#29 日本人であるという事(精子バンクを使うにあたって)
手術が終わって、僕たちに残された最後のオプションは
駄目だった場合は、
①子供を持たない選択肢をする
②家族の中に例えば兄弟がいれば、精子提供をしてもらう(父親、友達を含む)
③養子縁組
④精子バンクを使う
となった。①は妻はまだ30代前半で、世間一般的にはあきらめる年齢には早すぎたし、僕自身の病気だけで、子供を持たない決断をすることは到底できなかった。
妻も自分自身も母親であり父親になりたかったし、次の選択肢があるのに挑戦を諦めることはどうしてもできなかった。
②に関しては、僕自身に兄弟はおらず、たとえいたとしても、近すぎて、父親や友達に提供してもらう事、同様に選択肢としてなかった。妻も同意見だ。
③に関しては、オーストラリアでは現在、あまり一般的ではなく、費用もかかるため、選択肢からは、すぐに外れた。
そうなると、必然的にオーストラリアでは市民権を得ている、④の精子バンクになるんだけれど、『じゃお願いします』って簡単に納得できることではないことは、日本人ならわかってもらえるんじゃないだろうか。
日本人で生まれたからには、どうしても日本という単一民族国家の伝統と歴史があるのか、家族=血縁主義、血統主義が否めなかった。
実子以外は家族ではない風潮が今でもあるし、不妊治療は盛んだけれど、精子バンクなどの第3者間精子提供に関しては、かなり後ろ向きで、AID(非配偶者間人工授精)に関しては1948年から行われていたにも関わらず、産婦人科学会のガイドラインのみで、サポートする法律が日本にはないのが現状だ。
AIDが負の歴史になってしまい、『出自を求める権利』が最近になって制定されたものの、長年苦しんでいる子供たちが日本にいるのも事実だ。
日本人が世界の精子バンクに登録するドナーが極端に少ないのは、そういった背景があり、知られていない日本の現在の問題点だったりもする。
ここオーストラリアでも、日本からわざわざオーストラリアの産婦人科に来て治療する、裕福な日本人も実際にいるし、台湾なんかでは比較的、費用も安く安全に、ドナーを使えるので、アンダーグラウンドでの精子提供(医療を通さない個人間での精子提供)を防ぐためにも、日本は早急に対処すべき問題だと僕は考えています。
結婚した当初、僕は二人の子を夢見ていた。
自分の子はどんな顔をしてるんだろう?
どんな性格をしているんだろう?
そんな思いもあってか、2回の手術をしても次の選択(精子バンク)を100%受け入れきれず
毎日葛藤があった。
でも何となく、月日が経って思うのです。
例えば、シングルマザーの人が再婚して、その子供と父親の血が繋がっていなくても、それは立派な家族だし、特別養子縁組も立派な家族だ。現に妻方の母親の兄弟は6人兄弟のうち上二人が養子だ。
今でも仲良くやっている。
家族とは決して血の繋がりだけが重要なんじゃないって・・・
二人が望んで、大切にして育てていくその子供は、たとえ血が繋がっていなくても、家族なんだと。
いや、僕とは繋がっていなくても、妻とは血が繋がってるじゃないか?って・・
日本人だから日本に生まれたから、当然持っている価値観があって、僕自身を混乱させ、自分自身で苦しんでいたけれど、ネグレクトやドメスティックバイオレンスなどの社会問題を棚に上げて、それでも血の繋がりのある家族は重要なのかと。
不妊治療の保険拡大をするよう、ようやく政府も最近になって動いたけれど、少子化、少子化と言っておきながら、10年以上少子化担当大臣は何をしていたのか?とも思うし、不妊治療の先のオプション(養子縁組だけではなく、第三者間精子提供)があってもいいと思うんです。
誤解しないでほしい。
僕は推奨してるのではなく、あくまで選択肢を増やすべきだと考えています。
不妊治療はそれぞれによって状況が違うし、治療方法も違う。
その先の選択肢も違くて当然だ。
勝手な倫理観を日本国民に押し付けないでほしいと思うのです。