アブデル・ラーマン・エル=バシャの演奏会
コロナ以来、ほぼ演奏会に行っておらず、ふと思い立って、eプラスで検索していたら、
たまたま出てきたエル=バシャの演奏会。
印象に残っているのは、若い頃の演奏録音で、技術が高く、粒立ちのはっきりした、クリアで真面目な演奏をするイメージ。
それが65歳になって、どんな音楽家になっているのか。
興味を引かれ、行くことにした。
演目は、ゴルトベルク変奏曲、ショパン夜想曲op.32の2曲とピアノソナタ3番。
一番良かったのは、ピアノソナタ3番で、特に四楽章は冴えていたと思う。
四楽章は、右手の下降音型がたくさん出てくるが、これを派手にやるのではなく、ppからクレッシェンドで柔らかく弾くのが、とても美しかった。
ピアノをぶっ叩くことがとても少なく、どの音も揺るがせにしない、
抑制の非常に効いた音楽づくりをする人だなぁと思った。
そんな中で、聞いていて違和感が残り続けたのはゴルトベルク変奏曲。
時々入るパッセージ頭のタメが、拍感を分からなくする時があって、なんかピンとこなかった。
凄く真面目に、抑揚も小さく演奏している感覚で、ロマン的でも古楽的でもなく、愉悦感も少なく、極めてニュートラル。
こういうものなんだろうか。
ただ、技芸的な曲になると、途端に生き生きとする。粒立ちが美しく、耳に気持ちの良いハマり方をする。
ということで、エル=バシャは、やはり技の人なんだなぁと再確認をした。
プロコフィエフなどは、もともと少し狂騒的なところがあるので、エル=バシャのように
生真面目に弾くほど凄みが出るのだろう。
アンコールで弾いた、ロミオとジュリエット「キャピュレット家とモンタギュー家」は、細部まで大変に鮮やかで面白かった。
アンコール2曲目は、本人作のカンツォネッタ。乾いた叙情性が魅力的な佳曲だった。
演奏会で、すべてを忘れて音に集中するのは、なんとも贅沢な時間の過ごし方だと改めて思った。