見出し画像

ヨミがえり(ショートショート)

平次は今月からある神社で、お百度参りをすることに決めた。
努力ではどうにもならないが、どうしても叶えたい願いがあったのだ。

100日目の参拝が終わったのは夜12時頃だった。
平次は本気で願いが叶うとは思ってなかったが、かすかな期待は持っていた。

帰ろうと踵を返すと、真っ白い服を着たロングの金髪のギャルが立っている。
平次は声をかけようか迷ったが、会釈だけして脇を通り過ぎようとしたその瞬間、
金髪のギャルの手が平次はの左腕を掴んだ。
「ねえ、、、時間ある??」

平次は驚きのあまり声が出なかったが、金髪ギャルの声があまりに切実だったので、
「少しならあるけど、、どうしたの??」と恐る恐る返事をした。

平次の言葉を聞くと、金髪ギャルはようやく掴んでいた手を離した。
タバコあるか聞かれたが、今は電子タバコだと答えると、金髪ギャルは不思議そうな表情をしていた。

神社の鳥居の側の階段に腰かけ、近くの自販機で買ってきたおしるこを渡す。
金髪ギャルが話し出す。

薄々感じていたが、やはり彼女は幽霊らしい。
20年前に自分をひいた犯人が未だ捕まらないので、成仏できなくて辛いと。
金髪ギャルはそこまで一気に話すと、おしるこをすすり平次の様子を上目遣いで観察してきた。

平次が黙って聞いているのを確認し、金髪ギャルは話を再開した。
「渋谷を中心に徘徊してると、最近はSNSでのやり取りが流行ってるんだよね?」
と微笑みながら平次のスマホを指差し、
「犯人の情報を言うから、私と会話した事をSNSで拡散して欲しいの」

平次は相づちを打ちながら、スマホを自撮りにして金髪ギャルとのツーショット写真を撮り、SNSにアップし拡散希望とハッシュタグを付けた。
連続して犯人の情報を打ち込む。
隣でおしるこをすする音が聞こえる。

何やってるんだ俺は、、

翌朝、平次は目覚まし替わりに使っているスマホを見て冷や汗が止まらなかった。
大炎上しているのだ。 
慌ててテレビをつけるとニュースにもなっていて、お百度参りをしていた神社がテレビに写っている。

報道記者がこれは炎上じゃなくて、怨上ですね!
と言っていた。スタジオの有名人達は誰も笑っていなかった。

炎上したおかげか数日後、犯人が捕まり平次は神社に報告しにいった。

帰ろうと思い振り替えると、金髪ギャルがあの時と同じ位置で同じ格好で立っていた。
今度は笑顔で平次に向かって言った。
「ありがとうね!おかげで成仏できるわ。お礼だけどあんたのお百度参りのお願いを少しだけ叶えてあげられるよ」

平次の横には、昨年交通事故で亡くなった蒼が立っていた。
平次は胸の底に残っていた、伝え切れなかった言葉を一言一句丁寧に蒼に伝えることができた。

この話は天上界でもバズり、今まで人を恐がらせていた者達も心を入れ替えて、現世の人間に接触するようになった。

天上界ではSNSを
そろそろ、のんびり、したいよね。
と名付け大いに流行ってる。

おしまい。








いいなと思ったら応援しよう!