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デザイナーにできる、実践的な利益貢献の方法
組織においてデザイナーへの期待は、プロダクトデザインや、コミュニケーションのためのデザイン作成だけではありません。役職や役割が上がるにつれて、デザインの質はもちろんのこと、ビジネスへの貢献、すなわち組織の利益に貢献することが求められます。
しかし、日々のデザイン業務に追われながら、マネジメントやコスト管理まで意識するのは容易ではありません。ともすれば、コスト効率の悪いツール利用や、最適化されていないデザインプロセスが放置され、結果として組織に損失をもたらすリスクも潜在しています。
今回は、デザイナーが効果的に組織の利益に貢献できる具体的な方法を解説します。特にコスト削減、フロー効率化、そしてビジネス視点の獲得という3つの観点から、すぐに実践できる利益貢献の方法と、与えるインパクトの計算式も紹介します。
コスト削減 - SaaSアカウントの最適化から始める
企業におけるSaaS利用は、今や当たり前の光景です。例えばデザインツールとしてFigmaを導入している企業も多いでしょう。Figmaは、その共同編集機能やプロトタイピング機能により、デザイナーだけでなく、プロダクトマネージャー、エンジニア、マーケターなど、多くの職種で活用されています。
しかし、利用が広がるにつれて、アカウント管理の課題が顕在化しがちです。「退職者のアカウントが放置されたまま」「使われていない有料アカウントが複数存在する」といった状況は珍しくありません。
これらの状況は、SaaSの無駄なコストに直結し、組織の利益を圧迫します。
アカウント棚卸しと最適化
コスト削減の第一歩は、アカウントの棚卸しです。Figmaに管理者権限アカウントでログインし、ユーザーリストを洗い出すことから始めましょう。CSVエクスポート機能を活用し、スプレッドシートやNotionなどのツールにリスト化すると、より効率的に管理できます。
次に、洗い出したユーザーリストをもとに、利用状況のチェックを行います。確認すべき項目は、主に以下の通りです。
最終ログイン日: 長期間ログインしていないアカウントは、不要アカウントの可能性が高いです。
デザインファイルの所有状況: ファイル所有者がいないアカウントや、ファイルが少ないアカウントも、利用頻度が低い可能性があります。
ロール(権限): 閲覧権限のみで編集権限が不要なアカウント、またはその逆も存在しえます。
これらの情報を基に、不要なアカウントを特定します。
削除対象アカウント: 退職者のアカウント、数ヶ月以上ログインがないアカウント、一時的なプロジェクト用で不要になったアカウントなどが該当します。
ダウングレード検討アカウント: 利用頻度が低いアカウント、閲覧権限のみで十分なアカウントは、無料プランへの変更を検討します。
不要アカウントの特定と処理が完了したら、運用ルールの策定を行いましょう。例えば、以下のようなルールが考えられます。
一定期間ログインのないアカウントは自動的にフリーアカウントへ変更
決められた期間ごとに利用ユーザーの確認
入社・退職時のアカウント発行・削除プロセスの明確化
これらのルールを組織全体で共有し、遵守することで、継続的なアカウント管理が可能となり、無駄なコストの発生を抑制できます。
コスト削減効果と更なる展開
SaaSアカウント、特にFigmaのようなクリエイティブツールの多くは、ユーザー単価が高額です。そのため、不要なアカウントを削減するだけでも、短期的かつ大きなコスト削減効果が期待できます。
「アカウント管理に時間を取られて、デザイン業務がおろそかになるのでは?」という懸念はもっともですが、初期の調査とルール策定、自動化に注力すれば、その後の運用は自動化やチェックリスト化により、工数を最小限に抑えられます。
アカウント管理の最適化は人が増えるほど効果が大きいです。 「必要な時に、必要なメンバーに、最適なプランを提供する組織」を実現し、組織の利益に貢献するための第一歩となるでしょう。
インパクト計算
アカウント管理の最適化による利益貢献は、以下の計算式で概算できます:
インパクト = (削減アカウント数 × アカウント月額費用 × 12ヶ月)
+ (アカウント管理工数削減時間 × 人件費(時給換算) × 12ヶ月)
例えば、10アカウントを削減(月額2,000円/アカウント)、アカウント管理工数が月10時間から2時間に削減、時給換算5,000円の場合:
(10アカウント × 2,000円 × 12ヶ月)
+ ((10時間 - 2時間) × 5,000円 × 12ヶ月)
= 240,000円 + 480,000円
= 720,000円
このように、年間で約72万円のコスト削減効果が見込めます。さらに、アカウント管理の効率化による業務時間の有効活用効果も加味すると、より大きな効果が期待できます。
参考記事
FigmaなどのSaaSは便利な反面、アカウントの権限理解や管理を怠ると課金が多く発生してしまいます。そのため、各社各人がさまざまな記事でナレッジを公開していますので、ぜひ一読してみてください。
フロー効率化 - スループットを最大化する
開発プロセスが非効率であれば、プロジェクト全体の遅延や手戻りを引き起こし、結果として組織の損失に繋がります。デザインフローの最適化は、スループットを向上させ、組織の利益に貢献するための近道です。
デザインレビューの再設計
