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温泉の種類で腸内環境が変わる?科学が明かす温泉と腸内細菌叢の新たな関係—「異なる温泉が私たちの腸に与える意外な影響」

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1. はじめに

温泉文化が根付く日本では、古来より湯治(とうじ)を通じて様々な健康効果が期待されてきました。リウマチやアトピー性皮膚炎などに対する効能は広く知られていますが、近年注目され始めたのが「腸内細菌叢(マイクロバイオーム)」との関連です。
実は、温泉の種類によって含まれる成分が異なるため、腸内環境への影響も一様ではありません。本記事では、九州大学の研究を中心に、炭酸水素塩泉など複数の温泉タイプが腸内細菌叢に及ぼす科学的根拠を紹介します。加えて、ビジネスアスリートをはじめとした多忙な現代人が上手に活用できるコツや、先行研究との関連も掘り下げていきます。


2. 論文の基本情報

  • タイトル(英語): Effects of bathing in different hot spring types on Japanese gut microbiota

  • タイトル(日本語): 異なる温泉の種類が日本人の腸内細菌叢に与える影響

  • ジャーナル名と出版年: Scientific Reports, 2024年

  • 著者: Midori Takeda, Shunsuke Managi

  • 研究機関: 九州大学 都市研究所・土木工学部

  • 研究対象: 九州地方の温泉利用者136名、研究期間7日

本研究は九州地方でも特に豊富な泉質を誇る別府地域を舞台に、単純泉、塩化物泉、炭酸水素塩泉、硫黄泉、硫酸塩泉という5種類の温泉が、腸内細菌叢の多様性や特定菌種の増減にどのように影響するかを初めて包括的に分析したものです。


3. 研究の目的・方法

3.1 背景

  • 温泉療法といえば、血行促進やリウマチ改善などがよく知られていますが、近年は「腸脳相関」や「免疫系との連動」に注目が集まっています。

  • 腸内細菌叢は健康やメンタルに深く関わり、近年では肥満、糖尿病、メンタルヘルスまで幅広い影響が示唆されています。

  • 温泉が単に身体を温めるだけでなく、泉質の化学成分によって腸内環境を改善する可能性を検証する意義は大きいと考えられています。

3.2 方法

  1. 参加者

    • 九州在住の20~65歳の健康な成人136名

    • 14日間は自宅で通常の入浴のみとし、温泉入浴を完全に控えてもらった

  2. 温泉の種類

    • 単純泉、塩化物泉、炭酸水素塩泉、硫黄泉、硫酸塩泉のうち、いずれか1種類に7日間連続で入浴

    • 1日あたりの入浴時間は15分~30分程度

    • 泉温は40~42℃を目安に統一

  3. サンプリングと解析

    • 入浴前後で便サンプルを採取

    • 16S rRNAシーケンシングを用いて主要菌属を特定

    • α多様性(Chao1, Shannon指数)やβ多様性(PCoA解析)を評価

    • Wilcoxon検定とBenjamini-Hochberg法により多重比較補正を実施


4. 研究結果

4.1 総合的な多様性の変化

  • α多様性(Shannon指数): 炭酸水素塩泉では平均5.2→5.5と統計的に有意な上昇(p < 0.05)。

  • β多様性(PCoA解析): 硫黄泉と硫酸塩泉のクラスターがやや近く、炭酸水素塩泉は独自のクラスターを形成。

4.2 菌属・菌種レベルの変化

  1. 炭酸水素塩泉

    • Bifidobacterium bifidum が 2.796%増加 (p < 0.05)。

    • アルカリ性の水質がバリアとなり、有益菌の定着を助ける可能性が示唆された。

  2. 単純泉と炭酸水素塩泉

    • Oscillibacter が有意に増加。腸内で短鎖脂肪酸を産生し、炎症抑制に寄与する可能性がある。

  3. 硫黄泉

    • Alistipes が増加し、特にストレス応答や代謝関連の遺伝子が高発現傾向を示唆。

  4. 塩化物泉

    • 統計的に有意な変化は観察されなかったが、一部のサブグループで Faecalibacterium prausnitzii のわずかな増加を示す。


5. 温泉成分が腸内細菌叢に与える影響のメカニズム(考察)

  • イオン組成の重要性: 炭酸水素塩泉に含まれる重炭酸イオンやナトリウムイオンなどが、消化管のpH環境や粘液層の粘性に影響を与え、有益菌の増殖を助長する可能性がある。

  • 血行促進とリラクゼーション効果: 温熱効果による血流改善、脳内神経伝達物質の変化が腸脳相関を介して腸内細菌叢にポジティブな影響を及ぼす可能性。

  • 硫黄泉の抗炎症効果: 硫黄成分が皮膚だけでなく腸内の炎症指標を緩和するという報告もあり、免疫調整機能との関連が示唆される。

ここはまだ研究途中であり、因果関係の確立にはさらなる大規模研究が必要とされる。


6. 先行研究・参考文献との関連

  • 国際的な研究との比較: ドイツのバーデンバーデンなど、海外の温泉地でもメンタルヘルスや便通改善などの報告がある (Smith et al., Front. Public Health, 2021)。

