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第2回:エキセントリック収縮とトレーニング効果
はじめに
筋肉痛(DOMS)が起こりやすい動作としてよく挙げられるのが、エキセントリック収縮を多く含む種目です。スクワットやデッドリフトなどで、重力に逆らって“ゆっくり下ろす”局面にフォーカスしたときに感じる張りや疲労感は、多くのトレーニーが体験していることでしょう。
本稿では、まず「エキセントリック収縮」そのものがどのような局面を指すのかを再確認し、そのメカニズムがなぜ筋肉痛や筋力向上に関わるのかを掘り下げます。さらに、エキセントリック局面を活かしたプログラム設計のヒントとして、サルコメアポッピングやZラインの変性、そしてRepeated-Bout Effectという重要な概念を解説していきます。
1.エキセントリック収縮とは何か
エキセントリック収縮の定義
一般的に「筋肉が収縮している状態で、外部からの負荷によってゆっくりと引き伸ばされていく動き」をエキセントリック収縮と呼びます。
例:スクワットの“下ろす”局面、ベンチプレスの“バーベルを胸に下ろす”局面など。
筋肉が短くなる「コンセントリック収縮」と対比される。
エキセントリック収縮の特徴
高い張力を生む:同じ負荷量でも、コンセントリック局面よりもエキセントリック局面のほうが筋線維には大きな張力がかかる。
筋肉痛との関連:DOMSが起こりやすい原因のひとつとされる。これはエキセントリック動作が、筋線維を微細に損傷しやすい特性を持つため。
コラム:負荷を「下ろす」ことの重要性
トレーニング初心者や忙しい人の中には、「とにかく挙げる動作(コンセントリック)だけ意識して、下ろすときは“スッと”力を抜く」ケースがあります。実は、下ろす動作を丁寧に行うだけでも効率的な筋力刺激を得られることを覚えておくと、トレーニング全体の質が向上します。
2.サルコメアポッピングとZラインの変性
サルコメアポッピング
筋肉を構成する最小単位であるサルコメアが、エキセントリック収縮時に過度に引き伸ばされることで“弾ける”イメージを指す仮説。
このとき起こる微細な損傷が、DOMSの主な要因となると考えられています。
Zラインの変性
筋線維を顕微鏡レベルで観察すると、Zラインが波打ったり不規則に崩れたりする現象が見られます。
これはエキセントリック局面で大きな力がかかるためと推測されており、やはりDOMSや筋力向上のプロセスと深く関わっています。
こうした微細損傷は、一見すると「筋肉を傷つける悪いこと」のように捉えられがちですが、実際にはその修復過程が筋肥大や筋力アップに寄与する要素ともなります。
3.Repeated-Bout Effect(反復効果)の活用
Repeated-Bout Effect(RBE)
同じエキセントリック刺激を繰り返し受けているうちに、筋線維が“慣れ”や“適応”を示す現象を指します。
結果として、同じ種目・同じ負荷でも以前ほど筋肉痛が起こりにくくなる、あるいは筋疲労が軽減されるというメリットが得られます。
RBEをトレーニングに組み込むアイデア
段階的な負荷設定:最初はやや軽い重量・低ボリュームでエキセントリック動作を試し、数週間かけて徐々に負荷や回数を増やす。
新種目導入時の注意:新たに取り入れるエキセントリック種目では、強いDOMSが出やすい。始めはボリュームを抑え、RBEによる順応を待ちながら適宜増やす。
プログラムへの周期的組み込み:コンセントリック中心の期間とエキセントリック中心の期間を分ける、または週ごとにエキセントリック種目を変化させるなど、周期化(ピリオダイゼーション)の一環として活用する。
4.まとめと次回予告
エキセントリック収縮は、DOMSの原因となる微細損傷を引き起こしやすい半面、その適度なダメージが筋力向上や筋肥大をもたらす大事な契機にもなります。ポイントは「高負荷・ゆっくりとした下ろし動作」を効果的に取り入れる一方で、無理をしすぎず段階的に慣らしていくこと。Repeated-Bout Effectを理解し、負荷を少しずつ上げながら長期的にプログラムを組み立てれば、DOMSを上手にコントロールしながら成長を実感できるはずです。
次回は「栄養と筋肉痛」をテーマに、タンパク質やアミノ酸をはじめとする栄養アプローチについて詳しく解説します。
脚注
サルコメアポッピング:筋線維の構造単位であるサルコメアが、過度の伸張ストレスによって“弾ける”ように微細損傷を起こす現象を示唆した仮説。
Zライン:筋線維のサルコメア同士を仕切る境界線。エキセントリック収縮の大きな張力によって変性することが、遅発性筋肉痛のメカニズムの一つとされる。
Repeated-Bout Effect(RBE):同種の運動を繰り返すうちに、同一強度の刺激に対して筋肉痛や筋疲労が軽減される生理学的現象。
参考文献
Proske U, Morgan DL. “Muscle damage from eccentric exercise: mechanism, mechanical signs, adaptation and clinical applications.” The Journal of Physiology, 2001.
Schoenfeld BJ. “The Mechanisms of Muscle Hypertrophy and Their Application to Resistance Training.” Journal of Strength and Conditioning Research, 2010.