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#1妄想の、続⭐️教師びんびん物語



島の徳川先生

「徳川せんせーい。電話がありましたよ!
東京の、榎本先生から。
携帯、職員室に置きっぱなしでしょ」
柿沢は、夕暮れの海岸で子供たちと遊んでいる
徳川龍之介に声をかけた。

「柿沢先生、ありがとうございます!」
そう言いながら、戻ろうとせずに子どもたちとはしゃいでいる。

やれやれ、いつもこうなんだな。徳川先生は。
何よりも子どもとの触れ合いを大切にする。
事務作業や研修は後回し。
フォローするのは柿沢の仕事だった。
2年前に突然現れた、自分と同じ歳の不思議な男。
知らぬ間に引き込まれてしまう。
なぜだろう、一緒にいると元気が出る。
東京より、30年くらい時が遅く流れる
この島の生活は彼に合っているようだった。

「榎本先生が、折り返し電話欲しいって!
何度も電話ありましたよ。
お願いしますよ」

柿川の声がようやく届いたようで、
「榎本??えのもと、、榎本!!
柿沢先生、これお願いします!」
ビーチボールを手渡すと、
龍之介が走り出した。

徳川龍之介、62歳。教師生活40年。
様々な土地で多くの出会いがあり、教師の道をまっとうしている。

徳川せんせーい、待ってー
子どもたちが追いかけてゆく。

柿沢は砂を被り、ビーチボールを抱えながら
走っていく龍之介と子供達を笑って見ている。


砂だらけで職員室に駆け込んできた龍之介は、すぐにメモを見ながら折り返した。
「榎本!どうした?!何十年ぶりだ」
「センパーイ。お元気ですか。。探しましたよ。助けてください。。」
「情けない声出すな。しっかりしろ」

青春時代を共に過ごした2人は、30代半ばから別々の道を歩く。
龍之介は教壇に立ち続けることを貫き、榎本は管理職を目指し、順調に昇進して都内の小学校の校長になっていた。
何十年も会っていなくても見ている方向は同じ。
何かあればすぐに助けにいける。
その準備は常にしていたつもりだ。

榎本の悩み

榎本英樹はもうすぐ定年を迎えるが、このまま教師生活を終わらせたくはなかった。
昨今の学校の問題は教師だった。
担任が一年と持たず、メンタルで参ってしまう先生が多い。
まず職員室の空気が良くない。
雑談も笑い声も少なく、膨大な事務作業と保護者対応に終われる中で、教師同士の関係も悪化していた。教師も生徒と同じだ。ストレスを自分のより弱いものに向けて発散しようとする。
ここ数年で、何人の若い教師が去っていっただろう。

「僕に、強いリーダーシップと度量がないからだ」

本当はずっと前から思い出していた。
「辛い時はいつでも駆けつける」
と言ってくれた龍之介の言葉を。
その言葉に縋るには、大人になり過ぎていると
躊躇っていたが、榎本は腹を括って、龍之介を探し始めた。

先輩、助けてください!
センパーイ!会いたいです。。

「榎本!」
龍之介の声を聴いた榎本は、あの頃の記憶が一気に蘇るようで、
龍之介にただ会いたくてたまらなくなった。





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