見出し画像

【第7章】デザイナーと建築 — アマンを支える空間美学


アマンが世界中に展開するリゾートやレジデンスは、それぞれの土地の自然や文化に寄り添いながら、常に「アマンらしさ」を感じさせる独特の静寂と洗練を持っています。そこには、優れた建築家・デザイナーとのタッグによって生み出される “空間美学” が欠かせません。本章では、実際の開業時エピソードやデザイナー自身の言葉、他の高級ホテルチェーンとの比較を交えながら、アマンの空間がなぜこれほど特別なのかを解き明かしていきます。


1. アマン建築の原則:土地の息づかいをそのまま写し取る

1-1 土地の文化・自然の継承と再解釈

アマンでは、進出先の国や地域に根ざす伝統様式や素材を取り入れ、「地域が誇る文化を壊すのではなく、現代に再生する」 という姿勢が貫かれます。

たとえば、ブータンの「アマンコラ」 では、僧院建築を思わせる素朴な石積みを活かしつつ、床暖房や最新の断熱材を導入して冬場でも快適に過ごせるように設計しています。こうした 「ローカル要素+最新技術」 の組み合わせこそアマン流の真髄です。

1-2 ミニマリズム×高品質素材

  • 照明は控えめにし、ゲストを迎える瞬間から“静かで神聖な空気”を感じさせる。

  • 派手な装飾ではなく、石・木・水など素材が放つ自然な美を引き立てる。

  • フォーシーズンズが華やかなインテリアを用いるのに対し、アマンは「少ないほど豊か」という発想を徹底。

1-3 環境への配慮とサステナブル設計

  • 地元で採れる石や木材を優先的に使用し、敷地開発においても周辺住民を雇用。

  • 自然保護地域に建築する際は、エコツーリズム団体と連携し、“環境を壊さない建築”を目指す。

  • アマンジウォでは、周辺農家の田畑への影響を最小限にするため、雨水の排水路を再設計した実例も。


2. 個性豊かな主要デザイナーの足跡

2-1 エド・タットル(Ed Tuttle)

代表作:アマンプリ、アマンジウォ、アマンジェナ

  • 1993年「Gold Key Award(ホテルデザイン部門)」受賞。

  • 「その土地が持つ神話を形にすることが、ゲストに感動を与える鍵」と語る。

  • アマンプリ開業時、風の音が心地よく響くように建物配置を微調整。

2-2 ケリー・ヒル(Kerry Hill)

代表作:アマン東京、アマン京都、アマンコラ

  • 「禅の美を現代に繋ぐ」建築哲学。

  • アマン東京では、最上階ロビーに「空に浮かぶ森」を表現するため、巨木オブジェと水盤を配置。

2-3 ジャン=ミシェル・ガシー(Jean-Michel Gathy)

代表作:アマンヴェニス、アマンニューヨーク

  • ジョージ・クルーニー夫妻の挙式をアマンヴェニスで演出。

  • クラウンビル再生では、歴史的ファサードを保存しつつ、内部を最先端のインフラに一新。

2-4 ジャヤ・イブラヒム(Jaya Ibrahim)

代表作:アマンファユン、アマンダヤン

  • 地元の瓦屋根職人と連携し、古民家改修を実施。

  • アマンファユンでは、築数百年の寺院をできる限りそのまま残して再生。


3. アマンの空間美学を際立たせるポイント

3-1 静寂を生むレイアウト

  • 宿泊棟を分散させ、視線を遮るように配置。

  • 「誰もいない“私だけ”の空間」を感じさせる。

  • リッツカールトンが賑やかなロビーを作るのに対し、アマンは“静”を最優先。

3-2 光と影のドラマチックな演出

  • 日中は自然光を多く取り込み、夕方から夜にかけて間接照明で素材の陰影を際立たせる。

  • アマンギリのプールサイドでは、砂岩キャニオンに落ちる影が計算し尽くされている。

3-3 地域コミュニティへの配慮とエコロジー

  • アマンでは現地雇用やエコツーリズムを考慮しながら設計。

  • モルディブのアマン(アマンダル・バナナラ等)では、サンゴ礁再生プログラムを支援。

3-4 ストーリー性とパーソナルな体験

  • 宿泊ゲストに対し、建築物や部屋の歴史を説明するスタッフが常駐。

  • 「自分だけが知るリゾートの秘密」という特別感を生む。


4. 未来のアマン:新世代デザイナーとテクノロジーの融合

4-1 都市型レジデンスへの展開

  • アマンレジデンス(第6章参照)では、バーチャル窓景や屋内緑化を活用し、都市での静寂を追求。

4-2 地域参加型プロジェクト

  • アフリカや中東の新規開発では、現地の職人や伝統建築手法を積極導入。

  • サウジアラビアやオマーンなどで、どれほど「アマンらしさ」を表現できるかが鍵。

4-3 サステナブル素材・エネルギー効率の追求

  • ソーラー発電や省エネ技術の導入を計画。

  • 建築家と環境技術の専門家が連携し、CO2排出を抑える取り組みを拡大。


まとめ:アマンの空間美学は“伝統と革新の交点”

  1. 土地への敬意+ミニマルな表現

    • 地域文化や歴史に寄り添いつつ、過剰な装飾を排し「素材の声」を最大限に引き出す。

  2. 才能あるデザイナーとの対話

    • エド・タットル、ケリー・ヒル、ジャン=ミシェル・ガシーらが、それぞれの視点で「アマンらしさ」を追求。

  3. サステナブルな未来への進化

    • 環境保護と地域共生を重視し、次世代アマン建築の方向性を模索。


次回予告

第8章:アマンのマーケティング戦略と顧客像
広告をほとんど行わず、クチコミと限られた広報だけで世界中のセレブを惹きつけるアマンのブランド手法。次章では、「アマンジャンキー」と呼ばれる強固なリピーターを生むブランド戦略を詳しく解説します。

連載記事一覧(予定)

1. 第1章:アマンとは何か — その唯一無二の世界
2. 第2章:創業者エイドリアン・ゼッカの生涯と思想
3. 第3章:アマン創業史と資本変遷
4. 第4章:アマンのブランド哲学 — 「少客室」「秘匿性」「排他性」の本質
5. 第5章-A:世界のアマンリゾート一覧(アジア太平洋)
6. 第5章-B:世界のアマンリゾート一覧(欧州・中東・アフリカ)
7. 第5章-C:世界のアマンリゾート一覧(北米・カリブ)
8. 第6章:アマンレジデンス — 住空間としてのラグジュアリー
9. 第7章:デザイナーと建築 — アマンを支える空間美学
10. 第8章:アマンのマーケティング戦略と顧客像← 現在の記事
11. 第9章:アマンの体験 — ウェルネス、食文化、アクティビティ
12. 第10章:競合と比較するアマン — 他社事例との違い
13. 第11章:新ブランド「ジャヌ (Janu)」とアマンの未来
14. 第12章:まとめと今後の展望 — 至高のホスピタリティを超えて

いいなと思ったら応援しよう!