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保育園送迎バス置き去り事故について考える

福岡の保育園で、5歳のお子さんが送迎用バスに置き去りにされ、死亡するという大変痛ましい事故が起こりました。いち保育事業者として、ひとりの親として他人事とは思えず、大変心が痛みます。

今回は、報道などからわかる範囲で、子どもを預ける保護者の立場、保育事業者それぞれの立場で、こういった悲しい事故を防ぐために何ができるのかということを考えていきます。

某ニュースサイトのコメントなどでは、子どもを懲罰的に閉じ込めたのではないか、ということや、園長の対応や言っていることが矛盾していて何か隠しているのではないか、などの指摘がありますが、この記事では、当該事業者への批判などは主旨とせず、今後のために「私たちがすべきこと、できること」を中心に記載をしていきます。

事故の概要とポイント

報道によれば、登園時に使用した送迎用のバスに5歳男児を乗せたまま(置き去りにし)施錠をしてしまったことにより、死亡させてしまった、というのが事故の内容です。

事故が起こってしまった背景にいくつか重要なポイントがあります。

①日常的に送迎は園長が一人で行っていた
②降車時に後部座席まで目視をしていなかった
③乗り降りの人数確認を怠っていた
欠席の連絡がないことを疑問に思わなかった

上記については、
①人件費削減または人手がいないため園長一人での送迎だった
②後部座席まで必ず目視するなどのマニュアルがなかった(または守られていない)
③送迎時の人数確認ルールがなかった(または守られていない)
④保育園での出欠確認のルールがなかった(または守られていない)
ということが背景に考えられます。

どうすれば事故を防げたのか

事故は複数のミス(不手際)が重なって起きています。今回の事故では、複数名での送迎、後部座席まで車内全体の目視、乗車時と降車時の人数確認、保育園での出欠確認、いずれかが機能していれば防げた可能性は高いです。

①複数職員での送迎
送迎に限らず、保育は複数人で行うというのが大原則です。後述しますが、運営側の事情で人員確保に難があったとしても、最低限でも降車時の対応は複数名で行うべきでした。

②車内全体の目視の徹底
子どもが送迎バスで寝てしまい、しかも丸まって座席の足元で寝てしまっているということも良くあります。ご家庭でもそういう場面は珍しくないでしょう。そういった前提で車内全体を目視すべきでした。

③乗車・降車時の人数確認ルールの徹底
乗る時と降りる時の人数をきちんと数え、記録しておけば、万が一目視で見落としたとしても気づくことができます。日常的に送迎バスを使う家庭はある程度固定されているはずですので、名簿に日付と乗車欄と降車欄を作ってチェックを入れる帳票を作って記録する、ということをするだけでも防げたでしょう。

④保育園での出欠確認ルールの徹底
一般的には、園運営や安全確認の観点から欠席連絡がなく登園がない場合は保護者に確認の連絡をします。規模の大きな認可保育園ですと、担任ではなく事務(と園長)が保護者からの連絡を受け、担任に伝える場合が多いです。事務(と園長)と担任の連携がしっかりと出来ていれば、当該児童がいないことに気付けたはずです。

⑤ガバナンスの構築
ここからはあくまで邪推ですが、家族経営の社会福祉法人で1か所のみ運営の保育園ですので「園長がルール」となっていたのではないか、と考えられます。
各クラスのことは担任や他の保育士が色々と把握し対応をしていますが、クラスの外や「園全体」のことを担当する人がおらず、園長が自分の感覚で対応していたが故に、ルールがない(または守られていない)状態になっていたのではないでしょうか。
こうなってしまうと、安全管理は属人的なものとなってしまいます。経験があり、しっかりと現場を管理できる保育士さんがいるクラスは問題ありませんが、ひとたび「管轄」が曖昧になった途端にこのような事故につながってしまいます。また「園長の安全意識=園全体の安全意識」のようになってしまうので、園長の意識次第でリスクが左右されてしまうことになります。
園全体で組織的に安全対策に取り組むこと(会議体を持つなど)、外部研修などを活用し、安全対策についての知見を園長をはじめ職員がアップデートすることが重要になります。

