国展開するとしてもカナダ、イギリス、オーストラリアとか英語圏からかな」
そして極め付けは「そんなにやりたいことがあるんだったら、自分でやってみたらいいんじゃない?」の一言。本当にその通りのセリフだったのかは今となってはわかりませんが、少なくとも自分にはそう聞こえました。
その出会いがきっかけとなって彼らに背中を押してもらい、Kibidangoは生まれました。早いもので、その出会いから10年以上が経っています。
Kickstarterの暗黒時代と新たな時代の到来
「プロジェクト終了後の販売機会」について、当時彼らの出した答えは『Spotlight(注目されてます)』という機能でした。プロジェクト終了後に、ボタンのような形でリンク先を設定でき、そこから自社のECサイトに誘導できる。
ところが同社のライバル、Indiegogoが意外な行動に出ます。2014年に発表した「InDemand」(『「好評につき」継続支援受付』)という機能がそれ。
「他社で終了したプロジェクトも、その金額を引き継いで予約販売をし続けられますよ」というものです。
そこから多くのプロジェクトオーナーが、終了したプロジェクトページにリンクを貼ってIndiegogoで予約販売を続けることになります。これはKickstarterにとっては予想外だったはず。プロジェクト終了後の商流を競合に取られ、Kickstarterにとっては闇の時代とも言える状態が10年続きました。
Kickstarterの新時代
そんな流れを変えたのが、2022年に就任した新CEOのEverette Taylor。これまでタブーとされていた聖域にどんどんメスを入れていきます。
5月に発表された同社の「ニュービジョン」、その目玉の一つがこの「プロジェクト終了後の支援受付」でした。
Kickstarter版InDemandとも呼べるこの機能、彼らはこれを「Late Pledge(あとから支援)」と名付けました。プロジェクトが終了した後からでも支援可能。いい名前ですね。
βテストで一部のプロジェクトに適用され、5月から全面的に使えるようになりました。
追いかけるIndiegogoと新たなライバルの出現
もちろん、ライバルのIndiegogoも黙っていません。2022年に就任した新CEOのBecky Centerは7月に「A Bigger and Bolder Indiegogo(より大きく、より大胆なIndiegogo)」と称し、分割払い、ギフト対応、大口支援割引、事前予約、限定販売など様々な機能を発表。真っ向から立ち向かう姿勢を見せます。
そんな大手二社がバチバチやっている中でのダークホースは、Backerkit。元々Pledge Manager(支援管理ツール)と称しKickstarterが弱かった、特典送付の際の住所確認アンケート機能からはじまり、やがてクロスセル・アップセルにつなげる販売促進機能を追加し、統合マーケティングツールを提供していた同社は、2022年6月に自社でクラウドファンディングプラットフォームを開始します。
元々Kickstarterはプラットフォームの周りに大規模なファンコミュニティが形成され、規模的に他社を圧倒していたものの、細かく見ると機能的にプロジェクトオーナーから不満を持たれているものが多くありました。その例が支援管理ツールや、マーケティングのサポート。
これを解決する形でBackerkitやJellopといった独立資本の会社が続々と現れ、周りに勝手に経済圏を作るに至りました。今回のKickstarterの一連の施策は、そうした経済圏を自社に取り込んでいこうとしているようにも見えます。
「新生Kickstarter」とも呼べる、同社のここ数年の動きはとても興味深いです。それが他社も刺激し、業界自体が一皮剥けて新たなステージに向かう。国内でも同様の流れが来るのではないかとワクワクしているのは私だけでしょうか。