デザインレビューは、デザインの品質を高めるために不可欠なプロセスですが、レビュー回数の増加は、デザイナーとレビュー担当者双方の負担を増大させます。
多段階の承認プロセスが必要な組織では、レビューの目的を明確化しましょう。例えば、
情報設計レビュー
コンセプトの方向性、UIの基本構造の確認
モックアップレビュー
UIディテールの詰め、インタラクションの精緻化
実装レビュー:
実装準備、アクセシビリティ、パフォーマンス観点でのチェック
レビューの目的を段階ごとに定義することで、レビュー担当者はレビューポイントを絞りやすくなり、レビュー時間の短縮に繋がります。また、デザイナーもレビューの意図を理解しやすくなるため、手戻りを減らす効果も期待できます。
意思決定プロセスの明確化
デザインフローにおけるボトルネックの一つに、意思決定の遅延があります。「誰が最終決定者なのか」「誰にフィードバックを求めるべきか」が不明確な状態は、不要なコミュニケーションコストを生み出し、プロジェクトを停滞させます。
役割と責任範囲を明確化し、チーム全体に共有することで、スムーズな意思決定を促しましょう。例えば、以下のようなロールは意識ておくと良いでしょう
承認者: レビューを持ち込む人、または全体の責任者
フィードバック担当者: 各専門分野の担当者(マーケティング担当、エンジニアリング担当など)
これらのロールを組織で明確にすることで、必要以上の調整や待ち時間を削減できます。また、デザインの品質向上にも繋がり、手戻りも減少します。
インパクト計算
デザインフローの効率化による利益貢献は、以下の計算式で概算できます:
インパクト = (改善後の1レビューあたり所要時間 - 改善前の1レビューあたり所要時間)
× 年間レビュー回数 × 参加者数 × 人件費(時給換算)
例えば、レビュープロセスの最適化により1回あたりの所要時間が2時間から1時間に短縮され、年間100回のレビュー、平均5名が参加、時給換算5,000円の場合:
(1時間 - 2時間) × 100回 × 5名 × 5,000円 = -250万円
このように、年間で約250万円の工数削減効果が見込めます。さらに、意思決定の迅速化による開発スピードの向上効果も加味すると、より大きな効果が期待できます。
参考記事
例えばデザインレビューは、各社ナレッジを公開されているケースが多いです。ここに書いたレビュー方法では当てはまらないケースもあると思いますので、各社のナレッジを参考に、最適化したフローを構築してみましょう。
スキル向上 - 学習環境の整備と能力向上
少し負荷の高い施策なりますが、組織全体のデザイン能力向上は、長期的な利益貢献に繋がります。メンバーのスキルアップは、より高品質なデザイン、より短い納期でのデザイン提供を可能にし、結果として組織全体の生産性向上に貢献します。
たとえばインハウス勉強会の定期開催は、有効な手段の一つです。社内のデザイナーが講師となりトレンド、ツール活用Tips、デザイン事例などを共有することで、組織全体のスキル底上げを図れます。外部セミナーへの参加は高額な費用がかかる場合もありますが、社内勉強会であれば、低コストで、かつ組織に必要な情報をピンポイントに共有できます。
また、デザインガイドラインやUIコンポーネントライブラリの定期的な見直しとアップデートも重要です。これらを整備・運用することで、デザインの一貫性と品質を担保できます。開発者への共有と保守を視野に入れることで、デザインから実装までの一連のワークフロー全体での効率と品質向上に繋がります。
インパクト計算
学習環境整備による利益貢献は、以下の計算式で概算できます。
インパクト = (改善後の1タスクあたり所要時間 - 改善前の1タスクあたり所要時間)
× 年間タスク数 × チームメンバー数 × 人件費(時給換算)
例えば、UIコンポーネントライブラリの整備により1タスクあたりの所要時間が2時間から1.5時間に短縮され、年間200タスク、チームメンバー10名、時給換算5,000円の場合…
(1.5時間 - 2時間) × 200タスク × 10名 × 5,000円 = -500万円
このように、年間で約500万円の工数削減効果が見込めます。さらに、品質向上による手戻り削減効果も加味すると、より大きな効果が期待できます。
おわりに
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本稿では、デザイナーがすぐ始められる組織の利益に貢献するための3つの方法とインパクトを紹介しましました。
今回紹介した利益貢献施策のポイントは、社員一人一人がコストと、組織にもたらすインパクトを数値化して考えることで、自身の行動や意思決定がビジネスにも影響を与えることができる、という点です。この視点を持つことで、より効果的な改善策を見出し、組織全体の生産性向上に貢献することができるでしょう。
あまり意識できていないな、と思われた方はぜひ声をあげて実践してみてください。
利益貢献の方法にお悩みの方
デザイナーの利益貢献について、具体的な悩みや課題をお持ちの方はお気軽にXのDMまでご相談ください。具体的な計測方法や、組織での実践方法についてアドバイスも可能です。
また、個人としてより深い課題解決や、継続的なサポートをご希望の方は、MENTAでのデザイナー向けメンターグプランをご検討ください。組織での利益貢献に向けて、あなたに合った最適な方法を一緒に見つけていきましょう。