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デザイナーに知って欲しいUIコンポーネントの今

UIデザイン、画面設計する上で欠かせないものとして、UIコンポーネントが挙げられると思いますが、そのコンポーネントを選ぶ基準、選定の理由はどう決めていますか?

WebサービスやアプリケーションのUIを設計するとき、デザイナーにとってもUIコンポーネントの仕組みや、最新の技術潮流を理解しておくことは大切です。特にフロントエンドにおける現在の潮流は、UIデザインと実装の境界が以前よりも密接になってきています。

昨今、大企業は社内コミュニケーションの円滑化、生産性向上のもと、自社のデザインシステムに組み込まれたUIコンポーネント活用し、効率化を図っているケースが増えてきていますが、フルスクラッチでは作らず、既存のオープンソースなコンポーネントをオーバーラップして作成している事例が多いようです。
他方、デザインシステムを持たない中小企業や新規プロジェクトでは、UIコンポーネントの選定や実装に課題を抱えているケースも少なくありません。また、技術的な知見やリソースが限られている場合、適切なUIコンポーネントの選択と導入は依然として課題となっています。

本記事では、UIコンポーネントのテクノロジーを取り巻く現状を簡単に説明しつつ、コンポーネントライブラリを選定するポイント、さらには具体的なおすすめUIライブラリを紹介します。デザイナーの方にもわかりやすい形で解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。

WebにおけるUIの変遷とムーブメント

まず、UIの現在を知るためにはこれまでのテクノロジーの流れを簡単に確認するところから始めてみましょう。以下に書いたような変遷を経て、現代のWeb UIコンポーネント開発は大きく進化を遂げてきました。

HTML黎明期とUIコンポーネントの萌芽 (1990年代)

当初、Webは静的な文書を表示することが主目的でした。UIはHTMLの基本的なタグで構成され、<table>タグを使ったレイアウトなどが主流でした。「コンポーネント」という概念はまだ希薄で、Webページ全体が一つの大きな塊として捉えられていました。しかし、この頃から、複数のページに共通するヘッダーやフッターなどのパーツは、サーバーサイドのインクルード技術などを使って、部品化が模索され始めていました。

JavaScriptの登場と動的UI (1990年代後半 - 2000年代)

JavaScriptの登場により、Webページに動きをつけることが可能になりました。jQueryなどのライブラリを使って、DOMを直接操作し、ユーザーの操作に応じてUIを動的に変更することが一般的になりました。

2000年後半からデファクトスタンダードの地位をしめたjQuery。

しかし、この時点ではまだ、UIの構造はHTMLタグの組み合わせで表現されており、明確な「コンポーネント」という単位で管理されているわけではありませんでした。

Ajaxによる非同期通信とUIの部分更新 (2000年代)

Ajax (Asynchronous JavaScript and XML) の登場により、ページ全体をリロードすることなく、サーバーと非同期に通信し、UIの一部を更新することが可能になりました。これにより、ユーザー体験は大きく向上し、Webアプリケーションはよりインタラクティブになりました。

Google Mapsのような、リッチでレスポンシブなWebアプリケーションが登場し始め、UIの一部分だけを更新するという考え方が広まりました。

初期のGoogle Mapsの画面(引用:「初期のGoogle マップにあって、今は無くなったメニュー」が物語る、地図の使われ方の変化

SPAの台頭とフレームワークの隆盛、UIコンポーネントの明確化 (2010年代)

Single Page Application (SPA) の登場により、Webアプリケーションはデスクトップアプリケーションに近いユーザー体験を提供できるようになりました。これは、ページ遷移を伴わずに、クライアントサイドでコンテンツを動的に書き換えるアーキテクチャです。

この時期から、Backbone.js、Angular(v1はAngularJS), React, Vue.jsといった、モダンなJavaScriptフレームワークが広く使われるようになりました。これらのフレームワークは、UIを「コンポーネント」という単位で明確に定義し、複雑なUIを効率的に構築するための仕組みを提供し、開発者の生産性を大幅に向上させました。

代表的なフレームワークであるAngular, React, Vue.jsのロゴ

特に、Reactの登場は、コンポーネント指向の開発を大きく推進し、さらに仮想DOMという概念を持ち込み、UIの差分だけを効率的に更新することで、パフォーマンスを大幅に向上させ、コンポーネント指向の開発を広めました。Reactのコンポーネントは、特定の機能や見た目をカプセル化し、再利用可能な部品としてUIを構築することを可能にしました。

コンポーネントベースのUI開発の成熟 (2010年代後半 - 現在)

