50年前のレンズ+18年前のデジイチ ~smc PENTAX-M 50㎜ F1.4の実力は?
■smc PENTAX-M 50㎜ F1.4
先日書いた「僕のフィルム一眼レフ事始め ~PENTAX MXの話」という記事で、僕が初めて購入した一眼レフカメラPENTAX MXとセットで購入したsmc PENTAX-M 50㎜ F1.4について書いた。1981年頃に購入したこの50㎜レンズはMXとともに仕事や取材に大活躍してくれたレンズである。smc PENTAX-M 50mm F1.4は、1977年に発売された、Kマウントのいわゆる「標準レンズ」だ。PENTAX-M 50mmには、F1.4、F1.7、F2.0の3種類があり、F1.4はその中で最も明るいレンズである。
smc PENTAX-M 50㎜ F1.4は、別記事でも少し触れたように、現在でも良い評価を得ているレンズで、非常にシャープで解像度が高い上、色収差も少なく、当時のレンズとしては優れた光学性能を持っている。F1.4という大口径レンズにも関わらず小型・軽量、フォーカスリングが滑らかで非常に操作しやすい。フィルター径は49mmで、フィルターの選択肢は豊富だ。絞り羽根は8枚で、開放F1.4でのボケは非常に美しい。そして解放では若干の周辺光量の低下があるものの、これもレンズの個性として許容できる範囲だ。ただし、解放で遠景を撮影してもシャープな画像は得られない。開放でシャープな画像を得られるのは3m以内といったところだ。なお、最短撮影距離は0.45mである。
一時期は、手持ちのミラーレスにオールドレンズを着けて遊んでいたが、このsmc PENTAX-M 50㎜ F1.4は、最近はほとんど使うことがなかった。というのも、僕はフルサイズのデジイチ、ミラーレスを所有していない。本稿執筆時点で、時々仕事や趣味で使う現役のレンズ交換型のカメラは、APS-Cとマイクロフォーサーズだけ。具体的には仕事メインのニコンD7500(これはミラーレスではなく一眼レフ)とスナップ、VLOG用のZ30、そして富士フイルムX-E3とオリンパスOM-5だ。これらにマウントアダプターを使って35㎜用の50㎜レンズを着けると、焦点距離が中望遠域(APS-Cで75㎜、マイクをフォーサーズで100㎜)になってしまう。この焦点距離はスナップ写真には使いにくく、APSミラーレスでスナップ用にオールドレンズを使う場合、35㎜用の単焦点レンズなら広角の28㎜(APS-Cで42㎜)か35㎜(APS-Cで52.5㎜)が中心だった。
余談になるが、自分がフルサイズを持たないのは、単純に「重くて大きいカメラを持ち歩きたくない」という理由に尽きる。仕事で使うと言っても、基本はWebサイト用の素材画像、Webマガジン用の取材画像等の撮影であり、商用誌のグラビア用の画像を撮るわけではない。フルサイズの画質にこだわる必要はまったくない。また旅行記録や日常スナップ用に使うカメラは「軽くて小さい」ことが絶対条件だ。よって、軽量のAPS-Cやマイクロフォーサーズを常用している。
今回、こちらの記事を書いたら、久しぶりにsmc PENTAX-M 50㎜ F1.4を使ってみたくなった。MGやMEスーパーなど手許にある古いPENTAXのフィルムカメラに装着して撮影してもいいけど、動作確認も面倒だし、わざわざフィルム買って現像に出すのも面倒。ということで、デジカメに着けて撮ってみたい。
最初は、ニコン用のマウントアダプター(K&F)を所有しているので、ニコンZ30に着けて撮影してみようとも考えたが、最新のミラーレスを使うのはなんとなく面白くない。そこで、手許にある古いPENTAXのデジタル一眼レフに着けて撮影してみることにした。使うのはPENTAX K100Dだ。これなら、そのままKマウントのM 50㎜ F1.4を着けて撮影できる。また、K100Dは単三電池4本で動作するので、専用バッテリーの充電器を探す必要もない。早速充電済みの単三エネループを入れたら、ちゃんと動作することを確認できた。
■PENTAX K100D
