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MANGA Plus by SHUEISHAで「少年ジャンプ+」の人気連載漫画を日本と同時に世界に発信!

スマホで読める漫画雑誌アプリ「少年ジャンプ+」。

その「少年ジャンプ+」などの連載作品をインターネットを通じ、多言語で海外に向かって配信するのが「MANGA Plus by SHUEISHA」で、2019年のサービス開始以来、世界各国で大きな反響を呼んでいます。


この記事では、「少年ジャンプ+」副編集長で、「MANGA Plus by SHUEISHA」などのデジタルサービスの立ち上げにも関わった籾山悠太さんにお話を伺いました。

籾山悠太さんプロフィール

籾山 悠太さん
2005年、集英社入社。週刊少年ジャンプ編集部、デジタル事業部などを経て、「少年ジャンプ+」創刊に携わる。現在、「少年ジャンプ+」副編集長。漫画編集と並行し、「ジャンプルーキー!」「MANGA Plus by SHUEISHA」などのデジタルサービス立ち上げに携わる。

日本と同時に連作作品を世界に配信

▲世界に「ジャンプ」のマンガを配信する「MANGA Plus by SHUEISHA」

改めて断りを入れるまでもなく、マンガ・アニメは国内はもちろん、広く海外で親しまれている一大コンテンツだ。

「MANGA Plus by SHUEISHA」がリリースされる以前、集英社のマンガは現地の出版社や独自の流通網を経由して世界に配信されていた。また、海賊版の「ジャンプ漫画」が広く読まれている状況も問題視されていた。


ーーこれらの背景もあり、「少年ジャンプ+」の海外版ともいえる「MANGA Plus by SHUEISHA」をリリースされたのでしょうか?

籾山さん:はい。日本のマンガの需要は以前から高かったのですが、多くの国・地域で日本と同時期に「ジャンプ」で掲載されている最新話は読めませんでした。MANGA Plus by SHUEISHAをリリースしたときにこだわったのは、「日本と同時配信」というところで、その環境が整えられたのが大きかったですね。


ーー月間アクティブユーザーは600万を超えている(2022年10月の時点)と発表されていますが、着実に読者が広がっています。

籾山さん:アクセスが増えているのはもちろん、海外のコミックスの売上増にもつながっています。海外では、アニメ化されたマンガが人気になるという流れがありましたが、MANGA Plus by SHUEISHAが始まってからは、アニメ化の有無にかかわらずアプリ上で作品が話題になり、結果的に単行本も以前より売れたことが珍しくなくなりました。

あとは、これまでは海外の読者は後追いで作品に触れていましたが、新連載の一話目から日本と同様に読めるようになり、連載を追うなかで人気になっていった作品がいくつか出たので、その点でもMANGA Plus by SHUEISHAをやってよかったと思いました。


ーー読者の接点が増えたことで、人気に火が付く順番が変わったということですね。

籾山さん:はい、連載から人気作が生み出せるようになったと。あとは海外のそれぞれの国・地域で、どの作品を単行本化するのかというミーティングをライセンスの部署の担当者が現地の出版社とするのですが、MANGA Plus by SHUEISHAで読者の反応が見られるようになったので、そうしたマーケティング的な視点からもプラスに働いています。

より面白いマンガをつくるために海外の読者へアプローチ

『SPY×FAMILY』 ©遠藤達哉/集英社

「週刊少年ジャンプ」のマンガは、作者、編集者、そして毎週発表される連載を追ってくれる読者と共に生み出されてきた。

その読者の声を拾い上げてきたのが、いわゆる「アンケート方式」で、人気マンガを発信する大きな原動力になっている。


ーーインターネットが一般的になったことで、ハガキによるアンケ―トだけではなく、読者の声が拾いやすくなりました。

籾山さん:編集部で一番大事な仕事は、新しい人気漫画を作家さんと一緒に生み出すことだと思っています。その一翼を担っていたのが「アンケート方式」です。

MANGA Plus by SHUEISHAでも閲覧数がわかる他にコメント欄があり、日本の「少年ジャンプ+」同様、自由に感想や意見が書き込めるようになっています。日本だけに留まらず、海外の読者の意見にも耳を傾け、内容をチューニングしたりするなかでより良いマンガを作っていく。全世界を対象に、その流れを作りたいというのもMANGA Plus by SHUEISHAを立ち上げた目的のひとつでした。


ーー実際に海外の読者の書き込みも、連載作品の制作の参考にされているのですか?

籾山さん:現状そこまでの活用はできていませんが、支持を集めたコメントなどに関しては日本語に翻訳し、編集部でシェアしています。また、海外での読者数、閲覧数のランキングの順位付けはしていますし、今はまだ日本がメインですが、編集会議で海外の人気を考慮する流れは増していくのではないかと個人的に思っています。

翻訳には語学力はもちろん、文化的背景への深い理解が不可欠

『チェンソーマン』 ©藤本タツキ/集英社

現在(2023年9月)、MANGA Plus by SHUEISHAでは以下の8か国の言語に対応している。

  • 英語

  • スペイン語

  • タイ語

  • インドネシア語

  • ポルトガル語

  • ロシア語

  • フランス語

  • ベトナム語

クオリティの低い翻訳だと作品の魅力が薄れてしまうので、その質を担保するのはもちろん、週刊のペースに対応できる体制づくりも不可欠だ。


ーー複数の言語で、質と速さを求め、毎週リリースしていくのは大変ではないでしょうか。

籾山さん:例えば、一人のいい翻訳家の方がいたとしても、その方が体調を崩したり、辞められたりしたらストップしてしまうので、複数のチームで取り組める体制を整える必要があります。協力していただける会社探しなど、その体制づくりがまず大変でした。


ーー今挙げられたリソースの問題のほか、具体的な翻訳作業の上で難しいと感じられる点は?

