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【第8章】アマンのマーケティング戦略と顧客像


アマンは、世界有数の超富裕層やセレブリティから絶大な支持を得る一方、一般的な広告や派手な宣伝をほとんど行わないことで知られています。にもかかわらず、「アマンジャンキー」と呼ばれる熱心なリピーターを世界中に抱え、比類なきブランド認知を獲得しているのです。本章では、アマンがどのようなマーケティング戦略で顧客を惹きつけているのか、またどのような特徴を持つ顧客層がブランドを支えているのかを解明していきます。


1. 広告をしないブランド戦略:静かなる存在感

1-1 “秘匿性”を保つための非大衆的アプローチ

  • 大規模な広告キャンペーンは行わない

    • アマンは雑誌やテレビCMといったマスメディアへの露出を極端に控えています。多くの高級ホテルチェーンが華やかなプロモーションを展開する中、“見つかりにくさ”こそがアマンの希少性を高める重要な要素となっています。

  • プレスリリースやメディア取材も限定的

    • リゾート開業時など、必要最低限の情報発信は行いますが、詳しい客室数や価格情報を積極的に公開することは少ないです。結果として「アマンがどこにあるのかよくわからない」というミステリアスな魅力を醸成しています。

1-2 口コミとパーソナル・ネットワークの活用

  • セレブリティ&富裕層の“口伝え”が最大の武器

    • 開業当初からアマンは、オーナーや投資家の個人的なネットワークを通じて、著名人や富裕層を招待。彼らの満足度が口コミを通じて拡散され、高いブランド価値が確立されていきました。

  • SNS時代との相性

    • 近年はInstagramなどを利用して、ゲスト自身がアマンでの体験を発信するケースが増えています。アマン側は公式アカウントでの派手な宣伝は行わず、ゲストの高品質な写真や動画が自然に拡散されるのを待つスタンスを取っています。

1-3 “Shhh Marketing”という独自手法

  • 招待状ベースのクローズドイベント

    • アマンは新規リゾートの内覧会やオープニングイベントを、ごく一部のVIPや業界関係者のみに招待する形で行います。これを“Shhh(シーッ)Marketing”と呼び、あえて表立ったプロモーションをせずに“秘匿性”を演出するのが特徴です。

  • プライベートプレイスへの憧れを巧みにくすぐる

    • このような手法により、富裕層コミュニティの中で「アマンに行ったことがある人は、一種の選ばれし者」というステータス感が強まります。


2. 主要顧客層:超富裕層×アマンジャンキー

2-1 超富裕層マーケットの取り込み

  • ターゲット:世界のトップ1%前後

    • 1泊10〜30万円以上という価格帯は、一般の旅行者にとっては高嶺の花です。アマンは当初から「絞り込んだ富裕層」に向けて、“私的邸宅”のようにくつろげる空間を提供する戦略を取りました。

  • IT長者・新興国富裕層の台頭

    • シリコンバレーの起業家、金融セクターのエグゼクティブなど、伝統的な富裕層とは異なる若い世代がリゾートに集まるようになりました。

2-2 リピーターを生む“アマンジャンキー”現象

  • アマンジャンキーとは?

    • 年間に複数のアマンを巡り、世界各地のリゾートを“コレクション”するように滞在するリピーターを指す俗称。宿泊履歴を競い合うコミュニティが存在し、SNS上で「#amanjunkies」のハッシュタグが飛び交います。

  • コミュニティ形成と貸切イベント

    • アマンジャンキー同士は、貸切ウエディングや特別催事を通じてつながり、“プライベートクラブ”のような関係を育む。

2-3 有名人・著名投資家の利用

  • セレブリティへのアプローチ

    • ハリウッド俳優、スポーツ選手、アーティストなどの滞在が噂され、著名投資家や大企業のオーナーがリラックス目的で訪れることも。

  • 著名人の結婚式やパーティー

    • アマンヴェニスでのジョージ・クルーニー挙式、アマンヤラでのレオナルド・ディカプリオ誕生日会など、世界的ニュースになるイベントの開催地となることで、一気にブランドイメージが高まる。


3. 価格×ブランディング:高価格が生み出す特別感

3-1 高価格であることの意味

  • 富裕層にとっての“バリア”として機能

    • 高価格に設定することで、一般客を寄せ付けない“排他性”を維持。

  • 圧倒的な品質への信頼

    • 高価格=一流スタッフや高級素材をふんだんに使えるため、サービス・インテリアの質を維持可能。

3-2 付加価値と体験のカスタマイズ

  • パーソナライズされたサービス

    • 予約時にスタッフがゲストの好みを徹底的にヒアリングし、オーダーメイドの滞在体験を提供。

  • プライベートアクセスの魅力

    • アマンプロのようにプライベート機でしかアクセスできない島もあり、それ自体が富裕層にとってのステータス要因となる。


4. デジタル時代のブランディング戦略

4-1 SNSの二次利用

  • 公式発信は最小限、ゲスト投稿を最大化

  • インフルエンサーとのコラボ

4-2 オンライン予約とプライベートコンシェルジュ

  • 秘密の“マイページ”機能

  • レジデンスオーナー向け専用イベントの案内


5. 将来の展望:ブランド多角化と希少性の維持

5-1 レジデンス事業・新ブランド“ジャヌ”との相乗効果

  • アマンレジデンス:富裕層の日常を囲い込む

  • ジャヌ(Janu)のローンチ

5-2 拡大とブランド希釈化リスク

  • 競争激化の中での希少性維持

  • 出店ペースを厳選しながら慎重に展開


次回予告

第9章:「アマンの体験 — ウェルネス、食文化、アクティビティ」
アマンの宿泊料金を支える“ほかでは味わえない体験”。スパや各種リトリート、ローカルな食文化や伝統行事、アクティビティの多彩さがゲストの満足度をより高めています。次章では、アマンならではの“体験設計”にフォーカスし、ゲストが滞在中にどのような“特別な時間”を過ごしているのかをご紹介します。

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