K100Dは2006年に発売された。ペンタックスのデジタル一眼レフカメラとしては、初代の*ist Dから数えると6機種目の製品にあたる。僕が初めて購入したPENTAXのデジタル一眼レフだ。ミラーレスではなく「一眼レフ」だから、ファインダーで見たままの像が撮影できる。ボディ内に手振れ補正機構があり、どんなレンズでも3.5段分の手振れ補正ができることが大きな特徴だ。デジタルプレビュー機能によって、撮影する画像を事前に液晶モニターでチェックすることが可能。被写界深度のほか、露出、ホワイトバランス、ストロボ照明など、詳細な内容を確認できる。
K100Dの手振れ補正機構は、専用レンズ以外にも対応する優れモノだ。当時の他社のボディ内手ブレ補正機能の動作には焦点距離情報が必要で、専用レンズを使わないとこの情報がボディ側に伝わらない。 K100Dは、旧製品のMFレンズだろうとマウントアダプターを介して他社のレンズを取り付けようと、レンズがボディに装着さえできれば、手ブレ補正が機能する。レンズの焦点距離を手動で入力することができるからだ。まさに、今回のように古いマニュアルフォーカスのレンズを使うことには非常に適したデジイチだ。
K100Dの撮像素子は、600万画素(総画素数631万画素、有効画素数610万画素)の原色CCDだ。撮像素子がCCDであることで、CMOSにはない柔らかな描写が期待できる。センサーのサイズは23.5×15.7mm、要するにAPS-Cサイズだ。考えてみればAPS-Cサイズで600万画素というのは、かなり贅沢なセンサーだ。1画素あたりの受光面積は、同じAPS-C で2000万画素を超える最新のデジカメと較べて4倍近い。ピクセルサイズが大きいということは、1つの素子にそれだけ多くの光を受けることができる。これなら解像度は低くともノイズが少ない良い画像が得られそうだ。
加えて今回の撮影では、レンズの光学解像度を考えれば、センサー側の解像度はそれほどいらないだろう。ともかく、けっこう楽しみな組み合わせだ。
ただし、K100DにM 50㎜ F1.4を着けると、先に述べたように焦点距離は1.5倍、つまり75㎜になる。人物ポートレートならともかく、スナップ向きの画角ではないが、とりあえず適当に撮影してみよう。
50年前のレンズと18年前の600万画素デジタル一眼レフの組み合わせ、どんな画像が得られるのだろうか?
■smc PENTAX-M 50㎜ F1.4の作例
作例…などというほど大げさなものでもないが、実際にK100D+50mm F1.4で適当に撮ってみた結果である。
まずは、18年前の古いデジイチに50年前のマニュアルフォーカスレンズという組み合わせにも関わらず、至って「普通」に撮影でき、普通の画像が得られることにあらためて感銘を受けた次第だ。
実際に撮影してみて少し驚いたのは、K100Dという古いデジタル一眼レフカメラが、とても使いやすかったことである。最新のミラーレスと較べると、デザインは武骨だが、グリップしやすく手に馴染む。液晶画面も当時の製品としては大型で視野角も広く、解像度もそこそこあって見やすい。そして何よりも、視野率が96%というペンタミラー式のファインダーを覗きながらの「一眼レフ」ならではの撮影が新鮮だ。操作は全般的に反応が遅く感じるが、にもかかわらずスムーズな設定変更が可能で、なかなかリズム良く撮影できる。18年前の製品ながら、現在も十分に使えるカメラだ。
そして肝心のレンズの方は、マニュアル操作とは言え、かつて慣れ親しんだレンズであることから、フォーカシング操作も絞り操作も非常にスムーズで、これまたとても使いやすい。
得られた画像は、以下の通り。何というか、際立った個性はないが、文句なしにシャープでボケ感も素晴らしい。
K100Dという600万画素のカメラで撮ったせいもあって解像感が低いのは当然だが、それなりに雰囲気のある絵だ。JPEG出力そのままだが、発色は非常にナチュラルで、立体感、遠近感がある。
K100Dの600万画素CCDセンサーは、フィルムカメラ的とまでは言わないが、最新の高画素CMOSセンサーと比較すると、ある種「趣のある」画像を吐き出してくれる。カメラとレンズの組合わせは、正解だったと言える。さすがにこの組み合わせで常用しようとは思わないが、時々街歩きに持ち出しても面白いかもしれない。そしてポートレート写真を撮ってみたくもなった。