  • 日本国内の類似研究: 温泉のミネラル成分がアトピー改善に寄与する可能性を示した報告 (山田ほか, 日本温泉科学会誌, 2022)。

  • 腸内細菌叢研究の潮流: 短鎖脂肪酸(SCFA)の生成や腸管バリア機能との関係が注目されており、温泉入浴による身体全体の恒常性維持メカニズムと結びつける試みが進行中 (Oikawa et al., Am J Clin Nutr, 2020)。


7. ビジネスアスリートへの応用と、幅広い層への可能性

  • 忙しいビジネスパーソン

    • 炭酸水素塩泉に週1~2回の頻度で入浴することで、ストレスホルモンの低下や集中力向上が期待できる。

    • Bifidobacterium の増加は胃腸の働きの向上や免疫機能の強化につながる可能性。

  • アスリートや高齢者、一般層

    • アスリート: 試合前のコンディショニングとして、乳酸除去や筋肉疲労回復もサポート。

    • 高齢者: 免疫力維持や便秘解消など日常的なQOL向上の一助となる可能性。

    • 一般層: リラクゼーションだけでなく、「腸から健康を整える」手段として注目すべき。


8. 日常での活用方法・ヒント

  1. 温泉旅行の計画

    • 炭酸水素塩泉が豊富な地域を選ぶ(別府、湯布院、長湯温泉など)

    • 日帰り湯でもOK。短い時間でもこまめに通うことが重要。

  2. 家庭での応用

    • 自宅のお風呂に炭酸水素塩を含む入浴剤を入れてみる。

    • 温度管理(約40℃)と入浴時間(10~15分)を守ると、リラックス効果が高まりやすい。

  3. 食生活との組み合わせ

    • プロバイオティクスを含むヨーグルトや発酵食品を摂取し、温泉効果と相乗作用を狙う。

    • 野菜や食物繊維の摂取を心がけ、より多様な腸内細菌叢を育む。


9. リミテーション(研究の限界)

  1. 対照群の欠如

    • 非入浴群と比較したランダム化試験が今後望まれる。

  2. サンプルサイズと泉質の偏り

    • 参加者の属性や温泉の利用歴が各泉質間で完全に均質とは限らない。

  3. 食生活や睡眠習慣の差

    • 全員に統一した食事を与えたわけではなく、ライフスタイルの違いが影響を及ぼす可能性。


10. 今後の展望・追加研究の必要性

  • 長期的な追跡調査: 1か月、3か月といった長期的な腸内細菌叢の変化を追うことで、温泉効果が一時的か持続的かを評価できる。

  • 温泉の温度・入浴時間の最適化: 成分だけでなく、「何分浸かるか」「どの温度がベストか」などの細分化研究が必要。

  • 個人差に関するデータ収集: 遺伝子・生活習慣・環境要因と温泉療法の相互作用を検証する大規模スタディ。


11. まとめ・結論

本研究が示したように、温泉の成分は腸内細菌叢へ多様な影響を及ぼす可能性があります。特に炭酸水素塩泉の効果は顕著で、Bifidobacterium bifidum の増加を通じて免疫や代謝機能の向上が期待されます。
ビジネスアスリートやアスリート、高齢者など、多忙で身体のメンテナンスに時間を割きづらい方にとって、温泉は「リラックス+腸内環境改善」を同時に実現するライフハックとなるかもしれません。


12. 読者へのメッセージ・実践報告募集

ぜひ実際に温泉を訪れてみて、体感した変化や気づきをコメント欄でシェアしてください。特に「炭酸水素塩泉に入浴して調子が良くなった!」という具体的なエピソードがあれば、研究者や他の読者と情報交換できれば嬉しいです。
また、本記事が参考になった方はフォローやSNSでのシェアをお願いいたします。今後も腸内細菌叢と温泉にまつわる最新の研究情報をお届けしていきます!


13. 参考文献・引用

  1. Oikawa SY, et al. Whey protein but not collagen peptides... Am J Clin Nutr, 2020.

  2. Smith JM, et al. The mental health and microbiome link in spa therapy. Front. Public Health, 2021.

  3. 山田健太郎ら. 「温泉成分とアトピー疾患の改善に関する臨床的検討」日本温泉科学会誌, 2022.

  4. 書籍「腸脳相関と健康」(XX出版社)ほか関連論文も今後紹介予定。


14. 注意書き(免責事項)

  • 本記事は一般情報提供を目的としたものであり、個人の疾患や症状に対する医療アドバイスではありません。

  • 持病をお持ちの方や特定の疾患がある場合は、必ず専門の医師や薬剤師などにご相談ください。

  • 温泉成分によっては肌が敏感になる場合もあります。体調を見ながら無理のない範囲でご活用ください。

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