保育事業者の視点

◆人手が足りなかったのか?
朝の時間帯に出勤する職員が少なかった、という話も出ていますが、保育事業者としては、とてもよくわかる話ではあります。
もちろん、少ないから複数人での対応をしないで良いという話にはなりませんが、これは「どこにでもあり得る事情」だということは、利用者の方は心に留めておいた方が良いでしょう。
当該法人の決算資料を確認したところ(社会福祉法人ですので情報公開がされています。ご覧になりたい場合はこちらから。)、昨年度はその前年度より収入が400万円程度増えている一方、人件費は700万円程度下がっています。保育所というのは、基本的に入園している子どもの人数で収入が決まりますので、素直に数字を読むと「子どもが増えて、職員が減った」と解釈できます。
「職員が減った」部分に関しては、何らかの事情で退職等があり、人員の補充ができなかったのか、経費削減として意図的に減らしたのかは、公開されている情報では判断がつきませんが、前年度よりも相対的に人手が減っていたことは事実でしょう。
また、一般的には「朝」と「夕方」の時間帯に働く人の採用が難しいため、朝の時間帯の人手に苦労していたことは考えられます
繰り返しになりますが、だからといって安全対策をないがしろにして良いわけではもちろんありません。

◆安全管理意識が低かったのか?
先述の通り、園全体としての安全管理が不十分だったと考えられ、その責任は園長にあります。現場の保育士さんたちがどのような安全意識だったかは報道などからは判断できませんが、いくら現場がきちんとしていても、組織的に安全管理に取り組まない限り事故のリスクは高まります

◆行政監査はどうなっていたのか?
一般的に、認可保育所は年に1回行政の監査を受けます。
主に「保育現場が規定通り安全に整備されているか」「配置基準などの運営に関する基準に沿って運営が行われているか」「会計処理などが適切に行われているか」といった内容をチェックします。
監査をする視点として「保育所の運営として問題がないか」という点と「補助金が適切に使われているか」という点で見られます。
報道にもある通り、今回事後の発端となったバスによる送迎は「補助金対象外」であったために、監査の対象ではなかったようです。
ですが「保育所の運営として問題がないか」という視点で考えると、送迎バスの運行オペレーションは重要なことで、行政の監査としては不十分であったと言わざるを得ないと思います。

保護者として何ができるのか

お子さんを悲惨な事故から守るために保護者として出来ることはなんでしょうか。1つは「危ない保育園を避ける」こと、もう1つは「とにかく保育園とコミュニケーションを取る」ことだと考えます。

多くの方が入園の前に園見学に行かれますが、その際に安全対策について色々と質問をしてみてください。実際にきちんと取り組んでいれば難なく答えられる質問です。ここで、安全のためのルールや取組み、研修などについて答えが出てきたら良いのですが「優秀な人材が揃っている」や「私がしっかり見ている」というような答えに終始する場合は少し注意が必要かもしれません。
あとは、すれ違う職員がきちんと挨拶してくれる、整理整頓できている、掃除が行き届いている、など当たり前のことがきちんとできているか、はとても大事なポイントです。こういったことは全員に意識づけがされていないとなかなかできないので、これらが出来ているということは、少なくとも園全体として取り組む土壌があることがわかります。

とは言え、とにかく入園できるところに入れるしかない、という場合が多いのも現状です。
その場合は、園長や担任とよくコミュニケーションをとってください。そして気になる点は理由をきちんと添えて(ここ大事)遠慮せず伝えましょう。決して媚びを売る必要はありませんが、園長も保育士さんも人間ですので、よくコミュニケーションを取る人の意見は気になりますし、取り入れようとします。
気になる点の内容によっては、行政に相談をすることも一つの方法ですが、行政が動くのはそれなりに大きな事案の場合ですので、その点は心に留めておいた方が良いでしょう。
コミュニケーションを取り意見を伝えたりする中で「どう考えてもおかしい」ことがあれば、最終的には転園も視野に入れるべきと考えます。

以上、今回の事故の背景および防止策の考察、保育事業者および保護者がそれぞれの立場ですべきことなどをまとめました。

このような悲しい事故が再び起こらないよう、きちんとこの事故が検証され、保育所の安全対策として生かされることを願っています。

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