近年のトレンドとして、UIを独立した再利用可能な「コンポーネント」として構築する、コンポーネントベースの開発が主流となっています。Reactの成功がこの流れを加速させ、コンポーネントは、特定の機能や見た目を持ち、他のコンポーネントと組み合わせて複雑なUIを構築できるようになりました。そして、コンポーネント指向のUI開発をサポートするUIライブラリが数多く登場し、開発効率をさらに向上させています。同時に、デザインシステムの考え方が広まり、組織全体で一貫したデザイン言語とUIコンポーネントを共有し、再利用する動きが活発化しています。
また後述しますが、ヘッドレスコンポーネントという新しい考え方が登場し、UIコンポーネントのあり方に変化をもたらしています。

現在のUIコンポーネントの潮流

前段で説明しましたが、過去と比較して現代はコンポーネントベースの開発手法が標準となり、再利用可能なUIパーツを効率的に組み合わせることが可能になったことが大きな変化といえます。
その結果、今は過去と比較してデザイナーとエンジニアの協業もより緊密になってきています。これは非常にエポックメイキングなことだと考えています。
そして、現在のUI開発の潮流を理解するためには、以下のキーワードが重要です。

レンダリング方式の進化

現在のWebアプリケーションのレンダリング方法には、大別するとCSRとSSRの2種類があります(他にもSSGやISRなどもありますが今回は割愛します)。これは言葉としてどんなものか、デザイナーの方も一定理解をしておいた方が良い点です。

  • クライアントサイドレンダリング(CSR)

    • JavaScriptを用いてブラウザ上で動的にHTMLを生成する方法です。初期表示は遅くなりますが、一度読み込んでしまえば、ページ遷移やデータの更新が高速に行えます。SPAで一般的に採用されています。

  • サーバーサイドレンダリング(SSR)

    • サーバー側でHTMLを生成し、クライアントに送信する方法です。初期表示が速く、SEOにも有利ですが、サーバーへの負荷が高くなる傾向があります。Next.jsやNuxt.jsなどのフレームワークを使うことでSSRが比較的簡単に実装できます。近年はハイドレーション※といった、CSRとSSRを組み合わせた手法も登場しています。

    • ※ハイドレーション: サーバーで生成したHTMLに、ブラウザ側でJavaScriptの機能を追加すること。静的なページを動的な機能を持つものに変えるプロセス。

ヘッドレスコンポーネントの普及

ヘッドレスコンポーネントとは、ロジックと状態管理は提供するが、UI(見た目)のマークアップやスタイリングは提供しないコンポーネントのことです。これにより、デザイナーは完全に自由なデザインを適用でき、エンジニアはコンポーネントの振る舞いを簡単に利用できます。これは、デザインと実装の関心の分離を促進し、より柔軟なUI開発を可能にします。

ヘッドレスコンポーネントの進化により、以前は各UIライブラリが独自のデザインシステムやスタイリングを提供し、それぞれに特徴的な見た目や機能を持っていましたが、現在ではコンポーネント自身が独自の意匠や個性を持つことを辞めています。
この傾向は、UIライブラリの選定において、見た目や基本機能以外の要素(開発者体験、コミュニティの活発さ、ドキュメントの質など)がより重要な判断基準となってきていることを示しています。

なぜヘッドレスコンポーネントなのか?
表層とロジックの分離への強いニーズ:従来のUIライブラリではデザインとロジックが密接に結びついており、デザインのカスタマイズ性に限界がありました。ヘッドレスコンポーネントは、この課題を解決し、デザインとロジックの分離を実現します。
パフォーマンスとアクセシビリティの最適化:ヘッドレスコンポーネントは、必要最小限のコードで実装できるため、パフォーマンスの最適化が容易です。また、適切なHTML構造とARIAの実装により、アクセシビリティへの配慮も自然に行えます。

UIライブラリの選定基準

UIライブラリを選定する際には、以下の点を考慮する必要があります。

  • 機能の充足度

  • パフォーマンス

  • アクセシビリティ

  • ドキュメントとコミュニティの成熟度

  • 各デバイスへの対応度

  • デザインとの親和性

  • 技術スタックとの互換性

さらに、UIライブラリの選定には、利用ケースやプロジェクトの特性を十分に考慮する必要があります。

  • 組織規模による選定: 大規模組織では堅牢性とサポート体制が整ったライブラリが必要ですが、小規模プロジェクトでは軽量で導入が容易なライブラリが適している場合があります。

  • サービスの性質による選定: ECサイトではパフォーマンスとSEOが重要視されるため、SSR対応のライブラリが望ましい一方、管理画面では機能性と開発効率を重視したライブラリが適しています。

  • プロジェクトのライフサイクル: 長期的なメンテナンスが必要なプロジェクトでは、安定性とコミュニティの活発さが重要な選定基準となります。

このように、UIライブラリを選定する際には、見た目だけで判断するのは避けるべきです。デザインの設計しやすさや審美性の高さだけでなく、機能性やパフォーマンス、開発効率、アクセシビリティ、さらにプロジェクトの技術スタックとの適合性など、さまざまな観点から総合的に評価することが重要です。

