シンビン・ブルーカードの論点
ブルーカード・シンビンの議論ステータス・何かが変わるか
誰が議論しているか
FIFAかと思ったら、サッカーのルールはIFABという協会が制定しているそうです。
※サッカーが世界的スポーツであるのに対し、UKの4団体に偏りすぎでは、という話は今は脇に置いておきましょう。
ちなみにFIFAはフランス語で、Fédération Internationale de Football Associationです。英語だとInternational Federation of Association Footballなのですが、通称はFIFAですね。
つまり、今回の議論の場はルールを司るIFABで、その団体のAGM (Annual General Meeting 年次総会)が、2024年3月2日に開催され、ブルーカードの導入はされなかった、と各ニュースで伝えられています。
何を議論しているのか
Sin Binという新ルール導入について(もちろんIFABのAGMではこれ以外にも色々議論しています)
いつから何が変わるか
今のところ何も変わらない。
イングランドのLower levelsのFootball (アマチュアの大会等?アンダーカテゴリー?) ではイエローカードを使ったSin Binが2019-20年からトライアルとして導入されている
トライアルに少なくとも短くとも12か月以上をかける。
2024-25シーズンでトップレベルへのトライアルは見送られたので、もし2025-26シーズンでトライアルを開始できた場合、トップレベルへの本格導入は早くても2026-27シーズンからとなる。
※トップレベルとは、Premier League, LaLiga, UCL, EURO, Copa America等が挙げられている。(ESPN)
主な論点と枠組み
ではここからは、主な論点を挙げていきます。
ブルーカード導入、シンビンのデメリットだけを挙げるのはフェアではなく、以下の枠組みで整理していきます。
検討目的(Sin Binで解決したい問題)
まず、シンビンで解決したい問題は何か。
1. 審判への異議を減らす
そもそもの話として、IFABのルールに於いて審判はその試合を裁くための全権を持っているので、「異議」自体が認められるものではない、という事があります。 (IFAB LAW 5 THE REFEREE 5.1 The authority of the referee)
サッカー人口は拡大している中で、約1/7が毎年辞めていく為、UEFAの加盟国55か国で40,000人の審判不足が起きている。
審判の判断への過剰な異議申し立て及び身体的な加害(トップリーグでの審判批判がLower Levelへ大きな悪影響を及ぼしている) (ESPN)
確かに、Jリーグでも審判に詰め寄っていったり、海外の試合後のインタビューでは審判批判はかなり多く行われている印象があります。判定への理解・再発防止目的での審判とのコミュニケーションは必要ですが、現状はリスペクトが不足している、と言えるのかもしれません。
2. 戦術的ファウルを減らす
ESPNやThe Athleticで取り上げられている例は、EURO2020の決勝戦、イタリア代表のGiorgio Chielliniが、England代表のBukayo Sakaを後半Additional timeに引き倒したシーンが挙げられています。
この場面、キエッリーニが入れ替わられて最終ラインを突破されそうだった為、サカを引き倒してでも止めた、という1点 > イエローカードの判断をしたファウルでした。
スラムダンクでいう、山王の深津のインテンショナルファウル(当時の呼び方)が思い出されますね。
こういった意図的なファウルは特に近年、カウンターアタックのスピードが上がったり、プレッシングが向上することで増えているそうです。
選手の怪我の可能性があること、そもそも故意にファウルする事自体の正当性が全くないことから、イエローカード1枚貰うけどやむなし、というTactical Foulが増えている現状も確かに問題があると言えるのかもしれません。
ここまで、現状のサッカーを取り巻く問題点があり、私個人としては確かに解決する必要がある、と腑に落ちました。皆さんは如何でしょうか?
現状の施策でイシューを解決できないか
では実際に、どんな施策で解決できるかを検討しましょう。
審判への異議・過度な批判や、戦術的ファウルを減らす、というイシュー・ゴールが設定されました。
これらを達成する為に、Deterrent Power 、抑止力をもつペナルティの設定が必要です。
今までの問題から、通常のイエローカードでは抑止力として不十分であることが分かります。
では、
シンプルにレッドカードを増やすのはどうでしょうか?
