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空の粒を集めて君へ #3【青春小説】

#2前回のあらすじ
 高校生活初日、ハルトの家の前にはユキがいた。
学校へ向かう道中、道に迷ったからだと理由を答えたユキだったが
偶然会ったミオリとの会話終わりに不思議な一言。
ハルトはその一言の意味が分からないまま、
高校生活をスタートさせる。


 ・・・全く分からない。
俺はユキの一言がずっと引っかかったまま、高校初日の自己紹介を迎えた。
自己紹介といってもほとんど知り合い。
時間の無駄だと思った俺は、
ただぼーっと、ユキに朝言われた言葉を反芻していた。
「・・・意味わかんねー。」

みんなが自分の紹介をしている最中、
盛り上がりを見せたタイミングが2度会った。
1度目はタイチの時。

「夏川太地!好きな人はまだいません!彼女募集中です!」
呆れた。こいつ小学校の時からずっと同じこと言ってるよ。

俺は少し鼻で笑いながら、先程までのモヤモヤが少し落ち着いて
タイチの自己紹介を聞いていた。
「将来の夢はこの田舎町を出て都会のお金持ちになって綺麗な女優さんと結婚して豪華な車でギロッポンをドライブします!」
皆が笑っていた。もちろん俺も。
これも小学校から変わらない。
小学生がどこでギロッポンなんて言葉覚えてきたのか、
当時は親の中で心配されてたのを思い出した。

そこから少しして2度目の盛り上がりを見せたのは
やはりユキの自己紹介だった。

「じゃあ次の人お願いします!」
担任が元気よく降ったその一言に、ユキは静かに立ち上がった。

「・・・降谷 雪。」

そう淡々と名乗って座った。
クラス皆、鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしていた。
担任も思わず、
「・・・それだけ?」
と、呟いてしまっていた。
俺はもしかした朝の謎を解くヒントがあるかもしれないと淡い期待を抱いていたので、周りから見てもあからさまにガッカリした。

その瞬間、ユキと目があった。
するとユキは何故かまた立ち上がり話し出した。

「親の都合でアメリカからきました。」

親の都合?転勤とかそういうことか?
まぁアメリカにいた理由はヒントにはならないか。
そんなことを思っている最中、ユキは続けて言った。

「この町には1年だけの予定です。よろしく。」

・・・1年だけ?
ユキはまたクラスに豆鉄砲を食らわせた。
担任も初めて聞いたようで同じく食らっていた。
ユキは静かに座り、何事もなかったかのように佇んでいた。

しばらくして担任がハッとして
「つ、次の人お願いしますー!」
そう言ってなんとか繋げた。
俺は次の人を哀れんだ。
可哀想に、あんな自己紹介の後だとやりにくくて仕方ないだろう。
次の人が、たまらず空気を変えようと一発芸をして
滑っていたのを見ながら、
その勇気に心の中で拍手をしていた。

 自己紹介が終わり、その日は授業がなかったのでホームルームと
明日からの説明などで、昼前に終わった。
帰る準備をしていると、背中を鈍痛が襲った。
「ハルトー!帰り飯食いに行こーぜー!」
予想通りのタイチ。だが鈍痛は予想していなかった。
「痛てーよタイチ!加減することそろそろ覚えろって!」
「わりー!なぁお前自己紹介の時、何考えてたんだよ。」
「え?何って?」

野生の勘とでもいうのだろうか。
それとも旧友の中だからこその以心伝心が起きたとでも言いたいのか。
とりあえずこいつの直感はとてつもなく鋭い。
「分かった、お前ユキちゃんの事考えてたろ!」
ほらみろ、油断も隙もあったもんじゃない。
ズバリ言い当てられた俺は何とか動揺しないように答えた。
「ちげーよ、ユキちゃんの次に自己紹介する人を哀れんでたんだよ。」
「なるほどねー。確かにありゃ可哀想だった。笑」

なんとか誤魔化せたか?と思っていた矢先、また背中に鈍痛が走った。
「ハールト!何してんの!」
続けて襲った鈍痛の正体はミオリだった。
「いてーって!お前ら揃って加減を覚えろよ!」
「えへへ、ごめーん!もしかしてタイチとどっか行くの?」
「そうだよ!ハルトは俺と昼飯食い行くんだよ!な?」

もう決まったかのように話すタイチだったが、
確かに昼前なので腹は減っていた。
「まぁそうだな、行くか。」
「えー!じゃあ私も行くー!タイチのおごりね!笑」
「なんでそーなるんだよ!」

昔から変わらない風景に少しホッとしていた。
「ねぇ、ユキちゃんも誘おうよ!」
ミオリの大胆な提案にホッとしていた俺は途端に硬直した。
「お、いいなそれ!俺まだ話してもらってねーし。笑」
「ユキちゃーん!」

二人の意見だけで進む話の流れについていけない。
ミオリはいつも誰とでもこんな感じ。
俺とタイチはいつも振り回されている。
「お昼食べに行こ!4人で!」
そう言いながらミオリは、帰り支度をしていたユキの肩を叩いた。
何となく今はユキと一緒にいると、
朝の出来事を聞いてしまいたくなると思った俺は、
「断ってくれ」と心の中で念じていた。
するとミオリが大声で、
「ハルトー!一緒に行ってくれるって!やったね!」
と、喜びの表情で言ってきた。

あぁ神よ、なぜこうも高校初日から試練を与えるのか。
信仰も何もないが、この時ばかりは神様を恨んだ。

「じゃあ、あそこ行こーぜ!久しぶりに食いたくなってきた!」
タイチがいうあそことは、町に1つしかない定食屋だ。

「よっしゃ、ハルト行くぞ!」
そういうとタイチは俺を、ミオリはユキを引っ張りながら
俺たち4人は教室を後にした。

空の粒を集めて君へ #3
#4につづく…

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