おすすめUIコンポーネントライブラリ5選

ここまでの情報を踏まえ、現在注目を集めている主要なUIコンポーネントライブラリを紹介します。これらは、先ほど説明した選定基準を満たし、多くのプロジェクトで採用されている実績のあるライブラリです。それぞれの特徴と利点を見ていきましょう。

1. Radix UI

Radix UIは、ヘッドレスコンポーネントの代表的な存在です。スタイリングを完全に分離しながら、アクセシビリティと使いやすさを重視した設計が特徴です。特に、モーダル、ドロップダウン、タブなどの複雑なインタラクションを持つコンポーネントにおいて、堅牢な実装を提供しています。

2. shadcn/ui

shadcn/uiは、Radix UIをベースに構築された比較的新しいUIライブラリです。AIによるUI生成ツール「v0」などにも利用されているので、デザイナーでもみたことがある方は多いのではないでしょうか。
shadcn/uiの特徴の一つとして、必要なコンポーネントをCLIコマンドで個別にインストールする方式を早くから採用している点です。例えば、これにより、開発者は必要なコンポーネントだけを選んで利用でき、プロジェクトのニーズに合わせて柔軟にカスタマイズすることができます。

3. Headless UI

Headless UIは、Tailwind CSSの開発元であるTailwind Labsが提供するヘッドレスコンポーネントライブラリです。コンポーネントの数は多くないですが、React、Vue、Alpine.jsなど複数のフレームワークに対応しており、基本的なUIコンポーネントを提供しています。特にアクセシビリティとキーボード操作への配慮が行き届いており、堅牢なインタラクションを実現できます。

4. Base UI

Base UIは、Material UI、Radix、Floating UIの開発者の方々が新たに開発しているヘッドレスコンポーネントライブラリです。Material Designの原則に基づきながらも、スタイリングの自由度が高く、独自のデザインシステムを構築する際の基盤として最適です。
特に、フォーム要素やモーダル、ポップオーバーなどの複雑なインタラクションを持つコンポーネントが充実しており、エンタープライズアプリケーションの開発に適しています。

5. Chakra UI

Chakra UIは、React向けの人気の高いUIコンポーネントライブラリで、歴史も長い安定したコンポーネントライブラリです。アクセシビリティとカスタマイズ性に優れ、直感的なAPIと豊富なコンポーネントセットを提供しています。
202412月に登場したChakra UI v3では、ヘッドレス ライブラリである Ark UI と Panda CSS のスタイリング API を組み合わせ、Park UI をデザイン システムとして使用することで、ツールのエコシステムを統合、進化しました。shadcn/uiの影響を受けてCLIをつかった簡単なセットアップも可能にもなり、モダンなWeb開発のニーズにより適した進化を遂げています。

これからのデザイナーに求められる知識・考え方

UIコンポーネントを取り巻く技術環境の変化に伴い、デザイナーに求められる資質や考え方も進化しています。以下に重要なポイントをまとめます。

  • 技術的な理解力

    • CSR、SSR、Headless UIなどの基本的な技術概念を理解し、エンジニアとの効果的なコミュニケーション能力

  • コンポーネント思考

    • 個別の画面単位ではなく、再利用可能なコンポーネントという視点でデザインを考える能力

  • システマティックな設計

    • デザインシステムを意識し、一貫性のある効率的なデザインを作成できる思考

  • アクセシビリティへの理解

    • 技術的な実装も含めて、包括的なアクセシビリティを考慮したデザインができること

  • パフォーマンスへの配慮

    • デザインの決定がアプリケーションのパフォーマンスに与える影響を理解し、適切に判断できること

これらの資質は、従来のデザインのスキルに加えて、より技術的な理解と実装を意識した思考が求められることを示しています。
開発に入るデザイナーは特にですが、審美性と機能性のバランスを取りながら、開発の複雑な要件に一定対応できる必要があります。

おわりに

デザイナーが知っておくべきUIコンポーネントの最新トレンドについて解説しました。技術的な理解を深めることは、エンジニアとの効果的なコラボレーションを実現する上で不可欠です。コンポーネントベースの開発、レンダリング方式の違いやヘッドレスコンポーネント…といったキーワードは、今後のUI開発において、一定重要になっていくでしょう。デザイナーがこれらの技術的な概念を理解することで、より実現可能性の高い、効率的なデザインを提案することができます。

デザイナーとエンジニアがこれらの技術トレンドを共有し、協力することで、より良いプロダクトを生み出すことができると信じています。この記事が、その一助となれば幸いです。

さらに深く学びたいあなたへ

現在、MENTAにて、プロダクトデザイナー・UIデザイナー向けの個別メンタリングを提供しています。フロントエンド技術のキャッチアップ、デザインとエンジニアリングの連携強化、デザインシステムの構築など、より実践的な内容についてのサポートや相談も可能です。ご興味のある方はお気軽にご相談ください。


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