これに関しては日英とも明確に述べられている記事を見かけませんでした。
問題をドラスティックに解決する為には、現状最大限のペナルティであるレッドカードを出すのが有効なのは間違いありません。
恐らく、レッドカードで試合から退場させてしまうとOutfield Playerが必ず1人浮く状態になるので、著しく試合結果に影響を与えてしまい、試合の戦略・エンタメ性を損なう程度が大きすぎることが問題なのだと思われます。
現実世界の色々な施策と同じで、目的は果たせるけど、副作用とのバランスが悪いものはなるべく選ばないという事ですね。
逆にいえば、審判保護や戦術的ファウル減ができるなら何でもいい、ではないという事です。目的を達成しつつ副作用を最小化する努力を追及しているのだと思われます。
という事で、間を取る施策として、警告(イエロー相当)+Sin Binで10分間退場というのは個人的には一程度妥当性があるように見えます。
※他にもイシューを解決できる方法は色々あるので、Sin Binが唯一解ではないですね。
※この措置を示す為にブルーカードを導入するか、という点は試合中に出すカードの色の違いだけだと考えましたので、私は重要な論点ではないと考えました。
Sin Binはイシューを解決できるのか
では、Sin Bin導入が本当に審判批判やタクティカルファウルを減らす抑止力になるのでしょうか。
理屈でいえば、より厳しいペナルティがより大きな抑止力になります。軍拡と同じですね。
Sin Binが無いよりはマシになる、のは当然ですが、相応の副作用があるので「有意に抑止が働く」といえないといけません。
トップレベルのトライアルで判断していく部分でもありますが、イングランドFAによるデータで、2019-20シーズンのLower levelのサッカーに於いて、38%の審判への異議が減ったそうです。(The Athletic)
ラグビーはソースによって1970年代、1980年代から幾つかの国のリーグで履歴があるようですが、2001年にRugby unionにて導入されたようです。Sin Bin導入前後で統計的にどの程度効果があったのか (何かのファウルを減らす等?) のデータは見つけられませんでした。
導入に関する副作用
最後に、Sin Bin副作用・つまり導入時のデメリットを考えてみましょう。
各国の有名監督 (Postecoglou監督、Klopp監督、Pochettino監督、Ancelotti監督など) は複雑さ、10分間守備的になること、等を軸として批判的な意見を展開しています。
副作用1:エンタメ性が下がる
10分だけいない場合、人が減ったチームは守備的になる
10分休憩した人が帰ってくると不自然にゲームバランスが崩れる
GKが10分退場したときの試合・得点への影響が大きすぎる(GK追加したら10分後に帰ってきちゃうし・・)
複雑化してVAR導入後から更に試合中断時間が伸びる
副作用2:審判保護にならない
複雑化する(と結局ミスの機会が増えて、試合外での審判批判にも繋がるのでは)
まとめ
私個人としては、プレーヤーや監督、ファンの批判に晒される審判を保護する為に選手・監督などへのルール適用は必要だと感じました。審判もサッカーを構成する大事な人たちです。
そして、サッカーのエンタメ性などを崩さないための落としどころとして、Red CardよりはModerateであるSin Binは妥当性があると考えます。もちろん、その他の案も考えられると思いますが。
カードの色の重要性が感じられなかったので、Sin Binを示す為のブルーカードは別にあっても無くてもいいかなと。
皆さんはどう考えますか?
ではまた。
参考リンク
(The Athletic) Football to trial blue cards for 10-minute sin bins
導入検討されていたSin BinとBlue Cardのルールについて
(ESPN) European football faces a referee shortage. Who's to blame?
ヨーロッパの審判不足について
(IFAB) LAW 5 THE REFEREE
IFAB規則による、審判の権限について
(ESPN) Tactical fouling is spoiling football - time for the rulemakers to stamp it out
戦術的ファウルの問題点
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