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空の粒を集めて君へ #1【青春小説】

 昔、遠い昔のような記憶にいる母さんが言っていた。

「ハル見て!今日は空が流れてるね〜。ほら、あそこなんか凄いよ〜!」

俺にはよく分からなかった。空なんて流れてないし。
雲が流れてるね。ならまだ分かるけど…。
その時はなんて言ったか?そりゃ分からないって言ったよ。
分からないのに分かるふりする奴は嫌いだし、
母さんに嘘つきたくなかったからね。

「空は止まってるよ?」

確かこう言ったんだ。すると母さんは、

「そっかー…。まぁあんたも大人になったら分かるようになるさ!」

そう言って頭をクシャッと撫でられた。

母さんはよくこうやって俺を子供扱いしていた。

「え〜?母さんだけ分かるのずるい!僕にも教えてよ!」
「お前にはまだ早いぞー!」

またクシャッと。毎回しつこいくらい掴まれるから、
いつも俺の髪の毛は寝癖のようにクシャクシャだった。

…遠い昔のような記憶にいる母さんは、いつも笑っていた。

少しまだ肌寒い時期。
母さんが亡くなるほんの1ヶ月前にあった、小さな出来事だった。



 あれから12年…。
俺は晴れて高校生となった。
地元にある普通の学校。一つ違うとすれば、
周りには海と山しかないクソど田舎の学校で、
1学年2クラス、過疎化しつつある高校だってこと。
そんな高校に進学する奴らはみんな決まって昔からの友達で、
保育園の時からの幼馴染が大勢いる。
「ハルト〜!お前また一緒だな!」
「え?何が?」
「クラスだよ!ク・ラ・スー!ほんと俺のこと好きよなー!笑」
この盛大にウザ絡みして来てるのは 夏川 太地(なつかわ たいち)。
こいつは生まれた時から父親同士が仲良くて、
よく父親同士の飲み会の席について行ったり、釣りに行ったりした。
いわゆる親友って奴だ。
「え!?俺まだクラス表見てねーって!ネタバレすんなよ!」
「え?そうなの?じゃ、あの事も知らねーな?」
「…あの事?何それ?」
「聞いて驚け。噂によると、
 このど田舎高校になんと海外から女の子が来たぞ!」
「は?なんでこんなど田舎に。」
「知らねーよ理由なんか!とにかく一緒にクラス表見に行こうぜ!」
タイチが強引に腕を引っ張って、走り出そうとする。
「分かったから落ち着けって!」
とりあえず力だけは強いタイチは人混みを掻き分けてグイグイ進む。
クラス表は、校舎の入り口横にある掲示板に張り出されていた。
「おはよ!ハルトどこのクラスだった?」
このタレ目のゆるふわ女子は 東堂 美織(とうどう みおり)。
親父さんが地元で有名な神社の神主さんで、祭りの時は巫女さんとして家の仕事を手伝っている。こいつも幼稚園からの幼馴染。
「あぁ、おはよう。俺は今から見るところ。美織は?」
「私は2組!まぁ、2クラスだけだからそんなに気にする事ないけどね」
「そうだな、俺もちょっと見てくるよ」
「あ、入学式終わったら校門前集合ね!
 タイチのお母さんが校門前で写真撮りたいって言ってたから!」
「分かった!タイチにも言っとく!」
そう背中越しに叫んで、俺はクラス表の前まで走った。

 「おせーぞハルト!何してたんだよ、急にいなくなって」
なんで俺が怒られているのか。
「校門のとこでミオリに会って少し話してたんだよ。
 お前のかーちゃんが、入学式後に校門前集合だってよ。」
「あ、写真ね!すっかりハルトに言うの忘れてたわ!笑」
「まーた怒られんぞー。お前のかーちゃんが怒ると、
『閂(かんぬき)様』が怒るよりも怖ぇ〜って大人たちの噂だからな。笑」
少しからかってやると、タイチは顔を赤くして慌てて言った。
「んなことより!クラス表だろ?」
「あ〜そうだったな。俺の名前は〜っと。」
「あそこだよ、1組!真ん中ぐらい!書いてあんだろ!?」
いまいち何処か分からない。
ゆっくり上から見ていくと、丁度中間より少し上くらい。