籾山さん:編集部のスタッフが直接翻訳しているわけではありませんが、比喩表現や日本語特有の複雑な表現などを、どのようにして翻訳するかというのは難しい問題だと思います。例えば、ギャグ漫画などで出てくる時事ネタも、対象となる出来事を知っていないと面白さが伝わりません。


ーー時には意訳も必要になるかと思いますが、その意味では日本と対象国の両方の言葉・文化を理解していることが重要ですね。

籾山さん:おっしゃる通りです。マンガにとってはセリフは大切な要素ですし、作者が考えた日本語の表現の意図から可能な限り外れることなく海外の人たちに届けなければなりません。そのためには翻訳のスキルはもちろん、相手の国の文化的な背景もしっかりと理解していることが重要になってきます。

MANGA Plus by SHUEISHAの今後の展望

拡充されつつあるマンガのデジタル配信について、籾山氏に今後の展望をお尋ねすると、「全世界のあらゆる言語で、日本と同時にすべてのマンガの最新話が読めるような仕組みをつくりたい」と返ってきた。


籾山さん:
僕が子どもの頃、「週刊少年ジャンプ」は毎週600万部ほど発刊されていました。買った人はもちろん、友だちとの回し読みなども含めると、例えば当時人気の連載だった『DRAGON BALL』とか『SLAM DUNK』、『幽☆遊☆白書』などは1,000万、2,000万くらいの人が毎週読んでいたと思います。

今はエンターテインメントのコンテンツが多様になったので、国内だけでそれだけの読者にアプローチをするのは難しくなってきていますが、一方でMANGA Plus by SHUEISHAのようなプラットフォームができたり、SNSの投稿で話題が広がりやすくなったりしています。その意味では、MANGA Plus by SHUEISHAを通じて世界各国の人に読んでもらえる環境は拡充していっていますので、いずれは1,000万、2,000万といった人が連載漫画を読み、アプリやSNSで感想を言いあって盛り上がる、といった状況を作り出せるようになるといいなと思っています。


ーー(ジャンプ発売日の)月曜に学校の友だちと感想を言い合うみたいな。

籾山さん:そうです。それをインターネット上で、全世界を対象にさまざまな言語で感想が飛び交うようなものを作れたら楽しいですよね。

それと、MANGA Plus by SHUEISHAに「MANGA Plus Creators」というユーザーが自由に自分の描いたマンガを投稿できるプラットフォームがあります。


ーー資料を拝見すると、マンガ投稿・公開プラットフォーム「MANGA Plus Creators by SHUEISHA」を2022年8月30日にリリースされています。

籾山さん:はい、ちょうど1年ほど経ちますが、面白い作品や才能のありそうな作家からの投稿が集まってきています。日本からの「輸出」ばかりではなく、そういった作家さんを発掘し、「少年ジャンプ+」や「MANGA Plus by SHUEISHA」で取り上げ、現地の漫画家さんからの人気マンガを生み出すことができればと。今後はそういったことにもチカラを入れていけれと思っています。

さいごに

『ダンダダン』 ©龍幸伸/集英社

2024年4月に開設する外国語学部 国際日本学科では、「英語で日本の文化を世界に発信する」ことを学びの軸の一つとしていますが、「MANGA Plus by SHUEISHA」の試みは、まさにそうしたことの実践といえるでしょう。

インタビューの最後に、籾山さんから同分野での学びに取り組もうとする高校生の皆さんへのメッセージをいただきました。


籾山さん:
フランスで開催されている「Japan Expo(ジャパン エキスポ)」をはじめ、世界で開催されているマンガ・アニメ関連のイベントに出展したり、海外の漫画・アニメファンとお話をする機会が少なからずあるのですが、みなさん日本のファンより詳しかったり、そこまで知識はなくても「もっと知りたい!」といったエネルギーがものすごくあったりして、こちらが圧倒されることが多いです。


ーー日本の文化への熱量がすごい、と。

籾山さん:はい。一方で、インターネットで情報を調べたりしても欲しい作品や情報が手に入らないこともあったわけですが、その点は「MANGA Plus by SHUEISHA」をスタートさせられてよかったですね。これまで翻訳されていなかったような作品も含め、「少年ジャンプ+」で連載している作品は日本とタイムラグなく全作品読めるようになり、海外からも数多くの反響をいただいています。

今お話したことは「MANGA Plus by SHUEISHA」の事例ですが、マンガやアニメに限らず、日本の文化に興味をもっている海外の方はたくさんいらっしゃいます。


ーーそうした海外の方に、日本の文化を発信する担い手が足りていないことも、国際日本学科開設のきっかけの一つになっています。

籾山さん:海外の方と日本の文化をつなぐ懸け橋となるような、そういった役割を担う人材の需要は今後増えていくと思います。私の場合、世界中に日本のマンガを求めている人がいて、自分が少し頑張ることによって、それが実現する。そして作品を手にして、喜んでいる読書の顔を想像するとが仕事の原動力になっていますが、それが日本だけではなく海外にも広がったことで、やりがいはより大きくなっています。

ちょっと大げさに聞こえるかもしれませんが、「世界に貢献できる」仕事かなと思いますし、マンガに限らずご自身の興味のある分野を探求し、その魅力を世界中の多くの人に届けてください。


ーー近い将来、「MANGA Plus by SHUEISHA」で発掘された海外の作家さんの作品が「ジャンプ」で発表される日を楽しみしています。本日はありがとうございました。


【国際日本学科・特設サイト】

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