佐久間 春人(さくま はると) 俺の名前。

「あったあった。タイチよく見つけられたな。」
「あたりめーよ。何年の付き合いだと思ってんだよ!」
得意げなタイチを見て、笑いが込み上げてきた。
「で、さっき言ってた海外から来た子も同じ1組らしいんだが…。」
「同じ?一通り名前は見たけど、海外の人らしき名前はなかったような。」
タイチも俺も必死に探したが、結局見つからず。
トントン拍子で入学式が終わり、校門前に集まった。
「ハルト!タイチ!おっそい!」
ミオリが叫んでいるので、
とりあえず急ぐそぶりをする為に二人して早歩きする。

「タイチあんた、女の子を待たせるんじゃないよ!」
タイチの母親、夏川 恵美子(なつかわ えみこ)さん。
タイチの母親っていうより、村の子供達の母親って感じ。
怒るとめちゃくちゃ怖い。笑

「ごめん母ちゃん!ハルトがなかなか名前見つけられなくてさ。」
シレーっと俺のせいにするあたり、昔から変わらない。
「人のせいにすんじゃないよ!ったく、この子は。ほら、女の子達に謝っておいで!」
「女の子”たち”?」
「なんでも海外からこっちに来たって言ってたよ?
 あんたたち1組でしょ?優しくしてあげなさいよ!」

俺とタイチはお互いを見て、すぐにミオリの横にいる女の子を見た。
見た目はごく普通の日本人。
目鼻や顔の彫りもなんら俺らと変わらない。
でも何故だろう、凄く悲しい横顔をしているように見えた。

「なーんだ、何も俺らと変わんねーじゃん!」
なんというか、タイチにはこういう無神経なところがある。
「タイチ!そんなこと言うんじゃないよ!」
タイチ母のゲンコツ一撃。タイチの脳天にクリーンヒットした。
「痛ってーよ母ちゃん!分かったよ…。」
そう言うとタイチはその子に話しかけた。
「変なこと言って悪かったよ。名前は?」

「…。」
タイチは無視された。十中八九、タイチが悪い。

「ほーら怒らせちゃったじゃん!タイチのバカ!」
ミオリの暴言がタイチにクリーンヒット。これも自業自得だ。
流石のタイチにも、ミオリの一言が効いたようだ。
「ハルトー。俺の仲間はお前だけだよー。助けてくれよー。」
俺にすぐさま助けを求めてきた。
ミオリも俺たち2人に呆れた表情をしている。
どうやら俺がこの子の名前を聞くしかないようだ。
「あの…、タイチが変なこと言ってしまってごめん。
怒ってるなら謝るよ。
良かったら、名前教えてくれないかな?」

「…。」

沈黙。すると小さい声で、

「ユキ。」

なんとか聞き出せたようで、内心ホッとした。
えみこさんも後ろで親指立てて、無言のグッジョブ。
「ユキちゃんか〜!これからよろしくな!」
先程のミスを挽回しようと、何とかコミュニケーションを図るタイチ。
「…。」
そして案の定無視される。
「ハルト〜…。」
「ほーら!ハルトもタイチもこっち並んで!」
ミオリが俺達の手を引き4人で並んだ。
ミオリとユキちゃんが真ん中で、ユキちゃんの隣に俺。
凄く暖かい香りがした。

「はい、じゃあ笑って〜!!はい、チーズ!」
えみこさんの声が響く。

後からえみこさんに言われて気が付いたのだが、
この時俺は、凄く緊張していたようだ・・・。


バカみたいに笑っているタイチと
しっかりキメてくるミオリ、
無表情なユキ、
そのユキの隣で緊張している俺。


個性的だけど、それがまた心地いい。
そんな4人が歩んでいくそれぞれの人生のお話。

空の粒を集めて君へ #1
#2につづく…

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「誰の為の。」毎週水曜日 更新予定
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「あしたのわたしは」毎週金曜日 更新予定

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